第43話 「一緒に! 父と呼ぼう!」
朝一番で行った猟&漁は、ベリザリオを含む全員の協力と奮闘もあって、たくさんの成果を得た。
兎、鹿、猪、そして鱒も……
意気揚々と帰還した俺達。
いつもの通り、見張り
目ざとく獲物をチェックした、レベッカ父ガストン副村長には大いに褒められた。
村の広場に到着した俺達は恒例の『おすそ分け』を行った。
このおすそ分けは、俺ケンが村長になってからは欠かさず行う『儀式』である。
村民は皆が家族……
このシンプルなポリシーにのっとり、村民へのサービスを行うのだ。
つまり、ひと世帯あたり、各数キロずつの新鮮な獣肉と、
鱒も各数匹、全てを無償で渡す。
当然、俺のユウキ家、アンリ夫婦、デュプレ3兄弟の家庭分は最初に取り分けてある。
僅かだが、現金収入としてユウキ家から手間賃もアンリ達へは渡す。
そして最後に残った分は大空屋に納品し、
有償の『商品』として村民が購入する事となる。
渡す手間賃分もこの売り上げより得る利益から捻出する。
こうしてボヌール村の経済を円滑に回す一助としているのだ。
ちなみに農作物は基本的に村民全員が自給自足。
各自が持つ村の耕作地で栽培。
作った分から自分達が食べる以外の余剰分を売り、
それで得た金からオベール様へ税金を納める形となっている。
閑話休題。
獲物の『おすそ分け』をしていると、村の子供達も見物にやって来る。
中には親の代理で受け取って行く者も居る。
ティナもタバサと共にやって来て、
父ベリザリオが働くのをじっと見つめていた。
ここで俺はひらめき、タバサへ『念話』で指示を入れる。
対してタバサも心得たもの。
ティナの手を強く引き、ベリザリオの下へ向かう。
少し嫌がり抵抗したものの、ティナはタバサにより「ずるずる」と引っ張られた。
笑顔のタバサ、しかめっ面のティナ。
対照的なふたりは、ベリザリオの前に立つ。
そしてタバサは開口一番。
「ティナパパ」
とベリザリオを呼んだ。
うん、俺のフォローが加わった、タバサの作戦がまたまた発動だ。
先日は「パパ」、今度は「ティナパパ」と呼ぶ事で、
自分の父である俺と、ティナの父ベリザリオを改めてはっきりと区別する。
それより重要な目的は、ベリザリオから無視される事を失くす事。
つまり、パパと呼ばれる事に慣れたベリザリオから、
常に気持ち良く返事を貰うという少女らしい思惑なのだ。
大丈夫だ、タバサ。
昨日なら高難度の作戦も、パパの俺がばっちりフォローした。
『今日のベリザリオ』なら成功の確率が大幅アップなのさっ!
と、俺が笑顔でエールを送れば、
「おう! タバサちゃん」
と、案の定ベリザリオが同じように笑顔で返事を戻した。
よっし!
作戦大成功!
一方、
いつもの無愛想&仏頂面の父とは全く違う、
優しい笑顔を目の当たりにしたから。
何故?
どうして?
不可解?
とティナの顔には、はっきりと描いてある。
否、描いてあるばかりじゃない。
全く想定外の状況にポカンとして固まってしまっていた。
タバサはにっこり笑い、凝固状態となっているティナへ促す。
「ほら、次はティナの番だよ! パパって呼んで!」
「…………」
「ほら、ほらっ!」
「…………」
「もう!」
タバサが何度も促し、ようやく『素敵な魔法』は成功した。
「……パパ」
俺とタバサが見ている前で……
かすれた声を発し、ティナがベリザリオを父と呼んだ。
少し顔が強張っているが、確かに呼んだ。
そして、笑顔のベリザリオに応えるよう……
優しく微笑んだのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
こうして……
今朝一番にゲットされた獲物は我がユウキ家の厨房へと運ばれた。
今日は俺も手伝いとして厨房へ入る。
当然タバサと、ティナ達父娘も一緒に。
我が家の厨房で俺は調理担当ではない。
あくまでも下働きに徹する。
肉、魚の下ごしらえ、野菜の洗浄、皮むきなどが主な仕事なのである。
まあ調理に関しては、密かに練習しているが、家族には内緒だ。
いずれアマンダにいろいろ、本格的な手解きを受けようと考えている。
再び閑話休題。
こんな時、パパッ子のタバサは華やかな調理担当の嫁ズではなく、
地味な下働きである俺の手伝いに加わってくれる。
この子は本当に素敵な子だ。
そして今回はティナも一緒に……
ここで俺も作戦発動!
ベリザリオとティナに効率的な洗い物のやり方、包丁の基本的な使い方を教える。
再び父娘ふたりで住む際……
料理を作る楽しみを味わって貰おうと思うから。
仕事一筋で料理は未経験だと語ったベリザリオへ、
そしてティナへも料理自体に興味を持たせる為だ。
ほら、「百里の道も一足から」と言うじゃないか。
幸いふたりとも手先が器用で、呑み込みがとても早かった。
それにとても楽しそうにやっている。
この分なら、嫁ズにバトンタッチし、
『料理教室』へ即、入室ということになりそうだ。
ふたりで仲良く調理し、作った料理で食事を楽しむ……
そうなれば、父娘の心の距離は更に縮まる。
元の通りへ、ティナの母が健在な頃の、
仲睦まじいふたりになるのも、そう遠い日ではあるまい。
と、その時。
『パパ!』
と、俺を呼ぶタバサの声が、心に響いて来た。
念話を使う事が、もうすっかり板についている。
我が娘ながら誇らしい。
『おう!』
と返事をすれば、タバサが放つ感謝の波動が伝わって来る。
『ありがとう! ティナと仲良くするよう、ティナパパを説得してくれたんだね?』
『うん、昨夜いろいろ話したよ』
『さっすが、パパ。タバサも分かるよ、ティナパパ……凄く変わった、優しくなった!』
『だな! でも俺は大した事はしていない。タバサが頑張ったからさ』
『ホント? じゃあ! 今回はパパとタバサ、ふたりのお手柄だね?』
あはは、タバサめ、嬉しい事を言ってくれる。
でも「勝って兜の緒を締めよ」とも言うぞ。
だから俺は、愛娘へ念押しをする
『タバサの言う通りだ。でもまだまだ完全じゃない、もう少し俺達ふたりでティナ達をフォローしてやろう』
『了解! じゃあもっともっと! 凄く仲良くさせて、ティナ達を気持ち良くアヴァロンへ送ってあげようよ!』
素直に俺の注意を受け入れ、前向きな言葉を発してくれたタバサ。
確信する!
今回の『卒業旅行』を経て、タバサはより成長し続けていると。
親バカと笑われても構わない。
タバサは……やっぱり『俺似』なんだ。
とても嬉しくなった俺は、大きく頷いていたのだった。
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