第22話 「妖精と3人で①」
俺、タバサ、そしてアルベルティーナはホテルセントヘレナを出発し、王都の街中を歩いている。
小賢しい悪魔から助け出し、懸命な看護の末、アルベルティーナは命をとりとめた。
結果、タバサとアルベルティーナは完全に打ち解け、同性同士、俺よりもずっと仲良くなった。
人間の少女に擬態したアルベルティーナと寄り添い並んで歩くタバサ。
さて、今回もスイートルーム宿泊者専用の馬車を勧められたが、遠慮する。
大仰なのが嫌で、つい断ってしまうが、
折角用意してくれているから、たまには乗らないとまずいかもしれない。
そうそう、アルベルティーナは「名前の呼び方を変えてくれ」と言って来た。
フルネームは長いし、気安く呼んで欲しいとの事。
普段、肉親や仲間達から呼ばれている『愛称』にして欲しいと言われたのだ。
俺とタバサは勿論OK。
そして、もうひとつルールを決めた。
人間に擬態したアルベルティーナ、
否、ティナは普通に肉声で話せるようになった。
だから、何か特別な秘する内容でなければ、
念話をやめて肉声で話そうと3人で決めたのである。
そんなこんなで歩いていると、
「パパ、どこへ行くの?」
「そうそう、ケン、そろそろ種を明かしてよ」
タバサが、そしてティナも、仲良くふたりして突っ込んで来た。
そうか、じゃあそろそろ企画内容を情報公開しよう……
「ああ、教えよう。行き先は市場だ」
「市場?」
「ぬぬ、市場とは一体何?」
市場……
タバサは何となく分かってる?
過去にエモシオンに連れて行った際、市場を見学した事があるから。
片やティナは妖精ゆえに言葉も含め、市場自体を知らないらしい。
ならば、ここは俺が両方サポートしよう。
「よし! ふたりの問いに答えよう。まずはタバサから、これから行くのはセントヘレナの中央市場さ」
「へぇ、中央広場? じゃあ、パパ。エモシオンの市場と一緒なのかな?」
「まあ、基本はそうだ。但し王都の方が規模は遥かに大きい、すなわち広さが全然違う」
「ふ~ん、大きいんだ」
タバサは納得したみたい。
そして次は、
「良いかい、ティナ。市場とは様々な種族の商人が集まり、ほぼ決まった日に商いが行われる。具体的に言えば俺達みたいな買い手が、欲しい商品を求める広場の事さ」
「欲しいモノが手に入る広場? 何となくだが、分かったわ。それでケン、その市場とやらに行ってどうするつもり?」
「そうよ、何か買うの?」
おおっと、ふたりからはまたまた質問。
今度は、答えがストレートなひとつで良いだろう。
「ああ、朝食を食べる」
「え? 朝ごはん? だからホテルで食べなかったの?」
「朝のごはんって、朝の食事なの?」
「うん! 美味しいパンとチーズ、新鮮な牛乳をセットにし、朝飯で食わせる素敵なパン屋があるとアマンダから聞いた。だから、ぜひふたりを連れて行こうと思ってな」
「美味しいパンとチーズ、それに新鮮な牛乳!? わぁ、タバサは楽しみっ!」
「結構な話ね……だけど……」
「だけど?」
タバサは喜んでいるが、ティナはまだ納得しないみたい。
「その店を教えたというアマンダというのはどこの何者なの? 信用出来るの?」
と尋ねて来た。
しかし、すかさず質問に答えたのはタバサだった。
「ティナ! アマンダママはパパの10番目のお嫁さんだよ」
「は? じゅ、10番目? ケンの妻?」
「うん、それに人間ではなくアールヴなの」
「アールヴ!? 人間とアールヴが結婚したの?」
驚くティナだが、ここで俺が再びサポート。
タバサはベアトリスの存在を知らない……
というか、我が家に来た当時は幽霊だったから、
お子様軍団は全員彼女の存在を知らない。
そう、俺の10番目の嫁とは、天へ旅立った亡国の王女ベアトリスなのである。
とりあえずタバサには、訂正して真実を教える。
「いや、タバサ。正確にはアマンダは10番目じゃなく、11番目のお嫁さんなんだ」
「11番目? だ、だって、ウチのママ達は全部で10人だよ!」
「ごめんな。10番目は、タバサの知らないママなんだ」
「10番目は……タバサの知らないママ……」
「ああ、彼女は今、旅に出ている。ちょっと長い旅になりそうだけど」
「旅? ……そうなのね。まだまだタバサが知らない話がいっぱいあるんだ。パパ絶対に教えてっ!」
勘の良いタバサはすぐに納得。
機嫌が直って、にこにこしている。
しかし、
俺とタバサの会話から、取り残されたティナは戸惑い、混乱している。
「ケン! は、話が全く見えないわ。わけが分からない。アールヴをお嫁さんにした上、タバサが知らない妻も居るの?」
「ああ、ちょっとわけありでな」
「ちょっとわけあり? だけど11人も妻が居るって何? 怖いわ……ケンの家は
は?
嫉妬と愛憎に彩られたおぞましい背徳の館?
何じゃ、そりゃ?
どこぞのドラマのサブタイトルかよ。
と、ここでタバサが猛抗議!
「え? ティナったら、何わけの分からない事言ってるの? ウチは普通の家で、ママは皆仲良しだよ」
まあ、普通の家と比べて、ユウキ家は少し違うかもしれない。
だが……
タバサの必死の抗議も、ティナの耳には届かないらしい。
だって、ティナはまだぶつぶつ言っているもの。
不可解だと、首を傾げている。
「タバサのような子供は概して
「おいおい、ティナ。背徳とか不埒とか、あまり話をエスカレートさせるな。タバサの教育に悪い」
さすがに俺もブレーキをかけた。
しかし、ティナはまだまだ納得しない。
「だ、だけど! おかしいじゃない! 11人でしょ? そんなに妻が居て、全員、仲が良いわけないわ!」
うん、駄目だ。
これ以上は水掛け論、つまり不毛な会話。
じゃあ「論より証拠」で行こう。
そうしよう。
「まあまあ、昨日話した通り、お前の
「わ、分かったわ! 私自身で確かめる!」
市場への道中、すったもんだしたのだが……
俺の家へ来いと告げたら、ようやくティナは納得したのである。
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