第34話「きっぱりと断って」

 風呂上がりでさっぱりした俺達は、またも夕食を食べにレストランへ。

 メニューはある程度変わっていたが、システムは全く変わらないビュッフェ形式。


 もはや勝手知ったるという感じで、思い切り食事を楽しみ、宿泊しているスイートルームへ戻った。


 今夜は……

 俺が見せるユウキ家の歴史『夢の第三弾』が見られる。

 もう既に魔法を発動しておいた。

 その為、レオとイーサンは、だいぶ入れ込み気味である。


「お父さん! 今日はアマンダママの『次』だから、いよいよオディルさんがボヌール村へ遊びに来た時からだよね」

「うん! 楽しみ! オディルさんと遊んだの、俺達絶対忘れられない思い出だから」


「ああ、そうだな。お前達の言う通りだ。オディルさんのボヌール村訪問から、タバサとここ王都へ旅行へ来た時の事までだぞ」


「うお! 夢の中だけど、オディルさんにまた会える! 楽しみ! タバサ姉さんの旅はどうでもいいけどね」

「そうそう、姉さんの旅はスキップでもナッシングでも全然OK、宜しく! という事で俺達、もう寝るから! おやすみ、お父さん、ジョアンナも!」


 笑顔のレオとイーサンは、手を振りながら、それぞれの部屋へ消えて行く。

 マチルドさんとジャンも就寝の挨拶をして部屋へ入った。


 対して、俺とジョアンナも各自へ就寝の挨拶をした。

 全員が部屋へ入ると、ジョアンナは甘えに甘えて俺の腕にぶら下がる。


「ケン様ぁ、兄様達にいさまたちは、なぜあのようにウキウキしているのですかぁ?」


「ああ、ふたりには、俺の魔法で素敵な夢を見せるからさ」


 俺がそう言うと、ジョアンナは『期待して』か、目をキラキラ。


「わお! ではケン様、私達も、もう寝ましょう」


「ああ、寝ようか」


 という事で、ベッドに横たわった俺とジョアンナ。

 昨夜同様、ジョアンナは俺にぴったり寄り添い、手をしっかり握っていた。


「ねえ、ケン様。ジョアンナには魔法を使って、どのような夢を見せてくれるのですか?」


 ああ、来ると思った、この質問。

 だが、俺は最初から魔法の夢をジョアンナへ見せるつもりだ。


「ああ、兄さん達と同じく、ジョアンナにも魔法で素敵な夢を見せるぞ」


「やったあ! 嬉しいっ!」


「うん、ジョアンナをエデンのように素敵な場所へ連れて行く」


「エデン!? 楽園ですか? 素敵! 本当に素敵!!」


「ああ、そこで、レイモン様に会うんだ」


 俺がそう告げると、想定外だったのだろう。

 ジョアンナはたいそう驚く。


「え、えええ? レ、レイモン様 殿下に? な、何故?」


「ああ、ジョアンナ、レイモン様へ全てをお話しした。お前の事をお願いするんだ」


「え!? ジョアンナの事を全てお話し!? お願い!? もしかして、レイモン様に? 私をお渡しすると? い、嫌ですっ! ジョアンナはケン様から離れませんっ! 絶対に!!」


 ジョアンナは、「レイモン様に預けられる」と勘違いしているらしい。

 そして、レイモン様のご指示で、どこぞの貴族がジョアンナの里親にでもなると考えているのかも。

 

 いや、そんな事はしない。

 ……可哀そうに。

 まだまだ不安があるんだ。

 

 でも、いきなりレイモン様にお願いすると言ってそう思うのも無理もない。


 順を追って話そう。

 8歳の女の子には理解が難しい。

 話が相当ややこしいから、


「大丈夫、違うよ。ジョアンナをレイモン様にお渡したりしない。後でジョアンナのお父さんから、いろいろ文句を言われないよう、俺がレイモン様にお願いするんだ」


「え? パパから文句を? でもパパはジョアンナを見捨てたわ」


「そうだな。でもジョアンナ、落ち着いて聞いてくれ。順番に話すから」


「は、はい! お聞きします」


「……ええっと、これは、もしもの話だ」


「もしもの話?」 


「ああ、ジョアンナのお父さん、サミュエル・ブルゲ伯爵にはジョアンナの他に子供が居ない」


「そう、なんですか? 私は良く知りません」


 ジョアンナは、ブルゲ伯爵家の事情にあまり詳しくないらしい。

 マチルドさんは、敢えて話していないのかもしれない。


「ああ、ジャンがいろいろ調べてくれたんだ。ブルゲ伯爵家の娘である奥さんとの間には子供が居ない」


「そ、それが、私と……ジョアンナと何か関係が?」


「ああ、もしもジョアンナのお父さんに子供が出来なくて、ジョアンナとの『縁切り』が、なしになった場合」


「私との縁切りがなしに?」


「うん! それで伯爵家を継がせる為、血のつながった子供が必要だから、いきなりジョアンナを返せと言われたら、ヴァレンタイン王国のルールで、俺は断れないかもしれないんだ」


「見捨てておいて、私を返せって、そんなの酷い! パパは自分勝手です!」


「ああ、酷いし、自分勝手だな。でもそうなったら、ジョアンナはブルゲ伯爵家へ返され、養子にされ、適当な貴族の息子と無理やり結婚させられる可能性がある」


「そんなの、絶対に嫌! 嫌です!」


「分かった。念の為、聞くけれど……ジョアンナは、お父さんと完全に縁切りして構わないな?」


「はい! 構いません! 私はケン様の妻です! パパの所になんて戻らないし、他の男の人と結婚なんて、絶対にしません!」


「分かった。そうならないよう、レイモン様にお願いし、ジョアンナのお父さんへ命令して貰う。誓約書という書類にもサインして貰う」


「ケン様! お話が難しくてジョアンナにはあまり分かりません。けれど、きっぱりパパへ断ってください!」


 ジョアンナはそう言うと、不安を打ち消したいというように、つないでいる俺の手をまたも「ぎゅぎゅぎゅ!」と握った。


 ここで俺は魔法を発動。

 ……ジョアンナはすぐ寝入ってしまった。


 そして、俺もすぐ夢の魔法を発動。

 ジョアンナの後を追ったのである。

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