第265話 大阪市中央区日本橋のまぜそば(250gヤサイマシマシニンニクマシマシアブラ)

「空いているな……」


 仕事帰りラッシュアワーの御堂筋線が、以前は考えられないような人口密度だった。あっさり座れてしまうほど。世の中はテレワークが加速して、通勤している人口自体が減っているのだろう。


 だが、哀しいかな、テレワークにはならず、出勤は続けねばならない。


 自宅に閉じこもる最善手が封じられるなら、適度な外出でも極力身を守るよう心掛けるのである。


 マスク着用、除菌ウェットティッシュでの小まめな手指の消毒。そういった小さな積み重ねもあるが、もっと直截的な手段もあるだろう。


 かつて、世界で猛威を振るった黒死病ペスト


 その際に嘴のようなペストマスクが使用されていたが、あれは中にハーブなどを入れていたという。どちらかと言えばハーブの香りに効果を見出していたが、実際に抗菌作用のあるハーブも利用されていたようだ。


 また、当時ペストに感染しない盗賊団がいて、その秘訣は口内に抗菌作用のあるハーブを含み、全身にそれらを塗っておくというものだった。


 その中に含まれていたのは、ガーリック。


 そうだ、ニンニクだ。


「やはりここは、ニンニクだ」


 かくして私は、夕食を食うべく難波駅へと。


 NAMBAなんなんを抜けてミナミ千日前商店街に入り、しばし進んで右折。道具屋筋手前でミナミに折れ、途中で東へ、そしてオタロードへと重なるところで南へ曲がれば、目的の店があった。


「少し並んでるが……まぁ、これぐらいなら大丈夫か」


 開店間際の店外には誤認ほどの列があったが、どうにかなるだろう。

 

 ほどなく開店し、細長い店内へと。まずは、食券の確保だ。


「今日は、久々にまぜそばにするか」


 なんとなく、そういう気分だったのだ。


 そのまま、奥から詰めてカウンター席に付き、食券を出す。


「麺の量は?」


 315gまでいけるが、


「250gで」


 ほどほどが大事だ。


「ニンニクどうしますか?」


 さて、これが本題だ。


「ニンニクマシマシで、後、ヤサイマシマシ、アブラ」


 当然、ニンニクはマシマシだ。これが勝利の鍵だ。


 あとは待つばかり。先日五周年を迎えた『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。いや、『5thシックは魔法乙女』とすべきか?


 現在は五周年記念イベント。五乙女のパレードだ。五悪魔の出番はまだ先で新しいリリーは出てこないが、ほどほどにラナンとロザリーを手に入れて順当にイベントステージを回している。


 そうして、二度ほど出撃したところで、注文の品がやってきた。


「おお、いい感じだ……」


 高く積み上がった野菜の山には、フライドオニオンとチーズのトッピング。麓には解したチャーシューと、アブラ、そして大量のニンニク。


 なんとも、健康的な外見じゃないか。


「いただきます」


 まずは、野菜を崩す。正直、この状態で混ぜたら麺が溢れるからな。


「なるほどなるほど……」


 アブラも一緒に掛かっていたようで、オニオンの風味にチーズとアブラの旨味で、もりもり喰えるな。


 山を崩さないように慎重に頬張るが、時々ニンニクを絡め、逆にオニオンとチーズとアブラを裾野に。


 天地を返す前に、ある程度上下を入れ替えておくのだ。


 そうして、いよいよ、麺への導線ができた。


「くっ……重いな」


 まだ山を崩したり内容で、天地が返らない。


 更に喰いすすめ、ようやく姿を現した麺に齧り付く。


「ああ、こういう、味か」


 久々で忘れていたが、カラメにしなかったので濃厚な出汁とアブラの旨味がガツンと前に出てくる。更に、ニンニク。


 ジャンクだ。


 少しずつ麺を引っ張り出し、まぜあわせ、本来の形になっていく。


 ここにくると、味も渾然一体というか混沌というか。


 ドギツイニンニクとあれやこれやの旨味が合わさって、脳がバグりそうだ。


 だが、勢いはついた。


 しっかりニンニクを摂取して口内の抗菌を高めつつ、麺と野菜を口いっぱいに頬張る幸せを噛み締める。


 一味と胡椒で風味を変えつつ、ジャンクを楽しむ。


 さすれば、終わりは早い。


「もう、終わりか」


 まぜそばにしては多くの汁が残った丼。そこには、大量のアブラが浮いていて、なんとも趣深い。


 流石に、全部飲むのは気が引けるが。


 一口、二口啜る。


 アブラと、ニンニク。


 健康的な味わいを噛み締め。


 最後に水を一杯飲んで一息。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「さて、少し歩くか」


 オタロードへと、足を向ける。

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