第24話 「妖精と3人で③」

 おいしい!

 最高!

 お代わり!

 もっと!

 

 様々な熱い賛辞をタバサ、ティナのふたりから受け、

 俺の企画第一弾は大成功となった。

 ナイス情報をくれたアマンダには大感謝。

 後で何か、ケアをしてやらなければ。


 そんなこんなで、ブリアン商店での朝食を大満足で終えた後……

 俺達3人は市場を散策した。


 企画第二弾。

 社会見学。


 エモシオンでも行ったが、市場は人間社会の縮図ともいえる場所である。

 

 世にどのようなモノがあるのか?

 誰がどのように売っているのか?

 

 社会の基本的な仕組み等、分かり易く学べるから。

 タバサだけではなく、ティナにも良い勉強となる。


 続いて、企画第三弾。

 昨日見た、素敵なパフォーマンスよ、再び。

 という事で、市場でいろいろな店を冷やかしてから、中央広場へと出れば……

 相変わらず、いろいろなパフォーマー達が各々の技や芸を披露している。


 タバサと共に、ティナが素直に喜ぶ表情を見て、俺は安堵する。

 悪魔にさらわれたショックはだいぶ和らいだと。

  

 自由を奪われ、無理やり見世物にされるのと、自分を表現して思う存分に見せるのはまるで違う。

 

 それに……

 市場、中央広場と……

 タバサが仲良くなったティナの案内役をしてくれているのは嬉しい。

 

 最高に美味しい食事が摂れたせいか、超が付くご機嫌なティナにいろいろと説明している。

 自分も、ちゃっかり楽しんでいるのはご愛敬だけど。


 一方……

 俺はつかず離れずという感じで、さりげなくふたりを見守っていた。

 万が一、変なやからが近付かないかと見張っている。

 嫁ズと違い、さすがにナンパはされないので、その分だけ負担は軽く楽であるが。


 そんなこんなで、楽しい時間はあっという間に過ぎる。

 気が付けば、もうお昼の時間だ。


 例によって中央広場は、美味い昼食を求める人がどんどん増えて来ている。


 混雑して行く広場を眺めながら、俺は暫し考え、決めた。

 昼食はホテルで摂る事にしようと。


 擬態したティナも、だいぶ人間の仕様に慣れたみたいだ。

 もうルームサービスではなく、レストランで食事をしても大丈夫であろう。

 まあ、本人次第だから一応希望は取るけれど。


 何せティナは病み上がり。

 だから、いきなり無理はいけない。

 食事をしたら、部屋でゆっくり静養もさせる。

 そのまま眠って貰っても全然構わない。

 むしろ心身を休める意味では良いかもしれない。


 という事で、


「そろそろホテルへ戻ろうか」


 帰還と併せ、タバサにその旨も伝えたら、勿論OK。

 傍らで俺の指示を聞いていたティナは、はにかみながら上目遣いで俺を見て来る。

 何故か……

 少しだけ頬が赤い。


 ちょっと気になって「どうした?」と聞けば、

 ティナは慌てて下を向いた。


 そして、顔を下に向けたまま、


「ケンは優しいな」


 と視線を合わせず、ぽつりと言う。


「お嫁さんがたくさん居るというのも……分かる気がする」とも……


 そして、


「初めて会った妖精の私に、こんなにも気を遣ってくれてありがとう」


 と、素直な感謝の気持ちも告げて来た。

 なので、嬉しくなった俺はひと言だけ。


「当たり前」


 「しれっ」と言えば、

 ティナは勢いよく顔を上げ、晴れやかな笑顔を返してくれたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ホテルへ戻った俺達は、部屋で一旦落着き、レストランで昼食を摂る事に。

 念の為ティナに聞けば「もう大丈夫!」との事だったから。


「わぁ!」


 多分、生まれて初めて……

 人間のレストランへ来たティナは、小さく歓声をあげた。

 

 俺とタバサは、テーブルオーダー式のディナー、モーニングビュッフェとこのレストランを利用したが……

 ランチも料理自体は全く違えど、モーニングと同じくビュッフェ形式であった。

 違う調理方法で仕上げた肉、卵、魚の料理。

 様々な料理を盛りつけたテーブルがいくつも並んでいる。


 ティナの大好きな各種のパンとチーズもある。

 他にもサラダ、スープ、フルーツ、デザート菓子等々。

 

 デザート菓子にはティナの大好きなクッキーもあった。

 それも凄い種類のクッキーが。

 『3種の神器』がばっちり揃い、ティナが狂喜乱舞したのはいうまでもない。

 

 ブリアン商店では、あれだけ「がっつり」と朝食を食べた俺達ではあったが……

 方々歩き回ったせいか、結構お腹が空いていた。


 見やれば……

 レストランの雰囲気は相変わらず形式ばったところはなく、ひたすらフレンドリーだ。

 スタッフも声をかけなければ、近寄っては来ない。


 俺は勿論、完全にリラックスしたタバサとティナは、あれこれと話しながら、各々好きなものをたっぷり皿に載せ、席へ戻って来る。


 と、ここでタバサの気遣いが。


「ねぇ、ティナ」


「なあに?」


「遠慮しないでね」


「遠慮?」


「うん! いっぱい盛り過ぎても大丈夫。パパが食べてくれるよ」


 おお、この前俺が言った事を憶えていてくれた。

 以前、レストランの勝手が分からなかったタバサが、俺にそう言われ、

 気持ちが楽になった事を思い出したらしい。


 タバサのナイスアドバイス。

 案の定、ティナの表情が明るくなる。


「本当?」


「だから好きなものを好きなだけ、た~くさん食べよう」


「よ~し、いっぱい食べる!」


 タバサの素敵な提案に大きく頷くティナ。

 ワクワクしているのが見ていてはっきりと分かる。

 しかし、ここでタバサは手綱を締める。


「とはいっても、まずは目の前の料理からだよ」


「了解!」


 元気良く返事をしたティナは、まるで気合を入れるが如く、可愛く腕まくりをしたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る