第28話 「ベリザリオ現る!」

 どのような事が起ころうとも……全て対処する。

 この身が砕け散ろうとも……

 

 そう、たとえ命を懸けても!

 俺がタバサとティナを守る。

 必ず守る!


 身構えながら、そんな強い決意を固めていた時、漏れ出たティナのつぶやき……

 いきなり現れた正体不明の相手を『お父様』と呼んだ衝撃。


 現れたのが、ティナの父親と知り一旦は安堵した。

 しかし、どんな不測の事態が起こらないとも限らない。

 俺は警戒態勢を絶対に解かない。


 と、再び気を引き締めたその時。

 俺の心に、全く聞き覚えのない声が響く。

 これはもうお馴染み、魂と魂の会話、念話だ。


『ケン様、お久しぶりです』


『え?』


 いきなり?

 お久しぶりだって?

 

 ええっ?

 じゃあティナの父親に、俺はもう会っていたのか?


 そんな俺の心の声が聞こえたのだろうか、すぐに疑問の答えは戻って来た。


『お忘れになったのも無理はありません』


『ええっと……』


『当時の私は今の姿とも多少は違っておりますし、ケン様とは直接お話を致しませんでした。私が話すのは必要最低の内容に限り、基本的には無言を通しておりましたから』


『は、はぁ………』 


『宜しければ、ご記憶をどうぞ手繰たぐってくださいませ。以前オベロン様がティターニア様をお迎えに上がった際、付き従っていた妖精5名のうち、ひとりが私でございます』


『な、成る程! 思い出したよ』


 そこまで言われ、俺はようやく思い出した。

 

 確かに、そうだ。

 テレーズことティターニア様を迎えに来たオベロン様に、護衛として付き従っていた妖精の男女5名が居たっけ。


 男の言う通り、村に滞在する間……

 彼等彼女達は黙々と真面目に働き、必要最低限しか口を開こうとしなかった。


 しかし寡黙だというティナの父親は、しっかりと感謝の気持ちを告げて来る。


『お礼を申し上げます。このたびは、我が娘を悪魔の手からお救い頂きありがとうございます』


『いやいや、あの状況で助けるのは当たり前だから』


『……ケン・ユウキ様、改めて名乗りましょう。私がアルベルティーナの父ベリザリオでございます』


 その瞬間、目の前の空間がまっぷたつに割れた

 長身痩躯の法衣ローブ姿の男が、

 軽々とした身のこなしで、ひとり降り立った。


 一応人間に擬態はしているが、彼がベリザリオ。

 ティナの……父親なのだ。

 表情は……

 法衣についている頭衣ドミノを深く被っている為、良く分からない。


『アルベルティーナから急の連絡を貰い、オベロン様、ティターニア様へは既にこの子の無事を報告致しました。……もう貴方様は愛称のティナとお呼び頂いているようですが』


『ええ、ティナとは俺の娘共々、とても仲良くなりましたから』


『とても仲良くなったのでございますか? 貴方様のご令嬢共々……それは結構! 素晴らしい事でございます』


 俺は愛娘の命の恩人、そしてあるじオベロン様の親しき友人……

 そんな立ち位置を考えれば、仕方がないのかもしれないが……

 ベリザリオの言葉遣いは慇懃いんぎん且つ大仰だ。


 それに万が一の場合も考えた。

 目の前のベリザリオが『偽物』の場合もありうる。


 俺、そしてティナの、悪魔との因縁からだ。

 あのメフィストフェレスならば、

 ティナの父親を装って、俺を罠にはめる事をやりかねない。


 だが、俺には分かる。

 目の前のベリザリオからはティナとほぼ同じ波動が放たれている。

 そして俺へした話も整合性があり、嘘をついた時特有の乱れがない。

 確信した。

 目の前の男は正真正銘、ティナの父ベリザリオだと。


 つらつら考えた俺は少し口ごもる。


『ま、まあ、嬉しいですよ、ティナと仲良くなって。俺達も』


 と返したら、ベリザリオの声が更に数オクターブ上がった。


『では! ここでオベロン様のご希望とご指示をお伝え致します!』


『え? オベロン様の希望? 指示?』


『はい! ケン様とご令嬢のタバサ様には、ティナを送るついでに我が王国アヴァロンへいらして頂きたい』


 な?

 これから?

 アヴァロンへ?


 と驚いたが……

 よくよく考えてみれば、ボヌール村へ帰るタイミングとしては丁度良いかもしれない。


 記念すべきタバサの『卒業旅行』

 転移魔法等で一瞬で王都へ行くいつものパターン。

 なんやかんやで王都には約10日滞在した。

 

 このまま転移魔法を使って帰れば、出発してから10日あまりで往復した事となる。

 これでは全く辻褄が合わない。

 普通、馬車で王都までは、約2週間もかかるのに。


 まあ、内々で行くのなら、すぐ帰っても全く問題はない。

 村の近くで、キャンプ兼狩りでもしていたと伝えればそれで済む。

 何か獲物でもおみやげに持ち帰れば完璧なのだ。

 誰にも怪しまれる事はけしてないから。


 しかし今回、タバサとの王都行きを知っているのは嫁ズだけではない。

 出発の際に、お子様軍団にも、門番のガストンさん達にも伝えてしまっている。

 口止めをするわけにもいかないから、一般村民へ知れ渡っている可能性もある。

 

 俺の秘密は……

 家族や一部の仲間以外には明かせない。

 日程の矛盾を下手に指摘されたり、変な突っ込みなどされたくない。


 で、あればアヴァロンへの立ち寄りは良い時間潰しになる。

 否、時間潰しなどではない。

 卒業旅行の素晴らしいフィナーレとなるかもしれない。


 再びつらつら考えた俺は、アヴァロン行きを快諾する事にした。


『喜んで! 我が娘タバサと共にアヴァロンへ参りましょう』


 と、元気よく返事をしたのである。

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