第223話 大阪市東成区深江南のチャーシューメン+チクネギ(=メンマネギ大盛)

 土曜の昼。


 遅い昼食に、老舗の味をいただくのも乙なものであろう。


 大阪メトロ千日前線新深江駅の東改札の北側から出て、東へ真っ直ぐ。


 昔ながらの工場町の面影が色濃く残る町並み、鳶職用のあれこれの店の前を通ったりしながら、歩くこと十分程度。


 途中、半世紀ほどの時を経た老舗ラーメン屋があるが、そこではない。


 そこから、ほんの少し東。


 区画の端の三角州のようになった部分に目的の店はあった。


「空いているな」


 流石に、昼時を大分過ぎているからか先客は一人だけ。


 さっと入り、カウンターの端に陣取る。


 狭い店だ。厨房の周りに申し訳程度にカウンターがある程度。


 令和の世ながら昭和の趣を色濃く残す老舗の空気。


 悪くない、いや、むしろ、いい。


 メニューは、中華そば、大玉中華そば、チャーシューメン、大玉チャーシューメン、ワンタン、ワンタンメンとシンプルだ。


 ここは、


「チャーシューメン」


 だが、まだ、終わらない。


「ネギ、メンマ大盛りで」


 トッピング追加だ。特にメニューにはないが、こういうシステムになっている。


 誰かがやっているのを見て覚える、そんなサービス。因みに、メンマ大盛りはかつては無料だった気がするが、現在は50円。時代だ。


 それはさておき、あとは待つばかりとなれば『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』である。現在は、新規のイベント中。とはいえ、ガチャでリリーがでなくてモチベーションが下がり気味なのが辛い。サイエンスなリリー、欲しかった……


 と悲嘆に暮れていると、注文の品がやってきた。


「いいねぇ」


 丼の表面を覆うように並ぶチャーシュー。その上に散らばるネギ。メンマは、チャーシューの下に入っているようだ。褐色のスープの下から、太く黄色い麺がのぞいているのが趣深い。


「いただきます」


 何を置いても麺を引っ張り出す。つるりとしてこしのある太麺を頬張れば、出汁の旨味と醤油のしょっからさが追い駆けてくる。


 この塩分高めな味わいが、この麺の特徴である。かつて、汗を流した労働者向けの料理という側面があるとかないとか。


 次に、チャーシュー。


 味付けはなく、豚そのものの素朴なものだが、味のしっかりしたスープに浸すと豚の味わいが引き出されてとても旨い。


 その下から現れたメンマは、やや柔目だが、きつめの味の中で優しい味わいの箸休めとなる。


 それらに紛れ込むようにネギが絡んでくるのが、とてもいい。


 ボリュームのあるモチモチの麺を頬張りながら、チャーシューメンマネギを混ぜ込んで楽しむ。


 シンプルな中華そばの要素ながら、味は強烈。


 あっさりしているのだが、濃い。


 そこが、高井田のラーメンと呼ばれるものの最大の特徴だろう。


 気がつけば、固形物は食い切り、スープが残るのみ。


 なんだか、寂しい。


 だから。


 丼を持ち上げ。


 傾け。


 中身を胃の腑へと。


「ふぅ」


 明らかに塩分過多だが、今、一時の多幸感と引き替えなら悪くない。


「ごちそうさん」


 会計を済ませて店を出る。


「さて、返るか」


 新深江駅のある、西側へ足を向ける。



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