第10話「ガストンさんのリスタート!」
謎めいた魔法使いスフェールによる地の魔法発動の『基礎工事』が終わり……
その日の真夜中……
そろそろ日付が変わる時間に俺はスフェールに擬態したロヴィーサ。
そしてリゼット、サキを連れ、村の旧正門へ。
副村長レベッカ父ガストンさんが、物見やぐらから手を振っている。
以前のような頻度ではなくなったが……
ガストンさんは、門番の仕事を続けている。
夜勤もいとわない。
門番業務をライフワークだと公言し……
引退を勧める愛娘レベッカ、愛孫イーサンの声に耳を貸さない。
休日はそのイーサンと遊び、双子の赤ん坊アンジュ、ローランの子守りをするという充実の人生を送っている。
「お疲れ様です」
「おう、お疲れ、ケン。事前の打合せ通り、その魔法使い様の力で、新しい正門をつけるのか」
「そうです。新しいといっても、廃棄された王国砦の門を譲った貰った中古品ですけど」
「いやいや、王国砦の正規門なら大層立派で頑丈なものだろう? この村には過ぎる門だよ」
「そうおっしゃって頂けると助かります」
「うむ! じゃあ、俺も立ち会うよ。ジャコブ、後を頼む。見届けが終わったら、すぐ戻るから」
「了解!」
という事で、ガストンさんは物見やぐらから降りて来た。
「おう、行くか!」
「はい!」
ここからは……心と心の会話、念話を使ってのやりとりとなる。
『ははは、今夜、ケンはどんな魔法を見せてくれるんだ?』
『ははは、それは後のお楽しみって事で』
『ガストンさん! 変身した私、どうですか?』
スフェールに擬態したロヴィーサが、笑顔で尋ねる。
『おお、ロヴィは元々素敵な美女だが、こういうのもアリだな』
『ありがとうございます』
片や、サキも嬉しそうに言う。
『ねえねえ、ガストンさん! エモシオンでは私がスフェールに擬態したのよ』
『おお、そりゃ見たかった。大人のサキちゃんも素敵だな』
『わお! サンキュー! 今度見せてあげる♡』
『ははははは、楽しみだな』
ウチの嫁ズで、元々念話を行使出来たのはクッカにクーガー。
そして元魔王アリスの、ベアーテ。
しかし、サキ、ロヴィーサも少し前に習得。
最近では新参のジョアンナも習得し、念話による会話は当たり前となっている。
自分から念話を使えない者も返信は可能なので、内緒話には便利なのだ。
敢えて言わなかったが……
ガストンさんに『カミングアウト』したのは実は、だいぶ前である。
……ある日、「ふたりきりで話がある」と呼び出しを受けた。
誰も居ない村の空き家で、ガストンさんとふたりきりで話した。
「ケン」
「はい」
「他の奴らは誤魔化せても、俺は誤魔化せんぞ」
「何の事でしょう?」
「とぼけるな。お前が魔法使いだって事は知ってる。だが、エモシオンへ行った時も、王都へ行った時も戻るのが早すぎる」
「ええっと……」
「それと、たまに村の中でお前の姿を見かけなくなる。レベッカに聞けば、自室にこもりきりだと言うが、絶対におかしいだろ。一体何やってるんだ?」
他の門番担当の村民はあまり深く考えていないようだし、不自然さがないよう時間調整をしていたが……
門番をライフワークにするガストンさんには、転移魔法を使ったタイムラグ、そして俺が不在の不自然さを見抜かれていたのだ。
「ずっと変だとは思っていたが……レベッカとイーサンの事を思って言えなかった。そして何よりお前が誠実な男で、村の為に尽くしているのを俺は知ってる」
「……………」
「ケン、俺はお前を信じている! だから正直に言ってくれ。お前は何をしている?そして何者なんだ?」
……という会話がまずあり、俺はまず転移魔法の存在と行使を明かした。
嫁ズにはガストンさんから突っ込みがあったという話をし、
そして、ユウキ家へ遊びに来たという設定で、何回かに分けてふたりきりで話をした。
一番最初の時だけはレベッカに同席して貰ってね。
レベッカが、オーガから助けて貰った話をした時は、無茶するな!と怒り、
ごめんなさいとレベッカが謝る一幕もあった。
その時はレベッカが、嫁ズが全員事情を知っている事に、まずは安堵したようだった。
その後……
俺が数多の魔法を行使する魔法使いなのは勿論……
異世界から転生した事。
クッカが元女神で、クーガーが元魔王な事。
オベール様夫妻も秘密を知っている事を話した。
最初は半信半疑だったガストンさんも……
話を聞くうちに辻褄が合う、整合性がある事に気づき納得してくれた。
特に俺が身体を張り、魔物と戦って被害がほぼ皆無となった事を喜んでくれた。
そして俺の出生、薄幸な幼馴染、クミカとの悲恋には涙してくれた。
かつてのオベロン様を含め、何人かのように……
以降……何かあれば、よほどの事でない限り、報告を入れるようにしており、
ガストンさんは、懸念がなくなった。
こうして、ガストンさんは……
血がつながったレベッカを含めた嫁ズを愛する娘達とし、
同じく血がつながったイーサン、アンジュ、ローランを始めとした大勢の孫達とともに、ライフワークの門番業務にも励み……
完全に自分の人生を
さてさて!
約1km歩き、基礎の岩壁まで到達した。
大きな町の街壁並みに高さが15mある岩壁を見て、ガストンさんは感嘆する。
「いやあ、ケンよ。改めて見ても凄いな。だが人が倍に増えた分、敷地も増えた方が良い。新たな家が建ち、農地もたくさん増え、生産量があがるだろう」
「ですね」
「商人もたくさん来訪するようになり、ボヌール村は発展する。大いに結構な事だ」
「です!」
「だが……元の、時間が止まったようにのんびりしたボヌール村のままであれ……とも思うよ」
「それも大いに同感です」
……という会話の後、基礎工事の岩壁の正門用にスペースを開けた場所へ、
俺は空間魔法で仕舞っておいた中古の正門を取り出した。
鋼鉄製の頑丈な砦の門は、魔法を使い俺が新品のように磨き、防御力を大幅に強化して防錆効果も施した。
そして取り付け工事には神力を使う。
これは管理神様から教えて貰った念力の一種で、大きな物体を自在に動かせるものだ。
そしてモノを動かすだけでなく、地面の
俺は掘ってあった穴へ神力で正門を据え、地の魔法で埋め固め、更に土台を強化する。
正門を据え付けたら、物見やぐらの基礎も地の魔法で造る。
こちらも従来の木製から、大幅にビルドアップだ。
仕上げは街壁ともども、エモシオンの石工さんに行って貰う。
「お、おお! 立派な門だ! 村の防護壁が新装なれば、物見やぐらからこの門を見下ろしながら、俺は仕事をする! こんなに幸せな事はないぜ!」
老齢のガストンさんは新たな村の正門を見て、気合を入れ直していたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます