第50話 大阪市中央区日本橋のカレーラーメン(160gヤサイマシマシニンニクマシマシカラメ)
「流石に疲れたな……」
日曜の夜についつい遅くまで飲んで終電になってしまったりしつつ迎えた月曜日。
どうにか仕事をこなしたものの、いつになく強い疲労感が全身を包んでいた。飲み過ぎて、肝機能が低下しているのも関連しているのかもしれない。
こういうときは、しっかり喰うに限る。
更に、肝臓に良いモノも摂取できれば言うことはない。
肝臓に効く食べ物といえば、やはり『ウコン』であろう。身近にあるウコンを使った料理……そう、定番のものがあるじゃないか。
そこに、『しっかり喰う』の要素も足せば、行くべき店は自ずと決まっていた。
「ちょうどいい時間だな」
かくして訪れたのは、毎度のオタロードの北側に位置する店である。冒険するよりこんなときは、慣れた店で確実に行くべきだ。
開店から少し時間が経っているが、待ちは二人ほど。タイミング的に最初の客が食い終わる頃だから、それほど待たされないで済むだろう。
さっさと食券機に赴き、『つけ麺』の食券を購入した。
「さて、アクティブポイント稼がないとな」
入り口の待合用の椅子に腰掛け、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。
現在のイベントのアクティブポイント達成報酬とアクティブランキング報酬が【糖味】リリーなので、頑張らない理由が見つからないのだ。
昨日は飲み過ぎてAPを使い切る前に落ちてしまったので、少しの時間でも活用してポイントを稼がねばならないのだ。
「モノクルも、眼鏡だ……」
【空怪盗】ルチカを育成しつつ、ラストスパートの出撃を一回こなしたところで、直ぐにお呼びが掛かって席へ案内される。
「あ、カレーラーメンで」
つけ麺の食券は、カレーラーメンの食券も兼ねているのである。
そう。
肝臓の事を考えるなら、ターメリックが欠かせないカレーが最適なのである。
「麺は160g、ヤサイマシマシニンニクマシマシカラメで」
更に、炭水化物を少し減らし、代わりにヤサイとニンニクをプラスすることで体にいいことこの上ないカスタマイズの完了である。
「さて、続きだ」
再び、アクティブポイント稼ぎに入れば、時が経つのはあっという間だ。
ちょうどAPを使い切ってこれ以上出撃できなくなったところで、
「カレーラーメンです」
注文の品がやってきた。
堆く積まれたキャベツとモヤシの山には、カラメでプラスされたカレー粉がまぶされている。その頂に乱雑とも言える豪快さで鎮座するのはたっぷりの刻みニンニク。麓には並べられたブツ切りの豚。
何より、漂うカレー臭。
「こいつは、食欲がそそられずにはいられない」
レンゲと箸を取り、
「いただきます」
即座に丼へと躍りかかった。
ヤサイをたっぷりと箸に掴んでスープへ浸し、そのまま口へ放り込んでもっしゃもっしゃと咀嚼すれば、カレーの旨みと野菜の甘みがいい具合に絡み合って幸せな気分になる。
そこに、追い掛けるように麺を引っ張り出して頬張れば、炭水化物が持つ麻薬のような快楽が全身に広がっていくのを感じる。
更に、肉だ。
カレー味の豚。旨くないわけがない。肉々しい食感とカレーのジャンクな味わいに、背徳的な喜びを感じずにはいられない。
「ああ、疲れが抜けていく……」
食とは、体を維持回復させるためのものである。今、その役割を、この一杯のラーメンは我が体にこの上なく実感させてくれている。
栄養バランスを考えて選んだ食事であるからして、当然かもしれないが。
「さて、ここで少し刺激を加えるか」
半分ほど食べたところで、ブラックペッパーを投入する。スパイスで構築されたカレーに、更にスパイスプラス。カレーの辛味とは異なる胡椒の辛味が絶妙に絡んできていい感じに癒やしになる。
特に、残っていた豚に直接ぶっかけてカレースープを潜らせると絶品である。
食による多幸感が、疲れなど吹き飛ばし、ゴ魔乙を頑張る気力が湧いてくる。
そうして、更に半分が減れば、最後の仕上げだ。
「カレーは華麗にして辛えもんなんだ」
一味唐辛子を、スープの表面が埋まる程度にバサバサと降らせる。
「まぁ、これぐらいの辛味はないとな」
あと、カプサイシンは燃焼を促して重力に逆らう上で役に立つのだ。そこも忘れてはならない。
こういった細かい気遣いが、重力に引かれた者が少しでもその束縛から逃れるために重要なのである。
そんなことをギャバンの変身時間程度の時間で考えつつも、箸は止まらない。
気がつけば、麺も具材もなくなり、レンゲに持ち替えてスープを啜っている自分に気付いた。
そのスープさえ、見る見る減っている。
「な、汝、完飲するなかれ……」
重力に引かれしアースノイドとしての戒めの言葉が、頭を過ぎり、我に帰る。
これ以上、いけない。
「ぐ……」
強い意志の力で、レンゲをスープにツッコンで今にも口に運びそうな手にブレーキを掛ける。
そうして、震える手でレンゲをどうにか手放し。
水を一杯飲んで一息吐き。
名残惜しさに後ろ髪引かれながらも、丼を付け台に戻し。
「ごちそうさん」
拳を握り締めて意志を繋ぎながら、店を後にした。
「いかんな……少し頭を冷やそう」
欲望に飲まれ掛けた己の煩悩を沈めるため、オタロードへと足を踏み入れた。
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