第20話「大いに語り、熱く伝えよ!」

 翌日は月曜日……

 次の日曜日まで、長い?1週間の始まりだ。


 そろそろ秘書業務にも慣れて来たと思い、俺は傍らに立つサキとロヴィーサへ尋ねる。


『サキ、ロヴィーサ。俺の今日の予定はどうなってる?』


『はい、旦那様。今日は午後2時から、村営会議。場所は学校です』

『議題に上がりそうなものは、リゼット様へお聞きし、ケン様が確認し易いよう、資料として私達がまとめておきました』


 落ち着いて、はきはきと活舌かつぜつ良く、応えるサキとロヴィーサ。


『おし! ふたりとも一人前だ! 秘書としてばっちりだな!』


 おお、凄いじゃないか!

 と、大喜びしたら……ぬか喜び。

 何と!

 ……夢だった。


 自分の「おし!」という満足した声で目覚めた俺。

 「がばっ」とベッドに起き上がり、現実世界へ帰って来た。

 

 そもそも俺の見る夢は特別である。

 管理神様から神託を受けたり、いくつもの異世界へ行き、

 フレデリカ、つまり現アマンダに巡り会ったりもした。


 しかし今回見たのは、本当に単なる夢である。

 外はまだ暗く、魔導時計を見れば午前3時を少し回ったところ……

 傍らでは、昨夜の『添い寝担当』クラリスがぐっすりと眠っていた。

 

 先日のサキではないが、ユウキ家は第2子が欲しいという嫁がとても多い。

 先にもうけた子達が大きくなって手を離れて来た事、そしてグレース、レベッカの子育てを目の当たりにして、大いに刺激されたようだ。


 甘えるクラリスとたっぷり愛し合った後……

 服飾の講義の話になった。


 改めて聞けば、サキは勿論、ロヴィーサも凄く真剣に取り組んでいたようだ。

 帰宅した時の反応を見ているから、大いに納得してしまった。


 さてさて!

 この時間に起きると、俺はそのまま起きている事が多い。

 また正門脇の物見やぐらに行って、夜勤担当をねぎらうか……


 俺はそっとベッドから抜け出ると……

 く~く~と可愛い寝顔で眠り込んでいるクラリスへ、優しく予備の毛布をかけてやり、さくっと作業着に着替えた。


 夢で言われた通りに、今日は出張はナシ。

 我がボヌール村において、村営会議である。

 頑張るリゼットを、しっかりフォローしてやろう。


 俺は足音を立てないよう、そっと部屋を出たのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 物見やぐらに陣取る夜勤担当は……

 かつてソフィことステファニーに仕えていた長男アベル、次男アレクシ、3男アンセルムのデュプレ3兄弟であった。


「お疲れ!」


 俺が声を押さえ、低く短く声をかけると、相変わらず寡黙な3兄弟は黙って手を打ち振った。

 しかし初めて出会った時と違うのは、全員が笑顔で応えてくれた事である。


 彼等にもいずれオベール様が陞爵しょうしゃくし、男爵となる事が伝わるだろう。

 主君の娘というだけでなく、妹のように慈しんでいたステファニーを……

 貴族のしがらみとはいえ、寄り親のドラポール伯爵家へ人身御供として売り渡した事を3兄弟は怒り、オベール様をひどく憎んでいた。


 当時は彼等も若かった。

 だが今は結婚し……子供も生まれている。

 心の痛みを忘れる事は出来ないかもしれないが……素直に主君の陞爵しょうしゃくを祝って欲しいと願う。


 そんなこんなで村内を見て回り、既に起き出している従士のケルベロス、ベイヤール、フィオナに念話で声をかけ、まだ寝ているジャンに苦笑。

 ついでに外壁も見ていたら……間もなく夜明けだ。


 村内と……それから索敵をかけたが……村外周囲10㎞以内に異常はない。

 遥か数十㎞以上遠くに、僅かな魔物の気配も感じる。

 だが、俺やクーガー、ベアーテ、従士達の気配を感じているのか、この村へ来る様子はない。


 東の空へ太陽が少しだけ顔をのぞかせた。

 陽が徐々に、村を照らし出した。


 俺が自宅へ戻ると……門の前に誰か居る。


 放つ波動ですぐに分かる。

 東の空をじっと見ながら、立っているのは……早起きしたロヴィーサである。


 俺を待っていたのではなさそうだ。


「ロヴィーサ」


「ケン様……」


「どうした?」


「朝陽が昇るのを……見ていました。魔界にはなかったし、アヴァロンの陽の出とも違う……初めて見た時に凄く感動してしまって……美しいと」


「そうか」


「はい」


 燦々さんさんと注ぐ陽の光。

 真っ青な大空。

 白い雲。

 広がる緑の森林と大草原。

 頬に優しくそよぐ、さわやかな風。


 ロヴィーサは地上の自然を見る度に感嘆する。

 いつなどと、軽々しく言えないが……

 いずれ人魔族も地上に住む日が来るだろう。

 それまで、彼女はアヴァロンで父や仲間にその美しさを詳しく語るに違いない。

 

 未来の住処すみかとなる地上……

 この地上にある自然の美しさが、一族のモチベーションになるのなら、はっきりと伝えて欲しい。

 悪魔であった時のように、邪な征服欲に変わらなければと、俺は願う……

 地上の素晴らしさを大いに語り、熱く伝えよとも思う。


 しばらくの間……

 俺とロヴィーサは、東の空へ昇る太陽を一緒に見ていたのであった。

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