第18話「新人女神達の決意、そして旅立ち①」

 夕陽を見ながらクッカと語らい、愛娘タバサの成長を実感。

 ボヌール村ぐるみのバーベキューで盛り上がった夜、

 

 俺は期待と不安を内に秘め、自室のベッドへ入った。

 今回行われた新人女神の研修が、今夜にでも総括されると予感したからだ。

 管理神様が研修の終了を宣言したから。


 でも気付いた事がある。


 俺って、前世では、はっきりした関係の後輩って居なかった。

 友達は居たけれど、親身に面倒を見た後輩は思い当たらない。

 まあ先輩も同様で顔見知り程度。

 

 でもこの異世界に来てからはアンリを含め、素敵な後輩がたくさん出来た。

 実際に体験して判明したけれど、俺は体育会系タイプかもしれないって。

 何故ならば、後輩の世話をする、面倒を見るって大変なんだけど、けして嫌じゃない。

 却って楽しいのだ。

 

 後輩の代表格アンリは、期待に応えてたくましく立派に成長してくれた。

 今や、ボヌール村にはなくてはならない。

 欠かせない人材となった。

 果たして、今回手解きした新人女神達はどうだろうか?


 そんな事を考えながら、目を閉じたら……

 昼間の疲れの心地良さもあって、すぐ眠ってしまった。


 瞬間!

 俺はまた異界に居た。

 夢の世界につながっている、真っ白で無機質な異界である。


 周囲を見やれば……居た!

 可愛い後輩、新人女神のふたり、ヒルデガルドとスオメタルが。

 ふたりは相変わらず対照的である。


 動のヒルデガルドは笑顔で大きく手を打ち振り、

 静のスオメタルは無言で深々とお辞儀をしていた。


 多分、ふたりとは今夜で『お別れ』だろう……

 会ったのは一回限りではないけれど、感覚的にはまさに一期一会。

 

 本当に短い間だったけど、神様の先輩と後輩としての間柄となり、

 結構濃い時間を共有出来たと思う。


 ふたりとはもう二度と会えないかもと思えば、

 俺は、一抹の寂しさを感じているかもしれない。

 

 まあ、人生は出会いと別れの連続……

 こんな時は、笑顔で明るく別れるに限る。


 俺もヒルデガルド同様、手を振って近付いた。


『お~い、おつかれさ~ん!!』


 おお、改めて見やれば、ふたりとも堂々としていた。

 初めて会った時は、固い雰囲気があった。

 けれど今は、放つ波動も自信に満ちあふれていて、素晴らしい。


『ケン様、お疲れ様でっす』

『お疲れ様でございます、ケン様』


 と、ここで……

 管理神様の声が異界に響く。


『はいは~い。今日は研修の修了式だよ~ん。ヒルデガルドにスオメタル、ふたりからケン君へ修了報告を宜しくだよ~ん』


『了解でっす!』

『御意でございます』


 ふたりは管理神様の声に応えると、顔を見合わせてにっこり笑った。

 まあ、予想通り、今日は研修の総括を行うのだろう。


『では、私から研修の修了報告を致しまっす』


 ヒルデガルドが先に切り出し、修了式は開始されたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『まずは、時間の流れが全く違う事を、ケン様にご理解頂きたいっす』


『時間の流れ?』


『そうっす。私D級女神ヒルデガルドは、元日本人の転生者リュウ・ハヤトの人生最後の日までを見届けましたっす』


『…………』


 そうか……

 以前、ヴァルヴァラ様から聞いた時と同じだ。


 ヴァルヴァラ様がサポートというか、弟子として指導したラウル王子……

 時間の流れが違うせいで、俺がヴァルヴァラ様と再会した時、

 彼は人生を全うした後だった。

 俺に憧れてくれ、弟みたいに感じていたラウル王子とは、

 一度くらい会いたいと思っていたが……再会は叶わなかった。


 あのリュウも……

 既に世を去っているのだ。

 そう思うと、少し感傷的になった。 


『リュウは自らの致命的な汚点、管理神様からのレクチャーを失念するという大きなミステイクを、私に師事する事で何とかリカバリーしたっす』


『…………』


『ケン様の説得と教えによりリュウは完全に心を入れ替えたっす』


『…………』


『やはり人間というものは守る者が居れば、限界を超える力を発揮する事が出来るという事を、今回の研修で私は学び体感したっす』


『…………』


『リュウは自分のついた嘘を払拭する為、己自身の力で村の少女アメリアを守る為、私の厳しい修行に耐えたっす』


『…………』


『結果! リュウは管理神様から与えられた素質を見事に開花したっす。レベルは50そこそこだったすが、襲来する魔物を始め、大抵の敵からアメリアを含めた村民達を守り切ったっす』


『…………』


『20歳になった時、リュウは恋仲になっていた2歳年下のアメリアとめでたく結婚。彼を慕う村民達の後押しもあって村長になったっす』


『…………』


『アメリアとの間に子供も男女ふたりずつ4人も生まれ、リュウは意外にも凄く子煩悩なパパだと発覚したっす』


『…………』


『それから、約60年余、リュウはアメリアと仲睦まじく暮らしながら、村を必死に守り、運営したっす』


『…………』


『その間、飢饉が起こった際には村を治める貴族領主へ、村長として直談判じかだんぱんしたっす。最初は少しびびって臆したっすが、考え抜いた上、覚悟を決め、私ヒルデガルドのアドバイスを受け、身体を張り、命を懸け税金減額に成功したっす。結果、村は飢えから救われたっす!』


『…………』


『村の為、ふるさと勇者として、全身全霊で尽くしたリュウだったすが、やまいと老いには勝てなかったっす。後継者である息子に後を託し、安らかに眠るように人生の幕を閉じたっす』


『…………』


『以上っす』


 そうか……

 気弱ですぐ逃げようとしていたリュウが……

 アメリアという素敵な人生の伴侶を得て、愛と戦いに身を投じ、己の人生を全うしたんだ。


 俺は世を去ったリュウにエールを送る。

 

 偉いぞリュウ!

 本当に良くやった!

 お前は、俺との約束を見事に果たした。

 大好きな女子を必死に守り、幸せに満ち溢れた笑顔にした素晴らしい男だ!

 

 リュウへのエールの後、俺は再びヒルデガルドを労わる。 


『改めて、お疲れ様と言おう。リュウを良くサポートしてくれたな、ありがとう、ヒルデガルド』


『ケン様に褒められて素直に嬉しいでっすが、私は大いに後悔してるっす』


 意外とも言えるヒルデガルドの悔恨の思い……

 何故?

 そのような事を言うのだろうか?


 俺は首を傾げながら……

 ヒルデガルドから出る、次の言葉を待ったのである。

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