第10話「真夜中の訪問者」
アールヴの国イエーラ――
上機嫌となったソウェル、イルマリ様も凄く前向きな姿勢で、施策の実施に向けて、真剣に取り組んでくれた。
複数の懸案事項もすり合わせ、いくつかは解決し、残りは次回への宿題となったが、頭を抱えてしまうような高難度の問題はない。
これは秘書見習いたるサキの効果も大きいだろう。
サキ自身も素敵な経験を積む事が出来たし、同じ立場のロヴィーサと互いの心の距離も縮まったようである。
ロヴィーサが上がってしまい、ピンチ発生の際、サキがナイスフォローをした事が大きかったらしい。
さてさて!
転移魔法で意気揚々と、ボヌール村の自宅へ帰って来た俺達は、美味しい夕食を摂り、食後はお茶を飲みながら語らった。
話の成り行きで……
サキが『ジャンケン』と『あっちむいてホイ』をロヴィーサに教え、早速勝負。
しかしこのふたつの遊びはサキの独断場。
相変わらず家族は誰も勝てない。
なのでサキは新参のロヴィーサに教え、自分も楽しもうと考えたようだ。
当然というか、元悪魔のロヴィーサはジャンケンもあっちむいてホイも知らなかった。
だが、ロヴィーサは呑み込みがとても早かったから、両方ともすぐにルールを覚えた。
サキが丁寧にそして熱心に教えた事もあり、ロヴィーサはとても面白がり……
完全に、はまってしまった。
それが何と!
ジャンケンが覚えたてのわりに、ロヴィーサは結構強かった。
百戦錬磨?のサキと互角以上に戦ったのである。
こうなるとサキも意地になる。
これまで君臨した絶対王者として、ユウキ家の先輩として、絶対に負けられないと、きっぱり言い放った。
ふたりの秘書見習い女子は、互いに燃えた。
「ジャンケンポン!」
「ジャンケンポン!」
「あいこでしょ!」
「あいこでしょ!」
「あっちむいてホイ!」
「あっちむいてホイ!」
「貴女達いいかげんにしなさい」
呆れたリゼットに叱られて止められるまで……
その日の夜、ユウキ家の大広間にはサキとロヴィーサの戦いの声が響いていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そのサキと俺は今夜『一緒』に寝る。
まだまだ家族には内緒。
夢魔リリアンの生まれ変わりとして、運命の出会いをしたサキは、ボヌール村へ来てもうまもなく2年となる。
周囲から、だいぶ大人びて来たと言われ、本人も得意になってはいるが……
俺から見れば、まだまだ子供。
そんなサキではあるが、彼女自身、子供が大好きな事もあり、口癖は決まっている。
「早く子供が欲し~い」
「元気な可愛い子を産みたいの!」
「大好きな旦那様の子をプリーズ!」
このうちのひとつを最低でも1日、1回は言っている。
と、いうわけで、サキとの愛の交歓は毎回熱い。
「旦那様ぁ! 旦那様ぁ!」
俺は甘えに甘えるサキとたっぷり愛し合い、充実感と共にふたりは眠りに落ちる。
しかし数時間後、俺は目が覚めた。
傍らのサキは満ち足りた表情でぐっすりと眠っていた。
思わず微笑んだ俺は、サキが目覚めないよう、そっと起き上がった。
実はこれから仕事があるのだ。
魔導時計を見れば、午前1時過ぎ。
真夜中ではあるが、日付けは変わり、もう日曜日。
日曜日は週のうち、唯一の休日。
なのだが、俺はこの時間から明け方前まで仕事をする。
ボヌール村へ来てからずっと継続している仕事、
『ふるさと勇者』としての魔物討伐を行うのである。
当初は、俺が単独でやっていた討伐だが……
クッカとクーガーが人間に転生してから、手伝って貰うようになり……
ベアーテが嫁入りしてから都合3人の補助者がついた。
この3人のフォローははっきり言ってありがたい。
転生し、能力は抑えられてしまったとはいえ、元女神と元魔王のふたりである。
充分に上級魔法使いを、否、更に超える力がある。
3人とも飛翔魔法を使えるから移動も楽チンだ。
ちなみに今夜の補助者はクーガーである。
もう少ししたら、俺の部屋へ来る事となっていた。
俺は手早く支度をした。
愛用の防具に着替え、腰から剣を提げる。
まもなくクーガーが来るはずだ。
サキは相変わらず眠っていた。
彼女も俺がこの日のこの時間、魔物の討伐を行う為、自宅を抜け出す事は当然知っている。
再び転移魔法で、この部屋へ帰還したら、優しく「お疲れ様」と言ってくれるはずだ。
誰かが来る。
気配を感じる。
しかしこの波動はクーガーではない。
おいおい!
これは!?
俺はサキを起こさないよう、そ~っと室内を歩き、静かに扉を開けた。
やはりだ!
この時間に来るはずがない者が居た。
「……………」
扉を開けた廊下に、俯き無言で立っていたのは……
来たばかりの美しき秘書見習い、ロヴィーサであったのだ。
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