第37話 「妖精の国アヴァロンにて⑨」
翌日午前……
ベリザリオの了解を貰った俺は、
オベロン様夫婦へ謁見を申し入れ、即座に了承された。
ティターニア様からは正式に頼まれたが、改めてきちんと『筋』を通す為である。
当のベリザリオも共に呼ばれ、俺とふたりで、王の間にて
先日同様、オベロン様ご夫婦は一対の玉座に座っている。
短い朝の挨拶が終わり、俺は早速趣旨を伝えた。
「オベロン様、ティターニア様に申し上げます。おふたりには事前にご了解を頂きましたから、ベリザリオ殿、そしてティナ殿を暫し我が村ボヌールにてお預かり致します」
「ちら」と横目でベリザリオを見たら、半信半疑という面持ちだった。
俺がああは言ったが……
彼が忠誠を尽くす
しかし!
そんな疑念はあっさりとくつがえった。
「うむ! しかと承った。ケンよ、我が忠実なる家臣且つ大切な同胞ふたりを、そなたへ任せるとしよう」
とオベロン様が笑顔で頷けば、ティターニア様も同じく、
「ケン、ありがとう。宜しくお願いしますよ」
と礼を言い、嬉しそうに微笑んでもくれた。
ふたりの反応を見て聞いて、
「意外だ!」というベリザリオの驚く気配が伝わって来る。
オベロン様達からの答えは、どう返って来るか、
おおよそ分かってはいたが、俺は一応安堵した。
また……
こんな時、けして俺は笑ってはいけないのだが……
かしこまった目の前の妙齢の美女が……
あの我が儘でやんちゃなテレーズと同一人物だと思うと、つい可笑しくなってしまう。
オベロン様が更に言う。
少し残念そうな雰囲気である。
ティターニア様も同じく。
「私達も……政務さえ忙しくなければ……な」
「本当にそうですね、またの機会を楽しみにしています」
他の家臣が居る手前、皆まで言わなかったが、
今回オベロン様達は、ボヌール村へ行く都合がつかないらしい。
ふたりと再会が叶わなかったままの俺なら……
寂しさから、不満の色を見せていたに違いない。
だが……
一昨日に思う存分、
ふたりと話した俺には精神的に余裕がある。
うん!
納得。
オベロン様が言った通り、
どうやら俺は、ひとりで頑張り過ぎていたみたいだ……
なのでひと言。
「オベロン様、ティターニア様。日々お忙しいでしょうから、私からも、またアヴァロンへお伺いさせて頂きます!」
「うむ! いつまでも待っておる。ケン、そなたなら大歓迎だ」
「私達もなるべく早く、自由になる時間を作ります」
再会の申し出をふたりに快諾して貰い、
俺は晴れやかな表情で、ベリザリオと共に王の間を後にしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この日は俺、ベリザリオとも旅立ちの準備に充てた。
タバサはといえば、ティナといろいろ話していたみたいだ。
……その次の日がいよいよ出発となった。
アヴァロンを出るまでは、来た時同様、
次元を越え、ベリザリオの案内で俺の住む世界へ戻る。
実は、俺の転移間魔法で帰る事は出来たのたが、
ここは余計な事を言わず、オベロン様の好意に甘えておく。
多忙なオベロン様達だが、
家臣と共に、わざわざ見送りに来てくれた。
こんな時、別れの挨拶は短い方が良い。
「では、また」
と俺が言えば、タバサも、
「失礼致します」
と、パパ似の簡潔な挨拶で締めてくれた。
何か、昔流行った唄のようなフレーズだと感じる。
すぐまた会えるようなフレンドリーさが好ましいと思う。
片や、ベリザリオはそうはいかない。
俺とは立場の違いがあるから、きちんと挨拶をしなければならないのだ。
「我が主よ。申しわけありませんが、少々留守に致します」
でも、ここはオベロン様も心得たもの。
「うむ! 私の代わりに人間界の視察を宜しく頼む」
「かしこまりましたっ!」
王の命令に対し、
きちんと敬礼するベリザリオは、『忠実』という文字を妖精にしたような男だ。
成る程!
王に代わって、人間界の『視察』か。
でも愛娘を連れて、ふたりきりで行くのは少々違和感があるかも。
……まあそんな細かい事は、ここでは置いておこう。
そして、ティナも父に続いた。
「オベロン様、ティターニア様、アルベルティーナはしっかりと勉強して参ります」
ほう!
娘の方は人間の村で『勉強』ね。
こちらはテレーズことティターニア様お預かりの例があるから、充分に納得。
かつて我が村で暮らしたテレーズは、いろいろな事を学び、体験して帰って行った。
多分、一昨日の晩……
ティターニア様が、タバサ、ティナと3人で話した際、自らの様々な経験を楽しく話したのに違いない。
その証拠に、
昨日俺が「全てOKとなった」と報告をしたら、
ティナは飛び上がって喜んでいた。
終いには、タバサと一緒に踊りだす始末。
だが……やはりというか、
父親の事に、深く触れようとはしなかった。
俺はタバサと村へ戻る喜びと共に、
ベリザリオとティナの仲を何とか、修復しようと、気合を入れ直したのであった。
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