第26話 「帰ろうか」

 眠り込んだティナのベッドへ、タバサが潜り込むのを見届けてから……

 俺は自分が眠るベッドへ入った。


 元々寝つきの良い俺は、すぐにぐっすりと眠ってしまった。


 …………

 …………

 …………

 …………


 ん?

 ……何か……

 気配がする……


 だが……

 危険は全く感じない。

 温かい波動から、警戒する必要はなさそうだ。


 翌朝……

 ひとり寝の俺が目覚めると、

 俺の魔法で、人間に擬態したままの

 妖精のティナがベッドに座り、俺の顔を覗き込んでいた。


 成る程……

 俺が感じた気配はティナだったのだ。

 という事は、タバサはまだ眠っているのだろう。


 ティナは俺に、朝一で何か言いたい事があるのだろうか?

 まあ良い。

 とりあえず挨拶だ。


「おう、おはよう、ティナ」


 と声をかければ、


「……おはよう、ケン」


 と、少し口ごもった返事が戻された。

 元気がない気がするけど……

 どうしたんだろう?


「ティナ、どうだ? 良く眠れたか」


「うん……よく眠れた。でもびっくりしたよ」


「びっくりした?」


「うん! だって、起きたらタバサが傍で寝ているんだもん」


「タバサが寝ていたら、びっくりしたって、嫌だったのか?」


 と尋ねたら、ティナはゆっくりと首を横に振った。


「ううん……全然嫌じゃない」


「タバサに聞いたぞ、一緒に寝るって約束していたそうじゃないか?」


「うん、一応ね。でもタバサが冗談を言っているのかと思ってた」


「冗談ねぇ……」


「ふふ、でもタバサの言っていたのは本当だったのね。……でも不思議」


「不思議?」


「うん……気を悪くしないで聞いてね。言い方が悪いから」


「構わない、言ってくれ」


「ええ、じゃあ言うわ。……私達妖精が、人間なんかとは一緒に寝る事は滅多にない。その上ぐっすり眠れるなんて凄く不思議なの」


 人間なんかとは、か……

 種族にもよるが、アールヴといい、やっぱり妖精族は良く言えば誇り高い。


 悪く言えば、人間を見下している。

 オベロン様と初めて会った時もそうだったけ。

 でも……時が、心の絆を紡いだ時間が全てを解決してくれた。


 ん?

 この言葉……

 どこかで、誰かが言っていた気がするぞ。


 つらつら考えた俺だが、ここでそういう事は言うべきじゃない。

 ティナも勇気を持ち、ちゃんと断った上で、本音を吐露してくれている。


「はは、良かったじゃないか。人間の女子と眠るなんて、素敵な経験をしたかもだぞ」


「うん! 良い経験をしたわ」


 ああ、やっぱり俺達とティナの距離は確実に縮まっている。

 凄く嬉しい……


「という事なら、今後の予定を話そうか?」


「うん、教えてっ」


 せがむティナへ、俺は昨日タバサへ話した事と、ほぼ同じ内容を伝えた。

 ティナと一緒に3人でボヌール村へ帰る事、そして彼女を妖精の国アヴァロンへ送る事を。


 念の為聞けば……

 ティナはもう王都見物の意思は全くなく、逆に少しでも早くボヌール村へ行きたいらしい。


 だが俺は、他にも尋ねたい事がある。


「ティナ」


「なあに?」


「一応言っておこう。ボヌール村にはどんなに長く滞在しても構わない。村長権限で俺が許可するよ。但し、このまま。つまり人間の姿のままで暮らして貰う事となる」


「ノープロブレム、問題なしよ」


「そうか、じゃあ、後ふたつお願い事がある」


「ふたつ? お願い事?」


「ああ、お前の故郷アヴァロンへ急ぎ連絡を取りたい」


「アヴァロンへ……」


「そうだ。いろいろ考えたが、残念ながら俺にはお前の無事を報せる手立てがない。何か良い方法はあるかな?」


 そう、俺はティナの安否を……

 彼女が囚われの身から解放された事を早く伝えたい。

 絶対に、心配している家族が居るはずだ。


 俺の気持ちはティナへ伝わったらしい。

 彼女は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。


「ええ、私からアヴァロンへ連絡するわ。魔力さえ戻れば楽勝よ」


「おう、じゃあ頼む」


「任せて! オベロン様に迎えにいらして頂くなんて、とっても畏れ多いから、私のお父様に来て貰うわ」


「分かった、お前が無事だと分かれば、お父さんも安心するだろう。じゃあ最後のお願いだ」


 よし、あともうひとつ、これも一応断っておかなくては。

 ティナも、にこにこしてウエルカムって感じだ。


「うん、言って言って」


「この前話したように、以前オベロン様、ティターニア様にも暫くの間、俺の家で暮らして貰った」


「うん、聞いたよ」


「ふたりには俺のウチの仕事もいろいろと手伝って貰った。家事、買い物、店番、子供のお守り等々、頼めるモノは何でも……」


「へぇ、凄い! 王族のあの方達が? 想像出来ない」


「いやいやふたりとも一生懸命にやってくれた。……つまり家族と同じ扱いで、お客さん扱いしなかった。ティナ、お前も同じ扱いとなる、構わないか?」


「私を……ティナを、ケンとタバサの家族と同じに……お客さん扱いしないか……分かった、OKだよ」


「よし! じゃあタバサが起きたら、朝メシ食いに行って、出発の支度をしよう」


「あは、朝メシ?」


「おお、普段は朝食とか、気取った言い方はしない。メシ食ったか、ごはん食べたよってやりとりをしている。タバサともそんな感じだ」


「あはは、おもしろ~い」


「どうする? またブリアン商店へ行くか? それともこのホテルで食べるか? 念の為、ホテルの朝メシも中々だぞ」


「ええっと……ホテルで! どんな朝食か想像出来ない、でもケンは美味しいと思ったんでしょ?」


「ああ、美味いと思ったよ」


「じゃあ、決定! ホテルで朝メシ確定!」


「はは、了解! じゃあ、そろそろタバサを起こそう」


 と、その時。


「おはよう~! パパ、ティナ、起きてる~?」


 元気な声を発し、タバサが起きて来たのであった。

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