第42話 東京都千代田区外神田の味噌野郎ラーメン

 冬も二日目となった。

 のんびり海路で開場を離れ、お土産を買ったりした後。

 秋葉原を訪れたところで。


「腹が、減ったな……」


 昼時をそれなりに回っているが、未だ昼にありつけていなかった。


「どこも一杯か……」


 同業者とは限らないだろうが、この時期のアキバは沢山の人で賑わっている。


 中央通りから昭和通りまでうろついてめぼしい店を覗いてみるが、どこもかしこも列・列・列。十人から二十人程度の大した人数の列ではないが、それでも列に入るにはそれなりの時間をベットする覚悟が必要となる。


「う~ん、久々にあの店に行ってみるか」


 列ができていたがそれなりに回転は速いはず、と中央通りから一つ道を入ったところにある店を訪れた。


「なんか、雰囲気が変わっているな」


 メニューが変わっていて、ちょっと小綺麗になっている気がしないでもない。


 ともあれ、出される麺の内容はそれほど変わりはないようだ。


 案の定、10分程度で順番が回ってきて、店内へと入る。


 食券機を前に、少し迷う。


「豚野郎のつもりだったが……今、そこまで重いのはつらいかも……なら」


 腹具合と相談し、味噌野郎ラーメンを選ぶ。


「さて、時間掛かるだろうし」


 『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』をプレイして待つ。今は、新年のイベントだが、生憎、ガチャで【読札】リリーを入手できていないため、他のキャラで進めざるを得ないのが辛いところだ。


 とはいえ、もう一つ並行している『エスプガルーダ2』のコラボイベントでは、アサギが手に入るので、それでよしとしよう。


 二回ほど出撃したところで、注文の品がやってくる。


「うん、豚野郎よりはずっとおとなしいな」


 ネギ、もやし、キャベツ、玉葱が中央に盛られ、周辺にブロック状に切ったチャーシュー、大ぶりのメンマ、焼き海苔がのっている。


 とてもオーソドックスだが、スープに浮いた油が丼の周囲について白濁しているのが、なんだかワイルドでいい感じだ。


「いただきます」


 スープを啜れば、


「野郎って感じだなぁ」


 ベースとしては味噌ラーメンのオードソックスな味ながら、妙にくどい。だが、それがいい。看板に偽りがない感じだ。


「ゴロゴロしたチャーシューも、メンマも、存在感があって負けてないな」


 大ぶりなところが、このスープに合う。


「野菜もいいな」


 味噌ラーメンといえば、野菜が比較的沢山入っている印象がある。


 ネギ、もやし、キャベツ、玉葱はどれも味噌のどぎつい味をまといつつも、根っこで野菜の味も感じさせて舌を楽しませてくれる。


「っと、麺を喰わねば」


 ついつい、具材の味見に走ってしまったが、ラーメンを名乗る以上、主役は麺であるべきだ。場合に寄っては豆腐やご飯に置き換えられることがなきにしもあらずだが、とにかく、メインは麺だ。


「うん、しっかり味噌をまとってるな」


 中細の特段変わり映えしない麺ではあるが、このスープには合っている気がする。まぁ、野郎を感じさせるスープなら、大概の麺にまとわりついて離れない気がしないでもないが、それはそれとして。


「まぁ、これなら、無理なく食えていい」


 豚野郎にしなかったのは正解だろう。今の食欲に、ちょうどいい塩梅だ。


「と、そろそろこれも入れてしまおう」


 半分ほど食べたところで、卓上の刻みニンニクを投入する。このスープに合わない訳がない。


「うんうん、より野郎度が増した気がするぞ」


 ただでさえワイルドな味噌味にガツンとくる刺激が加わって脳を揺さぶってくる。いいぞ、いい。


 これなら、明日も頑張れそうだ。


 そう、思える味。


 味噌とニンニクの風味に後押しされながら、最低限の行儀は守りつつ、ズルズルガツガツと麺を啜り具材を喰らう。


 こういうラーメンは豪快に喰うべきものなのだ。


 だが、だからこそ。


「あれ? もう、ない、か」


 あっという間に、スープの中から麺も具材も姿を消してしまっていた。


「いや、まだだ」


 箸を手放し丼を両手で持ち、ごくごくとスープを飲む。


「ぷはぁ」


 空になった丼を置き、ティッシュで口をぬぐう。


 また、完飲の罪を犯してしまったようだ。


 仕方ない。

 ここまでやってこその野郎だ。


 待っている客も多い。


 最後に一杯水を飲んで一息入れ、


「ごちそうさん」


 さっさと店を後にする。


「さて、秋葉を少し散策してからホテルへ帰るか」


 賑わいを見せる人混みに、我が身を紛れさせる。

 

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