第17話 「対決」

 俺とタバサは一般客を装い、テント内へ入った。

 

 ちなみに、入場料はひとり大銀貨1枚5,000アウルム、約5千円も取られた。

 珍しい妖精の見世物を売りにしているとはいえ……

 ボヌール村に比べ、物価が遥かに高い王都でも結構な金額だ。


 俺とタバサが入って見回すと……

 テント内は中央に真っ赤な円形の絨毯じゅうたんを敷いたフィールドがあった。

 このフィールドで興行……

 すなわち妖精の見世物を行うらしい。


 またフィールドの周囲を柵で境界線として仕切り、内側に椅子を並べた客席エリアがある。

 「きょろきょろ」していたら、やはり冒険者風の男に半ば強引に案内された。


 椅子に座り改めて妖精を探すと……

 居た!

 

 円形のフィールドのほぼ中央、妖精は鉄製の檻内に閉じ込められていた。

 チートな俺の視力で更に良く見やれば、妖精はやはり女性。

 

 身長は20Cmあるかないか、人間よりも遥かに小さい、まるでお人形のような妖精である。

 髪は明るい栗色。

 さすがに瞳の色までは分からないが、水着のような肌が露出した薄手の衣服をまとい、背には透明な一対の羽が生えていた。


 妖精の中では多分、ピクシーと呼ばれる種族だろう。 


 常人には到底見えない、小さな顔。

 その表情も見える。

 

 助けを求める悲鳴から分かったように、ひどく苦しそうである。

 その理由も俺にはすぐ分かった。


 檻から奇妙な魔力を感じる……

 多分、あの檻には特殊な魔法が掛けられている。


 少し観察していて分かった。

 ズバリ、吸収カルイェトの魔法が付呪エンチャントされているのだ。


 吸収の魔法は、俺が対メフィストフェレス戦で使った魔法。

 効果は単純明快。

 文字通り、相手の魔力を掃除機のように吸収する、特殊な魔法なのである。

 つまり妖精の魔力を吸収し、自由を奪って動けなくする仕様なのだろう。


 心臓で作られ血液によって循環する体内魔力は、生きとし生ける者、否!

 魔族でさえも活動する為のエネルギーとしての意味を成す。

 つまり体内魔力が完全に枯渇すれば、当該者は動けなくなり、やがて死に至る。


 俺が見るに、あの魔力吸収檻は、バランスが悪すぎる。

 必要以上に妖精の魔力を吸い取ってしまっているのだ。

 妖精を束縛するどころか、かえって弱らせてしまっている。


 よし!

 状況は把握出来た。


 さて、首謀者は誰だ?

 むむ……

 妖精の居る檻のすぐ傍らに立つ漆黒の法衣ローブをまとった男か。


 しかし!

 このような時に俺の勘は凄く良く当たる。


 この法衣の男、上手く擬態して魔力も押さえてはいるが……

 何と!

 人間ではなく、悪魔だったのである。 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 『ふるさと勇者』の俺は、これまでに悪魔と都合3度対峙している。


 最初は魔王であったクーガー配下のエリゴスを倒した。

 2度目3度目がアールヴの国イエーラでやり合ったメフィストフェレス。

 こちらは一応引き分け。

 いずれも上級悪魔であり、結構な実力の持ち主である。


 奴らに比べれば目の前に居る悪魔は明らかに格が落ちる。

 ひと目で分かるのは体内魔力の量で。

 奴の魔力は俺に比べれば全然少ない。


 またスケールの差で分かる。

 こちらは今迄戦って来た相手を物差しにして、自然に感じるといったところ。


 ちなみにメフィストフェレスは冥界の侯爵を自称している。

 だが、こいつはせいぜい騎士爵止まりといったところだろう。


 悪魔相手に油断は大敵。

 だが、弱気で当たるのは禁物。

 裏付けも取れているし、俺の方が強いのははっきりしている。


 ここはまず、強気に且つ高圧的に押す。

 それが俺の学んだ悪魔相手の基本的なやりとりなのだ。


 但し、この場は関係ない第三者が大勢居る。

 王都の市民達だ。

 下手に怪我などさせたら、レイモン様に申し訳ない。


 それに、タバサだって戦いには巻き込みたくない。

 

 今回の旅の趣旨はカミングアウト。

 タバサには俺の『戦いぶり』を安全に見届けて貰う。

 そう、決めている。

 だから、俺と悪魔のやりとりが聞こえるようにタバサの心へ『回線』をつないでおく。


 さて……作戦は既に立ててある。

 じゃあ、行くぞ!


