夢で絆を編

第1話「再会とカミングアウト」

 ここは何もない、真っ白な異界……

 「何か」あれば俺が来る世界。

 当然現世ではなく、異次元、虚構の世界である。


 目の前にはヴァレンタイン王国宰相レイモン様が居る。

 由緒正しい英雄の子孫、やんごとなき方だ。

 会話は心と心の会話、念話である。


『レイモン様、こんばんは。ご無沙汰してます、お元気ですか?』


『おお、ケンよ、こんばんは。という挨拶も……』


 と言い、レイモン様は周囲を見回した。


『……ん~、今は真夜中のはず。時間が時間なのに、この風景ではピンと来ないな』


 レイモン様のセリフではないが……

 この会話から「ピン!」と来た方も居ると思う。


 そう、現世では只今、真夜中、まもなく日付けが変わる……

 俺は今、レイモン様と『夢の世界』で会っているのだ。


 付け加えれば、お互いに存在する場所も離れている。

 俺はボヌール村の自宅の寝室、レイモン様は王都セントヘレナ王宮の同じく寝室で休んでいるのだ。


『レイモン様、ご気分は? 何か違和感はないですか?』


『いや、大丈夫。だけど、ケン、この世界は思ったよりリアルだな』


『ですね』


 さてさて、というわけで!

 いよいよ……

 俺をMC役として、3者首脳会談が行われる。

 趣旨は懇親、情報交換、そして一番大きな議題と言うか、課題は、

悪魔侵攻への対策検討である。


 俺の呼びかけに賛同した、レイモン様、アールヴのソウェル、イルマリ様、

 そして妖精王オベロン様の3人が……

 種族の垣根を超え、迫り来る災厄を乗り切る為、一致団結して事にあたると決めたのである。


 会談を、魔法を使った夢で行うのも理由がある。


 まず第一に安全&警備面を考えて。

 次に各自が多忙の為。

 そして段取りの手間を考え、俺の夢を使ったリモートワークというか、そういう形としたのだ。


 しかし夢の中で、話し合うなど、レイモン様には未経験。

 イルマリ様、オベロン様も多分慣れてはいない。


 その為、まずトライアルとして、俺と各首脳が夢の世界で会う事となった。


 と、ここで!

 俺の『聞き慣れた声』が心に響いた。


 異界では良く聞く声だが、タイミング的には意外だ。


『お~い、ケンく~~ん』


『え? 管理神様?』


 どうして?

 と思った。

 はっきり言って、驚いた。


 と思ったら、管理神様がお出ましになったのは、

 これまたちゃんとした理由わけがあった。


 俺にとっては、結構なサプライズである。


『今回の4者会談だけどさぁ、緊急事態だからぁ、僕が特別に許可するよ~ん』


『緊急事態? 特別に許可?』


『そうだよ~ん。君の正体、立ち位置をオープンに、つまり3人へカミングアウトするんだよ~ん』


『え? 俺の正体を3人へカミングアウト? それって……天界の極秘事項では?』


『だいじょうぶいぶいっ! 言っただろう? 緊急事態だってさ。僕にお任せあれぇ~だよ~ん』


『は、はい……』 


 というわけで、早速管理神様とレイモン様の会話が始まった。

 ちなみに、俺が後でレイモン様と話を合わせやすく出来るように、

 回線を解放してくれている。

 なので、俺は黙ってふたりの会話を聞く事にした。


『レイモン・ヴァレンタインよ、私の声を憶えているか?』


 あれ?

 俺と話す時と管理神様の口調が全く違う。

 ガラリという擬音がピッタリな感じに変わった。


 「よ~ん」とか語尾に付けないし、フレンドリーではなく、

 とてもおごそかな感じだ。


 対して、レイモン様は予想通り、とても恐縮している。

 まあ、相手が神様なら仕方ないだろう。


『は、はい! ケンの夢を見せてくれた時の方ですね? ……という事は、神様でいらっしゃいますか?』


『うむ! 私はこの世界を創世神様から預かり、管理する神、管理神だ』


『は、はい! か、管理神様!! に、認識致しましたっ!』


『宜しい! レイモンよ、私はずっと見ていたぞ。お前は愛する者との別離に耐え、懸命に且つ真っすぐに生きている、人の子として理想的だ』


『そ、そんな! お、おそれ多いです! 私はまだまだ未熟なのですっ!』


『はは、自信を持て、レイモン。難儀する民を救った英雄の血はしっかりとお前に受け継がれておるのだ』


『ありがとうございますっ。そのお言葉が励みとなりますっ!』


『うむ! ケンとお前が邂逅かいこうしたのは運命である』


『は、はい!』


『レイモンよ、お前は、遥かないにしえに生きた祖と同じく英雄となり、ケンと力を合わせ、この世を災厄から救うのだ』


『わ、私が英雄!? この世を災厄から? つ、つまり悪魔から!?』


『そうだ! 人々を救え! ケンに共感し、ともに歩け!』


『は、はい! そのつもりですっ』


『ケンに従う事に臆し、遠慮する事はないぞ。ケンはもはや、神となった』 


『えええっ!? ケ、ケンが!? 神!?』


『だが……ケンは我々のような天界の神とは違う。人の子の価値観を持ったまま、同じ考えで動く。だが普通の人の子と決定的に違うのは……つまらぬ垣根を超え、違う種族の価値観も受け入れる寛容さを持っている事なのだ』


『わ、わかりますっ! 理解出来ますっ! ケンが! ケンが居たからこそっ! 私はアールヴや妖精の王と話し、絆を結ぶ事が出来るのですからっ!』


『よし、レイモン! お前は良く分かっているようだ。ケンや他の者と、上手くやるのだぞ、さらばだっ』


 え?

 管理神様、何ですか、それ?

 

 俺とやり取りする時は、いつもさっくばらん。

 話が終わるとさっさと「バイバイ」でしょ?

 「さらばだっ」なんて、カッコいい去り際の言葉なんか、聞いた事がない!

 ……おっと、一回くらいはあったか?

 

 まあ……良いや。

 管理神様のフレンドリーさに、俺は文字通り救われているのだから。


 という事で、最後に管理神様が念押しし、カミングアウトの会話は終わった。


 でも会話の直後から……

 俺を見るレイモン様の目は驚きと畏敬に満ちていたのである。

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