第22話「いつか再会を!」

 コルネイユさんの案内でイベント会場へ……

 初めてレベッカと来て以来、何度かこのイベントには、足を運んでいた。


 レオとイーサン、息子ふたりは心の底から感激し、大きく反応する。

 何せ、王都へ旅行する第一目的がこのイベントだったから。


「おお、おおお~~っ!!」

「す、す、すんげぇ~~!!」


 そして、ジョアンナとマチルドさん主従もとても驚き、大きく目を見開いている。


「す、す、凄いですわっ、マチルドっ!」

「え、ええ! 凄いですわね、お嬢様っ!」


 目の前には、結構な広さの空間が広がっていた。

 前世地球でいえば、大型体育館くらいありそうだ。

 遥か高い天井から吊り下げられた、たくさんの超大型魔導灯が、煌々と空間を照らしていた。


 このホールは、建物5階分まで吹き抜けになった造り。

 床は綺麗な板張り。

 そこに大勢の人達が、大中小の簡易ブースのようなものを作って、俺達みたいな来訪者にアプローチをしていた。


 そのような光景を前に、商業ギルドのマスター、コルネイユさんの説明を全員で拝聴する。


 今や隣国の大国ロドニア、アールヴの国イエーラ、そしてドヴェルグの王国とも国交が開かれ、経済的な交流が、積極的に行われている。

 

 その中でこのイベントは、ヴァレンタイン王国王都セントヘレナ商業発展の為に、王国宰相レイモン様自ら、肝いりで企画した重要イベント。


 そして、このイベントの具体的な趣旨。

 出展者である商会、商店、個人の職人の宣伝、扱い商品のアピール、人材募集など多岐に渡る。


 出展者は、週ごとに変わる。

 

 以前の約3倍、現在は約300名の出展者が毎日、このホールで説明&デモンストレーション&商談をしているとの事。

 

 ちなみに入場資格も変わった。

 以前は、ヴァレンタイン王国民のみ無料だったが、大幅に変更。

 入り口でチェックだけは厳しくなったが、種族、国籍問わず誰でも無料となったのだ。

 

 無料だから、当然冷やかしも多い。

 だが、来た人は必ず楽しめると断言しよう。

 

 楽しいのは当然だろう。

 先述したが、娯楽の少ないこの異世界では、ある意味、ワンダーランドといえるから。


 宣伝オンリーのブースもあるが、商品の試食、使用体験。

 製作体験なども楽しめる。


 大手の商会は、雇用する大商隊が、遥か遠くの国まで赴いた旅紀行みたいなものもやっていて面白い。


 もう説明は充分だろう。

 コルネイユさんは超が付く多忙。

 そろそろ、解放してあげよう。


「コルネイユさん」


「はい、ケン様」


「もう大丈夫です。御多忙でしょうから、業務にお戻りください。ありがとうございました」


「分かりました。ではお言葉に甘え、通常業務へ戻ります。会場に担当の係員は居りますので、何かありましたら、お気軽にお申しつけください」


 コルネイユさんは一礼すると、部下とともに去って行ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 相変わらずジョアンナは、俺にくっついているのだが……

 本来の旅行の目的に立ち返らないといけない。


 10歳になったレオとイーサン、息子達へのケア。

 彼らが望んだ自分探しの旅。

 輝かしい未来へつながる希望を、夢の扉と鍵を探す。

 なので、女子のジョアンナが、好むブースばかりを回れない。 


 俺は『旅紀行』を展示している商会のブースを見やった。

 あそこなら、ジョアンナも退屈しないだろう。


「ジョアンナ」


「はいっ! ケン様!」


「レオとイーサンの自分探しを手伝わないといけない。申しわけないけど、回るのは、ジョアンナが喜びそうなブースばかりではない」


「はいっ! 大丈夫ですわ!」


「この会場は広いから、マチルドさんが居ても、俺達とはぐれるかもしれない」


「ええ、迷子になりそうなくらい広いですわね」


「大丈夫と言ってくれたが、職人さんが仕事をするブースでは、ジョアンナが退屈するかもしれない。だけどあの商会のブースなら、楽しめる。マチルドさんと行ってみるか? 後で迎えに行ってやるから」


「いいえ! 妻は夫に付き従うもの。私はず~っとケン様とおります」


 ジョアンナは『大人びたおすまし顔』でそう言うと、ぴったりと俺にくっついた。

 

 そんな女子を……

 タバサを筆頭に『甘えん坊のユウキ家パパッ子姉妹』で慣れているレオとイーサン。

 

 ふたりは顔を見合わせ、苦笑。

 俺へ言う。


「お父さん、ひと通り回ったら、ジョアンナが喜びそうな女子向けのブースにも行くよ」

「俺達、ジョアンナの面倒もしっかり見るからさ」


 息子ふたりの優しい気遣い。

 俺は心が温かくなる。


「ありがとう。じゃあ、どんどん回ろうか」


 俺はジョアンナと手をつなぎながら、職人達が製作、実演、販売しているエリアへ行った。

 様々な工芸品が、この場で仕上げられ、売られている。

 ナイフを作る職人も、何人か見受けられた。


 オディルさんと初めて出会ったのが、この場所だった。

 レオとイーサンにもその時の事を話している。

 改めて伝えておこう。


「レオ、イーサン。ここで俺とレベッカは、オディルさんに出会ったんだ」


「うん!」

「分かってるよ、お父さん」


 息子達の返事を聞いて、……感慨深くなった。

 瞼が熱くなる。

 涙が「じわっ」と出て来た。


「ケン様?」


 泣いている俺を見て、ジョアンナが驚いた。


「え? レオにい? イーサン兄も? 泣いてる?」


 だが、レオもイーサンも泣いているのを見て、何かがあったと察したようだ。

 それ以上、追及して来なかった。

 頃合いを見て、教えてあげるか……


 俺は頭を切り替え、今朝、姿を見せたオディルさんご夫妻に思いを馳せる。

 もしかして、お墓参りをした『ご褒美』だったのだろうか……

 

 ……今朝、夢枕に立った若き姿のオディルさんご夫妻は、

 ようやく再会した喜びをかみしめるという感じで……

 ふたりとも本当に嬉しそうだった。


 お幸せに! 

 そして、また俺達と、どこかでお会いしましょう! 絶対に!


 ……レオとイーサンも同じ思いに違いない。

 黙って泣いている。


 ボヌール村の家族達の夢枕にも、旅立つ前にご夫妻は立ってくれたのだろうか……

 帰ったら、家族全員と、さりげなく話してみよう。


 つらつら考えた俺は、ご夫妻との、いつの日にかの再会を願うと……

 無言のまま、その場で深く一礼したのである。

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