第16話「ボヌール村の休日③」

 この異世界へ転生し、数多の魔物と戦い、魔王と戦い、遂には魔界へ乗り込み高位悪魔とも戦った俺。


 しかし、今回は全知全能たる創世様の存在を改めて思い知った。 


 忌み嫌われる悪魔族が、創世神様の御業みわざにより、一晩で違う種族へ生まれ変わったからだ。


 悪魔は不死ではなくなり、持つ力も大幅に削られた。

 人間を喰らう種族の怖ろしい本能は失われ、温厚な新生の『人魔族』として、リスタートを切った。


 住まう場所も、魔界が閉鎖され、現在は妖精族の本拠地『アヴァロン』へ間借り。

 一族と地道に暮らしていた元高位悪魔で人魔族のリーダー、アガレスの下へ、

 管理神様からお達しがあった。


 「お前の愛娘ロヴィーサを地上へ送れ、そして俺ケンへ預けよ」と。


 と、いう事で……

 右も左も分からない地上世界に来て、秘書業務以外、どうしたら良いのか、何をしたら良いのか、全く分からないアガレスの愛娘ロヴィーサ。


 今日は週7日のうち、唯一の休日……

 俺に指示を仰ぎ、自由に過ごして良いと告げたが……

 ロヴィーサは今いち呑み込めず、再びサキがフォロー。


 予定びっしりの自分と過ごしてみないかと提案した。

 食後のお茶を飲みながら、話は続いている。


 と、いう事でサキが一枚のメモを差し出した。

 テーブルに載せる。


「ええっと、これが私の今日の予定で~す!」


 おお、何かずらり。

 そして、びっしり書いてある。


 実はいろいろ聞いて知っているのだが、一応俺は覗き込んでみる。


「どれどれ?」


 そして興味津々のロヴィーサも、メモを凝視していた。


「ええっと、うわ! 凄いっ!」


 ロヴィーサが驚くのも無理はなかった。

 サキのメモは、このような感じである。


 本日の予定。

 ※スケジュールは再確認の上、調整あり。


 〇服飾:講師クラリス姉


 〇一般常識:講師ミシェル姉


 〇礼儀作法:講師グレース姉


 〇魔法訓練:講師クーガー姉


 〇料理習得:講師アマンダ姉


 〇子供達と遊ぶ:講師タバサ他


「おお、確かにすっげ~な」

「予定がぎっしりですねぇ」


 俺とロヴィーサが反応して、コメントを発したら、サキが解説してくれた。

 ロヴィーサの為である。


「ええっと、服飾はぁ、服飾デザイナーになる為の勉強なの」


「サキ、服飾デザイナーって、何ですか?」


「人魔族の世界でも、服や靴を作るでしょ?」


「はい。魔法でいろいろと。従来は身を守るものがまずありきでしたが、今のアイデンティティとなり、自然に考え方が変わりました。ええっと、今は好みというか、着ていて楽しいものになりました」


「そうそう! 服飾デザイナーはおおもとのデザインを考える仕事なの。どんな服や靴を作れば、着やすくて、お洒落で、お客様が喜んで買ってくれるか、そのデザインを一生懸命に考えるのよ」


「む、難しいですね。他人の為に服を作るなんて……」


「論より証拠。クラリス姉の工房で一緒にやれば分かるよ。クラリス姉は服を作るだけでなく、素敵な絵も描くの」


「クラリス様は、絵もお描きに?」


「うん! 服は勿論、絵も大評判で、あちこちでバカ売れ。家にも絵があるよ。飾ってあるの見たでしょ? 私も旦那様と出会ったシーンを描いて貰ったよ」


「は、はい! ケン様と奥様達の出会いを描いた奇跡の再会、奇跡の邂逅ですね! す、素晴らしかったです! 絵って、あんなに感動出来るものだったんですね!」


「うふふ、でね! 服のデザイン画以外に、私も絵を描いてるよ。村の風景画とか! へたっぴだけど楽しいの。ロヴィ姉も描いてみる」


「……ぜ、ぜひ!」


 サキとロヴィーサの会話が弾んでいた。

 

 引っ込み思案のロヴィーサが良くしゃべり、前向きとなっていた。

 良い事だ。


 少しだけ解説すると、一般常識はこの異世界で生きる作法。

 前世の日本とは勝手が全然違う。

 転生者のサキには必須。


 礼儀作法は上流社会のしきたり等。

 王都の貴族令嬢だったグレースは熟知している。

 これから担う秘書業務の為、各種族の王族、リーダーと接する際に、身に着けておいて損はない。


 魔法の訓練は言わずもがな。

 素質のあるサキには、ぜひ受けて欲しい訓練。

 前世は中二病だった本人もやる気満々。

 魔導書を読むのも好きらしい。

 その魔法の話題になった。


「ねぇ、ロヴィ姉も魔法が使えるでしょ?」


「ほんの少しだけ……以前は、いろいろな高位魔法がもっと使えたのですが、創世神様から制限がかかって、おおがかりな魔法は使えなくなりました」


「……じゃあ、リスタート! 一緒にやろう! 目指せ! ふたりで上級魔法使い!」


「は、はい!」


「お料理作るのも楽しいよ! アマンダ姉やベアーテ姉はハーブ料理の達人なんだ。服や絵と同じで、料理って人が喜んでくれるって思うの。ロヴィ姉も美味しい美味しいって、嬉しそうに食べてたよね」


「は、はい……凄く美味しくて、つ、つい……思い出すと恥ずかしいです」


 ひとつ気になるものがあった。

 最後のこれは……『勉強』なのだろうか?


「サキ、子供達と遊ぶって、何だ?」

「文字通りよ。タバサ達と遊ぶの。だるまさんがころんだとか、サキが大得意な、あっちむいてホイとかで」


「もしかして……」


「そう! 将来、愛する旦那様の子供が出来た時の予行演習よ! ロランやアンジュの子守りも自分の子育てに向けて、良い経験になるよね」


 サキはそう言うと、可愛らしく俺へウインクしたのであった。

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