第177話 大阪市浪速区難波中の楓G郎(200g野菜マシマシニンニクマシマシ辛めマシマシ)
「いい映画だった……」
かつて週刊少年ジャンプに連載していてコミックスも全巻揃えるほど好きだった『ニセコイ』が実写映画化されたのである。
実写化にアレルギー反応を示す者も多いが、要するに『アレルギー』なので理屈じゃない。いくら成功例を示しても、実写化=失敗と思い込み「失敗しかしない」と意味不明の言葉を繰り返す可哀想な人達なので気にすることはないだろう。
楽しんだ者勝ちなのである。
今回の実写化はトレラーの段階からコメディに振り切った演出で期待していたところ、泣いて笑って楽しめる期待以上の良質のエンタメ映画でとても満足できる内容だった。
冬に備えて取った休みを有効活用出来たというものである。
だが、心は満たされても、腹は満たされない。
「腹が、減ったな……」
昼過ぎの終演時間では、尚更だ。
「ここは、ガッツリいくか」
かくして私は劇場を後にして、オタロード方面へ。
ソフマップなんば店ザウルス前の店で、足を止める。
「……行ってしまうか」
幸い、そこそこ入っているが席に空きはあった。
店内の食券機前に立ち、この店のメインではなく、ガッツリ系のメニューの食券を確保する。
席に着き、店員に告げるのは。
「野菜マシマシニンニクマシマシ辛めマシマシ」
いつもの呪文である。
後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動するが、今はイベントの谷間。おでかけを仕込むだけで追え、週刊少年サンデーを開く。
「おお、ハジメちゃんの過去が!」
読み切りで、本編で仄めかされつつ明かされなかった要素が公開されるサプライズを堪能していると、注文の品がやってきた。
「おおぅ……」
広めの丼に、丼の高さの二倍はあろうかというヤサイの山。頂上にはこれでもかと刻みニンニク。麓に乗る大ぶりのはずのチャーシューが小さく見える始末。別皿のノーマル量の脂が、なんとも寂しい。
「ここ、来るたびに盛りが激しくなってないか?」
高いだけではない。みっしりと詰められているのだ。
「これはさすがにキツイが……いいものがあるな」
頂上のニンニクを崩さず食べ進めるのは厳しいとみて、アブラの別皿に少しずつ移す。更に、いくらかの野菜も移したところで、ようやく食べ進めることができるようになった。
「優しめの味だなぁ」
獣臭さはそこまでではなく、旨味甘みが強い。これなら、モヤシはいくらでも食べられるぞ。
モリモリ、ムシャムシャ。
「モヤシが旨いなぁ」
モリモリ、ムシャムシャ。
「減らない、な……」
モリモリ、ムシャムシャ。
「もや……うま……」
山を崩さないようにという地道な食の進行に、少々言語野がやられてきたようだ。
「そうだ、これはモヤシスープじゃない。ラーメンだ」
腹に収めたことでほどよいサイズになった野菜の山をレンゲで抑えつつ、麺を引っ張り出して天地を反す。
「うんうん、確かに麺があるな」
しっかりと味を吸った太麺は、噛めば噛むほど脳に喜びがあふれてくる。炭水化物の魔力だ。
モキュモキュと、咀嚼していけば、段々と変化が欲しくなってくる。
「なら、これを入れてみよう」
すりごまを振りかけて食せば、風味がいい塩梅で食が加速する。
「次は、これだ」
からし高菜を少量入れれば、ピリリとした旨み。
だが、そこで気づく。
「ああ、最初にどけたニンニクを入れてなかった!」
慌てて野菜とニンニクと脂が混然一体となった物体を丼にぶち込んでかき混ぜ。
口へ運べば。
「ガツンと来やがるな……」
大半をどけてしまっていたので、ここにきてニンニクの本気が伝わってきた。
というか。
「辛い、な……」
スープが冷めて来たところに入れた分、成分が余り飛ばずにスープに溶け込んでしまったようだ。
違った刺激を加えるために白コショウを振りかけて、
「いや、いける、いけるのだ」
コショウとニンニクの刺激で半ば感覚をマヒさせるようにして、脳にぶち込まれる多幸感に身を任せる。
なんだか、何を喰っているのか解らなくなってきたが、容赦ない旨味が脳を刺激していることだけは確かだ。
「うま」
語彙力がおかしくなってきたところで、丼の中身はモヤシの破片が浮かぶだけの状態になっていた。
少しずつ追い駆けてみるが……
「さすがに、このスープはニンニクが効きすぎてヤバいな」
そのまま飲むと、辛くて痛い。甘くて苦いマーマレードにはほど遠い。そんな意味不明なことを思い浮かべながら、箸で何とかサルベージできるだけのものは胃に収め。
最後に、水を一杯飲んでリフレッシュ。
荷物を纏め。
「ごちそうさん」
店を後にした。
「今日の教訓。ニンニクはスープが熱いうちに混ぜろ」
勉強になった。
そう、心から想いながら、諸々の用事を済ませるため、オタロードを行く。
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