第192話 大阪市中央区日本橋の魚介つけ麺(ヤサイマシマシニンニクマシマシ魚粉カラメ)
新しい年度が近づき少々ナーバスな時期。
有休を取得して四連休を確保した私は、買い物のために日本橋を訪れていた。
買い損ねていたラノベの新刊やらTRPG関連の雑誌やら百均で細々した日用品などを購入する。
やはり、買い物は日本橋に出ると捗るな。散財するとも言うが。
「さて、何か喰って帰るか」
鋭気を養うためにガッツリいきたいところだ。
「そういや、昼メニューがあったな」
ふと思い立ち、オタロードを北上して抜け、少し先の店を目指す。
「一杯か……」
昼時を少し過ぎてはいるが、よく考えれば春休み。平日とはいえ、それなりの人出はある。前に二人ほど並んでいるようだ。
それでも、特に急ぐわけでなし。
閃きを信じて待つことにしよう。
と、先に食券を……
「あ、食券機故障中か」
新しい食券機があるのだがまだ稼働していないようだった。
少し奥に入ってカウンターの一番手前で店員に直接注文するシステムになっているようだ。
早速注文に向かう。
昼限定の釜玉チャーシューというものがあるが、どうもいまはそういう気分ではない。サービスメニューは他にもあるのだ。ここは、オーソドックスに。
「魚介つけ麺を、中で」
いつもカレーが多いので基本系にする。麺量は、つけ麺なら 315gぐらいいけるだろう。
と、この時点でニンニクの量を問われたので、
「ニンニクマシマシヤサイマシマシ、あと、魚粉カラメで」
詠唱を済ませる。
マシマシは追加料金だが、夜の料金よりそれでも安い。問題はない。
席はすぐに空いて、入って少しのカウター席へと。
注文も済ませたので、水で軽く喉を潤してから、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は、『デ・ジ・キャラット』とのコラボでうさだ、もとい、ラ・ビ・アン・ローズ を出撃させてイベントミッションをこなしたりする日々である。
とはいえ、ここまでの道中でAPを使い切っているので出撃はできない。おでかけをチマチマと仕込んで終わりとする。
続いて、読みかけのゴブリンが出たらゴブリンを殺す人の外伝小説を読み進める。TRPG的世界観が心地良い。いや、初期はゲームブックか。
そんなことを考えていると、注文の品がやってきた。
褐色のつけ汁と、魚粉に塗れた山盛り野菜の載った丼。麓には肉塊と刻みニンニク。麺は見えない。だが、それがいいのだ。
「いただきます」
まずは、野菜をつけ汁に浸すが。
「おお、一瞬乗ったな」
表面の脂が固まっていたのか、野菜が数瞬スープの上に留まり、膜を破るようにつけ汁へと飲み込まれていったのだ。
いい感じだ。
そんな状態でスープを纏った野菜は、
「こってりしていいなぁ」
旨いに決まっている。
脂は、一種の麻薬だ。控えるべきだが、無性に欲しくなることもある。一般的な魚介つけ麺のつけ汁とは少し異なり、通常のラーメンスープ寄りなのが嬉しいところだ。
これなら、バクバクと野菜を食える。糖質の前に大量の野菜を摂取するのは健康にも大変宜しい。何という健康食だ。
「少し変化を加えるか」
途中で粒胡椒を掛けて喰うのもまたいい。味が締まるというか。
そうして、徐に肉を喰らう。出汁をしっかり吸って角煮といった方がよい代物だが、つけ汁をまとうと元々の味に脂っこい魚介豚骨の旨味が加わると背徳的な味わいだ。野菜で追い駆けるのもまたよい。
ここで、野菜の山の奥から満を持しての麺の登場だ。
「うむ、喰らっているなぁ」
固めの麺は食べ応えがあり、満足感が高い。掴めるだけ掴んで浸して頬張る。それだけで、幸せを感じられる。食の悦びだ。
「心を回復させるには食だなぁ」
色々とややこしいことになってメンタルも疲れ気味だが、マシマシはそれ癒やしてくれる。心身を労る健康食品だ。
だが、
「ちょっと、中は多かったか」
少々お腹に負担が掛かってきた気がする。
「いや、そんなことはない」
野菜肉麺をモリモリ。いける。大丈夫だ。
水を飲んで休憩を挟み。
再び食す。
再び、少し長めの休憩。
「……ここまできたら、後には退けないな」
麺はまだ、結構残っているが、それでも、やらねばならぬ。
思い切りよく全てをつけ汁に放り込み。
深呼吸。
「よし」
気合を入れて、箸を構え。
麺を掴んで頬張る。
旨い。
味は確かだ。
これなら、いける。
いけるんだ。
黙々と、全てが入ったつけ汁の器に全てを賭けて挑む。
飲み込むのだ、全てを。
そうして。
「ふぅ、ようやく、か」
全ての固形物を胃の腑に収め、後にはつけ汁が残るのみ。
スープ割りもあるが。
「さすがに、控えよう」
最後に、水を一杯呑んで一息吐き。
「ごちそうさん」
店を後にする。
「さて、帰るか」
くちくなって重い腹を抱え、駅を目指す。
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