第65話 大阪市浪速区難波中の黒とんこつラーメン+炒飯
地球とまた仲良くなってきてしまった。
これではいけない。解っている。もっと、地球が引き付けたくなくなるような、そんな身体を手に入れようと頑張ってきたのではなかったのか?
それでも、身体を壊しては元も子もない。
仕事も忙しくなってきた。
疲れる状況でも地球に抗って無理無茶無謀に走って健康を損なうのはガチの死亡フラグ。
それなら、まだ、脂肪フラグの方が、ずっとましだ。
「よし、だから私は、ラーメンとチャーハンのセットを喰って帰るぞ!」
喰いたいものを喰う。
身も心も癒やされる、たった一つの冴えたやり方。
理論武装は完璧。私は、難波の地に降り立ち、高島屋の側にあるめぼしいラーメン屋へと向かう。
「ここのところ、豚骨醤油や鶏ガラ豚骨とかばっかりだったからな……」
そんなわけで、いわゆる博多ラーメン的な豚骨白湯を基本とする店をチョイスしたのだ。
「チャーハンセットがあるのも、確認済みだが、しかし……」
白、赤、黒の三食があるのだ。
光と火と闇。カルミアとジギタリスとダチュラ、プルメリアとラナンとロザリー……
やはり、有利属性などはあるのだろうか?
「ここは、闇属性でいこう」
水属性の青があれば、迷わずいったんだが、きっとそういうことじゃない。
それぞれに餃子、炒飯、両方とセットにできるが、餃子が苦手な我が身は炒飯とのセットに決まっている。
食券機を見れば、トンギョとかトンチャとかが書いているのだが、
「トンチャ……とんこつラーメンと炒飯のセットの略か。となれば、これだな」
黒とんこつラーメン+炒飯、つまり『黒トンチャ』の食券を購入し、カウンターの隅に陣取ることにした。
即座に食券を出すと、オーソドックスなとんこつラーメンらしく、麺の固さが聞かれるので、「カタメ」をオーダーする。気取って粉落としとかやっても、バキバキ過ぎて今一だったりするものだ。己の分は、弁えておくべきだ。食べ慣れてもいないのに、気取って粉落としを頼んで後悔した人間からの、忠告だ。
「さて、今日から新イベントだったな」
『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動して、確認すると、
「おお、イベント報酬使い魔は、めがねっ娘ナースか! これは、いい」
今回はナースイベントだが、五乙女や五悪魔ではない、他の使い魔たちにスポットが当たるタイプのイベントのようだ。昔、ケイブ祭でナースがテーマでポロリがあってピーポーだったのを思い出したりもするな。
とはいえ、出撃する時間はない。手早くおでかけを仕込んだら、注文の品がやってきた。流石、早い。
「これは、これは」
白いスープの上に、黒い脂の層が浮いている。黒とんこつは、とんこつのスープに焦がしニンニクの黒マー油をプラスしたものなのだ。
具材は、大ぶりのチャーシュー二枚と、山盛りのネギ、適度にもやし、そして、たっぷりのキクラゲ。
ネギの頂上に、ちょこんと乗った辛味噌も見た目に味わい深い。
一歩の炒飯は、表面に白いコーティング。
「とろろ……なわけはないな」
黄身の周囲がうっすら白くなる程度に、半熟より少ししっかりめに火を通した目玉焼きが、表面を覆っていたのだ。
あと、八角形の更に入っているのも趣があってよい。
ともあれ、こいつはどちらも上手そうだ。
「いただきます」
箸を取り、即座にラーメンを啜る。
「この極細麺と、とんこつの風味……なんか、すげぇ久しぶりの味だなぁ」
子供の頃は、これが一番好きだった。だが、年齢と共にラーメンという食べ物の可能性を知ってしまい、とんとご無沙汰してしまった味。
なんだかノスタルジックな旨みを感じながら、しばし食べ進んでいたのだが、
「でも、なんだか物足りなくなってきたな……」
自家製マー油はとても優しい風味で、ベースのスープを引き立てるに徹している。それは解るし上手いのだが、やはり、知ってしまった人間は貪欲になってしまうのだ。
「辛味噌、投下」
ネギの上の辛味噌をスープへおとして混ぜ、一口。
「うんうん、ピリ辛、いいな……」
刺激が加わり、ネギの風味にもマッチする。
「ここで、炒飯だな」
白身で包むようにして、れんげに山盛り救って口へ運ぶ。
「これは、炒飯だ。パラッパラの炒飯だ!」
因みに、私の中では、パラパラ:炒飯。しっとり:焼き飯という分類である。
そういう意味では最上級の炒飯である。中華鍋で高火力で豪快に炒められていただけのことはある。シンプルにチャーシューと玉子を具材とした味もまた、基本に忠実。そこに、玉子の丸味が加わっていい塩梅だ。基本に忠実は味は、少々塩辛いからな。
まぁ、そんな理屈抜きで、
「相性抜群だな」
ラーメンと炒飯。三角に足りない二角でバクバクと進んで行くが、
「ここでまた、ラーメンが負けだしたが……これしかない、な」
備え付けの摺り下ろしニンニクを徐に空け、スプーンに山盛り一杯。
「ふふ、スプーン一杯で驚きの臭さに、だ」
臭いは上手い。ξは閃光のハサウェイ。
計算通りに加わったパンチで、またラーメンが持ち直して炒飯とバトルを繰り広げる。
とはいえ、行き着く先は全て私の胃袋。闘えば闘うほどに、私の胃袋は満たされていくのである。
「今日のところは、これくらいにしておいてやろう……」
ラーメンと炒飯が壮絶な殴り合いの末に、負け惜しみのようなことを言いながらも好敵手との出会いに思わずニヤリと笑い合うような、充実感溢れる食の体感は、終わった。
ラーメンどんぶりには一滴もスープはなく、八角形の器には米粒一つ残っていない。
戦い抜いたラーメンと炒飯に内心で拍手を送りつつ、最後に水を一杯飲んで一息入れ、
「ごちそうさん」
店を後にする。
「戦いの後は、クールダウンが必要だな」
メロンブックスで新刊の小説を漁るため、オタロードへと向かう。
少しでも、脂肪を燃焼させるために。
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