第15話「ボヌール村の休日②」

 朝食の準備もほぼ終わり……

 俺は嫁ズを手伝い、配膳。

 料理を盛りつけた皿をどんどんテーブルに載せていた。


 と、その時。


「おはよう!」


 まず片手を挙げたクーガーが現れ、はきはきと家族に朝の挨拶。


 続いて、


「おっはよぉ~!! ごっめ~ん!」

「おおお、おはようございます! す、す、すっみませ~ん!!」


 片や、ひたすら元気に明るく。

 こなた平身低頭。

 好対照の謝罪挨拶で、大広間に現れたのは、サキとロヴィーサのふたりである。


 新参のロヴィーサはともかく、クーガーとサキはいつもの時間よりだいぶ遅い起床である。


 しかし誰も3人を責めない。

 嫁ズはリゼット経由で……

 サキとロヴィーサが、俺とクーガー、フィオナに同行した事を知っているから。


 タバサ以外のお子様軍団には、クーガー、サキ、ロヴィーサは自室で夜遅くまで仕事だと伝わっている。


「よっし、私も配膳手伝うよ」


 堂々としたクーガー。


「す、す、す、すみません! ね、寝坊しました!」


 やはり好対照なロヴィーサである。

 と、ここでサキがまたもフォロー。

 そっと小声でロヴィーサへささやき、他の家族に聞こえないよう、気を遣っている。


「ロヴィ姉、寝坊はNGだけど、ちゃんと理由があるじゃない。必要以上に謝る事ないよ」


「で、でも……」


 同じく小声で口ごもるロヴィーサ。

 「にやっ」と笑ったサキは、配膳するクーガーを指さした。

 

 一気に声が大きくなる。


「あはは、見てよ、クーガー姉のふてぶてしい態度」


「え? は、はあ……」


 いきなりふられて、反応に戸惑うロヴィーサ。

 しかしサキはお構いなく、クーガーのコメントを続ける。


「私達と同じく遅刻しておいて、全然悪びれない。まるで自分を中心に世界が回ってるって感じだよ」


 しかし!

 ネタにされたクーガーが向き直り、仁王立ち。

 サキを睨んでいた。


「ごら、サキ! まる聞こえなんだよ」


「うわ! 地獄耳。さすが、元何とかだけある」


 おっと、これは危ないコメント。

 元魔王にかけた、『地獄耳』なのだろう。

 

 だが、クーガーは本気で怒らない。

 余裕がある。


「うっさい、余計な事言うな。さっさと手伝いな!」


 サキも心得たものである。

 ビシッと、クーガーへ敬礼した。


「いえっさ~! さあ、ロヴィ姉、配膳手伝おう」


「は、はい!」


 俺は配膳をしながら横目で見ていたが……

 サキが再び良い働きをしてくれた。


 まだまだ戸惑うロヴィーサを引っ張りながら、サキは笑顔で配膳を手伝い始めたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 そんなこんなで配膳も終わり……

 

「頂きます!」

「「「「「「「「頂きます!」」」」」」」」


 いつもの挨拶と共に、ユウキ家の朝食が始まった。


 メニューは香りで、俺が嗅ぎ分けた通りであった。

 焼き立てのパン数種に村名産のはちみつ。

 熱い、具沢山の野菜スープ。

 ハーブ入りのぶっといソーセージ、

 それと黄色が鮮やかな湯気の出るスクランブルエッグ。


 食べた事がないものもあるのだろう。


 おそるおそる口に入れたロヴィーサであったが……

 その瞬間、表情が一変した。


「おいし~いっ!!」


 隣に座るサキも、にこにこ。

 しかし何を言うではなく、黙って見守っていた。


 ロヴィーサは配られた1人前を、あっという間に完食。

 『お代わり』を希望した。


 付き合いの良いサキは、一緒にお代わりをした。

 ふたりは顔を見合わせて、「美味しい」と満足そうに頷いたのである。


 30分後……

 朝食が終わり、家族は全員、改めてお茶を飲んでいた。


 食事を摂る際、飲んだ紅茶と一緒であるが、全然こだわらない。


 ロヴィーサが話しかけて来る。


「あ、あ、あの……ケン様。ちょ、ちょっと宜しいですか?」


「何だい?」


「さ、昨夜の魔物討伐の事、謝りたいのですが……」


「え?」


「クーガー様から、い、いろいろ事情を、お、教えて頂きました……私、全然事情を知らなくて……」


 おっと!

 ロヴィーサが『ふるさと勇者の業務』を話し始めた。

 気持ちが先走って、約束事を忘れてしまったに違いない。

 

 ふるさと勇者は、こっそり行う内緒の裏稼業……

 家族でも知らない者が居る。

 

 一般の村民は勿論、家族でもタバサ外のお子様軍団は、俺がふるさと勇者だと知らない。

 もう少ししたら、カミングアウトするつもりなんだけどね。


 俺は手を軽く出して制止し、指を唇にあてた。

 サキも「し~っ」と言い、再びフォローしてくれた。


 さすがにロヴィーサも自分の口が滑った事を認識する。


「ご、ご、ごめんなさいっ……な、内緒でしたよね……」


「ああ、内緒だぞ。それに事情を聞いて理解してくれたなら、謝らなくても構わないさ」


「わ、分かりました。でも……ケン様の口から、改めてお考えをお聞きしたいです」


「分かった、今度話そう」


「あ、ありがとうございます。ところでケン様、今日のご予定は? 私は何をすれば宜しいですか?」


「いや、今日は秘書業務はナシ。日曜だから基本的には休みなんだ」


「え? 基本的には休みって……」


「今日はロヴィーサが仕事から一切解放され、自由に時間を使える日だ」


「えええっ? 仕事から一切解放? 自由に時間を使えると言っても、私、どうしたら良いのか……」

 

 ロヴィーサは、戸惑っているようだ。

 右も左も、勝手も分からない地上で、休みだと言われ判断が付かないらしい。


 と、ここでサキが「はい!」と手を挙げる。


「ロヴィ姉!」


「な、何でしょうか?」


「私と一緒に過ごさない?」


「え?」


「実は今日、私、予定がびっしりなんだ」


「でも……サキの邪魔になったら……」


「構わないって、全然OK! ノープロブレム! 一緒にやらない? きっと楽しいよ」


 確か今日、サキはいろいろな習い事、修行をする事になっていたはず。

 更にふたりの距離を縮めるのに良いかもしれない。


「サキが問題ないと言っているんだ。甘えれば良い」


「ケン様……」


 俺のコメントが後押しになったらしい。


「分かりました、ケン様。サキと一緒に過ごしてみます」


 心を決めたロヴィーサは笑顔で頷いたのである。

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