第57話 大阪市東成区大今里のスタミナラーメン+ジャストサイズ炒飯+生ビール

「いい天気だ」


 四月に入り、新しい年度を迎えていた。

 

 桜の季節ではあるが、残念ながら近隣地域では開花が遅れていて、近所の公園の桜の木は五分咲きにも至っていなかった。


 とはいえ、花より団子で花見をするのなら、絶好の日和だろう。


 そんな日に、家に閉じこもっているのも勿体ない。


「散歩がてら、昼飯に出掛けるか」


 そうして、最近は足を向けていなかった辺りへと向かう。


「暑いな……」


 昨日が肌寒かったので冬物のコートで出てきてしまったが、この陽気なら春モノのコートで十分、いや、それ以前にコートはいらなかったかもしれない。


「まぁ、サウナスーツのようなものと思おう」


 重力に抗うための装備とみなし、敢えてコートは脱がずに歩き回ることにした。


「ふぅ、いい汗かいたな」


 額に滲んだ汗を拭いていると、ちょうど視界に食事処が入ってきた。


「そうだな。歩いたし、少しはガッツリ目に行ってもバチはあたるまい」


 そのまま店へと足を踏み入れた。


「色々あるな……」


 この店舗は初めてだが、至る所に店舗を構える庶民的なチェーンの中華料理屋だった。定番の餃子やらエビチリやら唐揚げやらが、手頃な価格で頂ける。更には、麺類もそれなりに種類があった。


 セットにするとお得なのだが。


「餃子、喰えないんだよなぁ……」


 どうにも体質に合わないのか、餃子はすぐに胸焼けしてしまって食べられないのだ。この店は餃子をメインにしているだけあって、大概のセットメニューには餃子が付いてくるため、一品丸々残すのが解っていてセットメニューを頼むのは勿体ない。


「なら、単品で……お、いいのがあるじゃないか!」


 このチェーンのラーメンで一番好きなスタミナラーメンを見付けてテンションが上がる。店によってあったりなかったりするので、これは嬉しい。


「炒飯も小さいサイズなら安いな……よし、実質半チャン定食にしてしまおう」


 動いたから、これぐらいは大丈夫なはずだ。


 早速店員に注文を告げる。


「スタミナラーメンと、ジャストサイズの炒飯」


 それで通りそうになったところで、


「あ、生ビールもお願いします」


 思わず注文してしまった。


 先に持ってくるかとの問いにも、


「先に」


 と答えてしまう。


「汗をかいたからな。水分補給だ」


 注文が通ってまもなく出てきた中ジョッキを煽る。


「生き返るなぁ」


 人心地着いたところで、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。


 現在、二周年記念の紅白歌合戦的総選挙イベント開催中だ。五乙女五悪魔が紅白2チームに分かれて競い合う。


 専用イベントステージへの出撃=応援となり、その獲得ポイントの高いチームが勝利。更に、チーム内のキャラを装備することでそのキャラに対する応援ポイントも入り、チーム内で最も獲得ポイントが多いキャラがセンターになる、という総選挙イベントでもある。


 当然、リリーのいる紅組を応援しているが、中々チーム内順位が芳しくないのが哀しい。


 その中で、できる限りの応援はしているつもりだが、


「残念ながら、出撃している時間はないか」


 回転の速い店だ。間違いなくステージ途中で食い物がやってきてしまうだろう。なので、大人しくおでかけだけ仕込んだところで、案の上、注文の品がやってきた。


 白菜キムチとニラ、そして豚バラの入った赤いスープのスタミナラーメン。その名の通り、スタミナの付くに違いないと思えるラーメン。


 それに、小さ器に入ったごはん一膳分あるかないかぐらいの炒飯。サイドメニューとしては、ちょうどいいサイズだ。


「頂きます」


 スープを一口啜れば、キムチの旨みとニンニクの風味がガツンとくる。


「この味が、いいんだよなぁ」


 まぁ、某地域のラーメンのパク……オマージュと言えばそうなのだが、単なるキムチラーメンでもなく、独特の旨みが感じられる。


 他意はないが、この店には他にもスープがドロッとしたこってりラーメンもある。長いこと食べていないが、あれもあれで、美味しかった。


 と、今は目の前のラーメンだ。


「麺は、基本どれも同じなんだけど、これはこれで」


 この店のラーメンは、黄色い細めのストレート麺一択。これはこれで、飽きない味わいがあるというか、何にでも無難に合う。勿論、このスタミナラーメンでも然り、だ。


「豚も、うん、こういうのでいいんだ」


 チャーシューではなく、キムチとニラと炒めたと思われる少々硬めの豚肉は、変に飾っていない親しみ易い味わい。


「さて、炒飯は……うん、思いの外、食べやすいな」


 パラッとしたタイプで、脂っこさを感じないのでそこまで重くない。


 だが、だからこそ。


「このラーメンと相性いいなぁ」


 まぁ、ラーメンと炒飯という時点でそうそう外さないのだが、ガツンとくるスープの旨みが残る口内に炒飯をかき込むのは、健康に対する背徳感を感じつつも脳内に何かが出てきて多幸感に包まれる。


「ここに、ビールも行っちゃうか」


 更に、その後味にビールを注ぐ。


 すると。


 ラーメンを食い、炒飯をかき込み、ビールを飲む。


 完璧なトライアングルが完成する。


 とても、幸せな時間。


 食の喜びを満喫して、過ごす。


「ま、こうなるわな」


 あっという間にビールと炒飯は無くなり、ラーメンのスープが残るだけとなっていた。


「これぐらいなら、大丈夫だな」


 今は戒めを忘れ、完飲すべく丼を傾ける。


 辛味とニンニクの風味が織りなす旨みをごくごくと飲み干す。


「ふぅ」


 最後に、水を一杯。


 とても、満足な食事だった。


「ごちそうさん」


 会計を済ませて、店を後にする。


「さて、腹ごなしにもう一歩きするか」


 気の向くまま、足を運ぶ。


 

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