第40話 東京都千代田区神田松永町のカレーつけ麺(超辛)

 いよいよ、明日から“冬”が始まる。

 そのためには、準備がいる。


 今までは、誰かの善意で、その快楽を享受してきた。

 だが、もう長年参加しているのだ。

 己も、その準備の一端を担ってはどうだろうか?


 かくして、前日設営に参加してきた帰り。


 ホテルの最寄りで期待以上に大当たりの店で飲み食いした後。


「人はどうして、呑んだら麺を欲するのだろうか?」


 人類のあり方に関する、深い問いに囚われていた。


 明日はケイブのスペースへ突撃してお風呂を覗く、もとい、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』のグッズを買うためにも、早く寝ないといけない。


 だが、まだ時間はあった。


 足は、ラーメンを求めて彷徨う。


 神田の気になった店へ行けばタイミング悪く定休日であり、御茶ノ水の楽しげな店は休みであり、その他はありきたりで今一食指が動かない。


 そのまま、秋葉まで到達し、店を吟味してしばし。


「呑んだ後は、カレーだ」


 肝臓にいいとされるウコンとは、要するにターメリック。

 カレーの定番の香辛料だ。

 

 少々食事につられて飲み過ぎた体を、明日からの聖戦に向けた戦うために整えるには適したメニューだろう。


 かくして、〆を食べるべくカレーラーメンの店へと足を踏み入れた。


「うまこくラーメン、濃厚うまこくラーメン……どれも捨てがたいな」


 メニューはバリエーション豊富で、呑んだ頭には少々しんどい。

 そうして、めくった先に。


「そうか、つけ麺という手があったか」


 カレーつけ麺を見て、ピンとくるものがあった。

 今の体が求めているものはこれに違いない。


「カレーつけ麺、超辛で!」


 辛みも選べたので、勢いで最大の辛みを選んでみたのはご愛敬。

 そう、愛嬌だ。

 この後の悲劇など、気にしてはいけない。

 伏線というのは、運命の輪の順路に過ぎない。

 そこに到達するまでは不確定要素。

 ラプラスの魔でもなければ予想だにしないことなのだ。


「ふむ、いい色だ」


 出されたつけ麺のスープは、日本的なカレーの茶褐色で所々に赤黒い唐辛子的な何かが浮かんでいる。


 具材は、表面に浮かぶ一枚の焼き海苔と、薬味のネギ、後は刻んだチャーシューといったところか。


 麺はつけ麺としてオーソドックスな太麺だ。


 早速麺を浸して食べてみれば。


「おおう、しっかり辛いが、カレーの旨みもいいねぇ。5辛ぐらいか」


 某カレーチェーンの系列なので、その元の店基準で感じたのだ。

 そこに、しっかりした腰の麺が、よく合っている。

 単純にカレーの味だけでなく、つけ麺定番の魚介とも旨く調和したカレーの風味。

 とても、食べやすい。※味覚には多大なる個人差があります


「これなら、余裕だな」


 呑んだ後だ。


 難しい理屈は抜きに、麺をスープに浸してはずるずると胃の腑へと叩き込んでいく。当然、麺はあっという間になくなってしまう。


「割りスープを」


 つけ麺の麺がなくなったらスープを呑むのが流儀だ。

 スープの器を出せば、ポットからスープを注いでくれる。


「魚介系スープか……これなら、飲みやすくなるな」


 超辛のスープを、啜り。


「ええい、まどろっこしい!」


 我慢できず、器を持ってごくごくと飲み干せば。


「終わり、だな」


 その時は、あっという間に訪れた。


 余韻も何もない。ただ、勢いに任せた食の体験。

 とはいえ、カレーというメニューには、それも相応しい気がしていた。

 

「ごちそうさん」


 店を後にする。


 後は、ホテルに帰るだけだ。

 秋葉からは近い。

 歩いて帰ろう。


 と思ったのだが。


「これが、年か……」


 辛みに負けて色々と弱ってきた体を抱え、私は電車でホテルの最寄り駅まで帰ったのだった。


 教訓。


 無理して辛いもの喰うぐらいなら、辛くないものを喰うのも勇気だ。

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