第14話「小さな闖入者③」

 俺は、ジョアンナとマチルドさんを伴いテーブル席に戻り、レオ、イーサンと合流した。


 ジョアンナはず~っと不機嫌そうだし、マチルドさんは相変わらず戸惑っている。


 苦笑した俺はまたもレオとイーサンへアイコンタクト。

 まずは自己紹介を行う。


「ジョアンナさん、マチルドさん。改めて名乗ろう。俺はケン、ケン・ユウキ。オベール男爵家の宰相でボヌール村在住だ。このふたりはレオとイーサン、俺の息子だ」


「レオです」

「イーサンです」


「…………」


 しかしジョアンナは、しかめっ面で無言。

 マチルドさんが、困ったという表情で促す。


「お嬢様、淑女のたしなみです。どうか! ご挨拶を、お願い致しますっ」


 マチルドさんの懇願を聞き、仕方ないという雰囲気のジョアンナ。


「もうマチルド、分かったわよ……ふん。男爵家の宰相ごときに、私が挨拶するの? だって! 私のパパは男爵よりもっともっと偉いのよ、伯爵だから!」


「お嬢様!」


「しょーがないわね。良く聞きなさい。私の名は、ジョアンナ・ボレル。パパはサミュエル・ブルゲ伯爵よ!」


 ……あれ?

 ジョアンナの姓が違う。

 彼女はボレルで、お父さんがブルゲ……なんだ。


 成程……

 ジョアンナは、父の姓を名乗らない。

 「事情のある娘」って事だ。


 ……それにサミュエル・ブルゲ伯爵って、俺は聞き覚えがある。

 ……会った事もあるぞ。


 続いて、マチルドさんが名乗る。


「わ、私は、ジョアンナ様のお付きで、ブルゲ伯爵家の使用人、マチルド・コンパンと申します」


 マチルドさんが名乗った時に思い出した。


 そうだ!

 確か、ブルゲ伯爵って……

 俺がレイモン様と、ある案件について打合せをしている際、専門家として呼ばれたんだ。

「少し気が弱そうな、だけど性格の良い人かな」というファーストインプレッション。


 う~ん。

 どうしようか……

 ちょっとだけ考えたが、素直に告げる事とした。


「俺、ジョアンナさんのお父上って、会った事があるよ」


 しれっとコメントした俺に、ジョアンナは身を乗り出し、食いついて来る。


「えええっ! ど、どうして貴方が!? ど、どこでパパに!?」


「どうしてって、ある事でレイモン様と王宮で打合せしていて、その場にブルゲ伯爵が呼ばれて、少しだけ話をした。確か……仕事上のアドバイスをして貰ったんだ」


「へ、へぇ……そうなの、王宮で私のパパに? ……って、レイモン様とぉ、お会いしたぁぁ!?」


「いや、レイモン様って、俺の主君の寄り親だし、おかしくないだろ? それで打合せしてたんだ」


「いや! おかしいでしょ! 何で男爵家の家臣が、陛下の弟君のレイモン様と直接お会いして、お話ししてるの!」


 ジョアンナは幼いながら貴族の娘として、身分差や力関係等々を、いろいろ学んでいるらしい。

 年齢の割に大人びた話し方をするし、ガンガン突っ込んで来る。


 ここらでいいだろう。

 俺達に対し、興味津々って感じだし、普通に話す事が出来るに違いない。


 宰相レイモン様との付き合いは、話せばやたら長くなるし、ややこしいから。

 とりあえず、ノーコメント。


「あはは、それ以上は……内緒だ」


「な、内緒って!?」


 俺の答えに呆然とするジョアンナ。

 しかし、はぐらかされたと知り、またも不満そうに頬を「ぷくっ」とふくらませたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺がジョアンナの父ブルゲ伯爵に会った事がある!

 この話題が出てから、ジョアンナとマチルドさんは、警戒を解いた。

 俺がブルゲ伯爵の風体や口調を話したから、嘘ではないと信じたらしい。


 レイモン様との付き合いを内緒だとはぐらかされたジョアンナだったが……

 めげずに、俺へ質問を連発して来る。


「それで、あなた方はどこに住んでいるのですか?」


「王都の遥か南、ボヌール村さ」


「ボヌール村? 存じませんわ」


「まあ、田舎の小さな村だし、ジョアンナは王都以外は全然知らないだろうな」 


「う~、王都以外は全然知らないって、私をバカにして! そんなへんぴな場所から、この王都へ何をしに来たのですかっ?」


「おいおい、馬鹿にしてないって。それと王都へは遊びに来たんだ……息子達の自分探しも兼ねてな」


「はあ? 自分探しって、何、貴方達!? わけわかんない!」


 ジョアンナの興味が、俺から息子ふたり、レオとイーサンへ移る。


「俺はお父さんみたいな鍛冶師になるんだ。そして、お父さんを超えるくらい強くもなりたい!」

「俺はアールヴの伯父さんみたいに、世界をまたにかける商人になりたい! でも他にもいろいろ興味はある!」


 レオとイーサンの話を聞き、ジョアンナは、目をぱちくり。

 大いに驚いた。


「だ、男爵家の宰相が鍛冶を!? それとアールヴの伯父さんって!?」


 その疑問には……

 俺が答えよう。


「ああ、俺は男爵家に仕えるかたわら、鍛冶もやる。俺と嫁の作ったナイフが王都でも売ってるよ」


「え? な、何それ?」 


「戦う強さは、そこそこかな。それとイーサンの言うアールヴの伯父とは俺の嫁の兄だ」


「はあ!? 嫁の兄って!? あ、貴方、アールヴとも結婚してるの!?」


 俺の答えを聞き、ジョアンナは、更に疑問が深まり……

 ますます大混乱に陥るのであった。

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