第8話「やはり論より証拠」
カルメンとの打合せが終わった後……
早速、オベール家城館、外壁工事の下見を行う。
昨日のうちに、周知しておいたので、エモシオンの町の石工の親方が駆けつける。
まずは、下見を行い、岩石製の小さな防壁を造るのだ。
それを見て貰い、夜カルメンに城館の完成イメージ、更にエモシオンの街壁の完成イメージを見て貰い、一気に工事を進める段取りだ。
そして……『地の魔法を行使する、魔法使い役』はといえば……
いろいろ検討、相談の結果、本人達の了解を得て、
サキとロヴィーサの持ち回りでやる事となった。
念の為、サキとロヴィーサの背格好は少し違う。
だが、俺が行使する変身の魔法で何とかなるって話。
そして、何故ふたりを選んだかといえば、とも魔法使いだから、発動のポーズも自然に行う事が出来るから。
実際に地の魔法を発動して壁を造るのはこの俺だが、
サキとロヴィーサは、さも「自分がやったように見せる」俳優役なのである。
と、いう事で……
従士長カルメンが某所から連れて来た謎めいた地の魔法使い、
年齢は20代半ばの美女『スフェール』の登場である。
ちなみにスフェールとは『宝石』という意味だ。
俺の魔法でスフェールに変身したサキはノリノリ。
何故なら、スフェールは、サキが将来そうなりたいと夢見る、
栗色の髪をなびかせた『大人の美女』なのだから。
「では、スフェール殿、お願いしよう」
「心得た、カルメン殿」
何て、スフェールに擬態したサキとカルメンのもっともらしい会話の後……
石工の親方も交え、立ち会う俺達全員の前で……
擬態したサキはもっともらしく、「もごもご」と言霊を詠唱し、発動のポーズをとる。
ここで俺が地の魔法を発動。
すると!
何という事でしょう!
ぼこぼこぼこぼこぼこ、ぼこぼこぼこぼこぼこ、ぼこぼこぼこぼこぼこ……
オベール様ご夫妻に、事前OKを貰った街壁の小規模バージョンの岩壁が、
不可思議に土中から盛り上がって来たではあ~りませんか!
何て、ナレーションが入りそうな現象が起こったのである。
発動後、約5分ほどで……
長さ10m、高さ5mほどの頑丈な岩壁は、現在の城壁の少し前に生成された。
「「「「「おおおおおお」」」」」
俺がうんうんと頷く中、驚く全員。
魔法を発動した?サキまで驚きそうになり、慌てて口を押えたのは、ご愛嬌。
「おお、す、凄いですねっ!」
「スフェール殿、ありがとう」
と、「魔法を発動した」サキへ俺は礼を言い……
更に、感嘆する石工の親方へも、
「どうです、親方。これを職人さん達の手で『最終仕上げだけして貰う』というのは」
「は、はい! 問題ないです! 宰相様!」
「……と、いう事で材料費はナシ。
「こ、この、城館の壁以外に、エ、エモシオンの、ま、街壁を!? ほ、本当ですか!」
「ええ、本当です。それと親方さえ了解なら、ボヌール村の防護壁も仕上げをお願いしようと思っています。既にオベール様ご夫妻にOKを頂いておりますよ」
「お、おおおっ! ボヌール村もですか!? よ、喜んで! やらせて頂きます! ウチの職人総出で、精一杯、働かせて頂きますよ!」
「ありがとう。こちらの工事が終わったら、魔法鳩便をボヌール村まで飛ばしてください。宜しくお願いします」
俺は親方へ礼を言い、カルメンへ向き直る。
「カルメン、どうだい、城壁は?」
「……………」
しかし、カルメンは驚き、呆然として固まったままである。
「カルメン!」
俺の声で我に返ったカルメンは、まずサキに礼を言い、
「あ、ははは。ス、スフェール殿、あ、ありがとう!」
そして、しげしげと岩壁を見て満足したように頷き、
「宰相! ……完璧だし、当然OKだ!」
と、照れくさそうに笑ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おお、す、素晴らしい!」