 俺はいきなり、法衣の男へ呼びかける。


『おい、お前』


 当然ここは念話。

 心の中へ、いきなり聞き覚えのない声が響き、法衣姿の悪魔は吃驚びっくりする。


 悪魔だから……

 中・下級とはいえ、念話くらいは使えるだろう。


 と思ったら案の定。

 奴は念話で言葉を返して来た。


『だ、誰だ?』


『名乗るほどの者じゃない。単なる通りすがりさ』


『と、通りすがり!?』


『お前と遊ぶつもりはない。単刀直入に言う。その妖精を解放しろ』


『な、何!? 妖精を解放しろだと!』


 念話を聞き、一瞬驚き戸惑った悪魔ではあったが……すぐに冷静となる。

 今、話しているのは多分人間だと踏んだらしい。

 

 そもそも悪魔は、人間など脆弱ぜいじゃくな下等生物だと馬鹿にしている。

 以前メフィストフェレスが、俺をののしった言葉からも分かるだろう。

 それ故、態度を上から目線へガラリと変える。


『へへへ、ふざけるなよ、人間め』


『いや、俺はふざけてなどいない。お前はこの子でもう十分に稼いだろう。すぐに解放しろ』


『はぁ? 嫌だね。断る!』


 悪魔はやはり、妖精の解放をきっぱりと断って来た。

 ふてぶてしく、きっぱりと。

 まあ、想定内だ。


『ほう、そうか。断るか? ならばお前の命はない』


 と告げたら、


『愚かな人間め! 不死の俺を殺せるはずはない。逆にお前をむごく殺してやろう』


 と逆に脅して来た。


 これも全くの想定内。

 だからほんの少しだけ、事実を告げてやる。


『脅しは無駄さ。俺は既にお前みたいな、いやお前以上の悪魔と何度も戦っている。さっさと降参して魔界へ帰れ』


『な、悪魔だと! 俺の正体が!? わ、分かるのか、お前にはっ!』


『ああ、分かるよ』


『だ、誰だ! お前はどこの誰なんだっ!』


 案の定、俺の正体を探ろうとする悪魔。

 

 しかし俺は無視、華麗にスルー。

 悪魔の常套手段である、つまらん時間稼ぎなど、無駄無駄無駄ぁ!


『さあ、3つ数えるぞ、その間に決めろ』


『な、何!』


『すぐに降参すれば命だけは助けてやる。だが逆らえば、死あるのみ。目には目を、歯には歯をだ。囚われの妖精と同じ目に遭わせてやるよ』


 生か、死か、一応チャンスをやる。

 メフィストフェレスにも言ったが……

 悪魔族といえど、さしたる理由もなしにいきなりは殺さない。


『ま、待て! お前は何者だ』


『さあな、お前に名乗る名などない。ひと~つ』


『ふざけるな! 妖精も含め、お前とこの場の人間を殺してやるぞ』


『ふた~つ』


『くおう! 全部殺してやる~っ! この街の人間など皆殺しだ~っ!』


 あ~あ、遂に禁句を吐いた。

 こいつは完全に詰んだ。


『タイムアップ! ボン!』


 瞬間!

 悪魔は全ての体内魔力を俺に吸収された。

 そう、こいつが妖精にした酷い仕打ちを因果応報で返してやったのだ。


 ちなみに、急速な魔力吸収は反動で凄まじい衝撃を対象者に伴う。

 この魔法は魔力吸収の効果だけではない。

 使い方によっては、不死の悪魔にも有効な攻撃魔法となる。

 先日メフィストフェレスがあっさり撤退したのは、それを知っていたからだと思う。


 俺が『擬音』を発した通り、


 ボン!

 とベタな音を立て、悪魔は魂を含め、肉片さえも残さずに消滅したのであった。

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