「うふふ、夢の中で……い、いえ! 見せて貰ったサンプル通りね!」
カルメンが呼びに行き、駆けつけたオベール様ご夫妻も、夢で見た通りの岩壁にご満悦。
石工の親方の前で早速「GO!」を出し、合わせてエモシオンの街壁、ボヌール村の防壁の発注も続けて出した。
満面の笑みを浮かべた、ご領主夫妻じきじきの命令もあって……
たくさん仕事を発注され、張り切った石工の親方は、
配下の職人達へ召集をかけるべく、だだだだだ!と、脱兎の如く駆け出して行った。
その間、俺が指示をし……
オベール様ご夫妻の目の前で、地の魔法使いスフェールに擬態したサキが、
魔法発動の『ふり』だけして、次々に岩壁を出現させて行く。
ぼこぼこぼこぼこぼこ、ぼこぼこぼこぼこぼこ、ぼこぼこぼこぼこぼこ……
ぼこぼこぼこぼこぼこ、ぼこぼこぼこぼこぼこ、ぼこぼこぼこぼこぼこ……
ぼこぼこぼこぼこぼこ、ぼこぼこぼこぼこぼこ、ぼこぼこぼこぼこぼこ……
ぼこぼこぼこぼこぼこ、ぼこぼこぼこぼこぼこ、ぼこぼこぼこぼこぼこ……
せりあがる岩壁の嵐に、
「おおお、す、凄いな!」
「貴方、本当に!」
やはり驚き、感嘆するオベール様ご夫妻。
そんなこんなで、約1時間後……
石工の親方が、作業着に身を固めて、工具を持った配下の職人達10人ほどを連れ、戻って来た時には、オベール男爵家城館、城壁の基礎工事は終了していた。
善は急げ!
とばかりに、俺は親方へ工事の開始を指示する。
「親方、早速仕上げをお願いします!」
「かしこまりましたっ! おお、野郎ども! ご領主様の城壁だ! 気合入れてやるぜっ!」
「「「「「
という事で、工事は早速開始された。
数日で、城館の壁は仕上がるに違いない。
後は、エモシオンの街壁だ。
「同じ岩壁のスケールアップバージョンを造る」
と言ったら、カルメンも納得し、大いに頷いていた。
やはり、『論より証拠』は確実に理解と認識が早い。
……その夜、自分の夢にカルメンを招待した俺はついでにと、
今回、同行しなかった者も呼び、嫁ズを全員集合させた。
そして、エモシオンの街壁とボヌール村の防壁の『完成イメージ』を一度に見せた。
『おお、す、凄い! わ、私は本当に夢の中に居るのか!?』
大いに驚くカルメン。
思わず頬をつねって「痛くない」という落ちまでつける。
笑みを浮かべた、大の仲良しサキが、
『あはは、カルメンさん、夢だけど、本当なんだよ』
『ははは、サキ、夢だけど、本当? 何だ、その物言いは? 言葉が変だろう』
『じゃあ、夢だけど、現実!』
『それも変だろう? ははははは』
『でも、こうやって夢の中でカルメンさんと話しているのは嘘っこじゃなく、リアルな現実なんだもの』
『あはは、確かにそうだな!』
という和やかな雰囲気の中、カルメンは笑顔で俺へ向かい、頷いた。
『宰相、私も全く問題はないと思う。オベール様ご夫妻がご了解されたなら、OKだ』
『じゃあ、エモシオンはこれで工事を行う。ボヌール村はこれからオベール様に了解を取るけれど、カルメンにも確認して貰ったと伝えたいんだ。……構わないかな?』
俺がそう言うと、カルメンは再度ボヌール村の防護柵をじっくり見た後、
『あくまで個人的な意見ですが、私は問題ないと思います』
と答えてくれた。
そして、いよいよ『銭湯』を見せた。
エモシオンとボヌール村へ同じモノを造るとも言って。
まず外観を、そして内部も。
すると……
『おおお、こ、これは!? す、素晴らしいっ! ほ、本当に素晴らしいっ! わ、私も!! ぜひ入浴したいっ!!』
カルメンは何度も何度も銭湯を見て、感嘆。
文句なくOKしてくれたのである。
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