第14話 「光を愛さない悪魔③」
悪魔メフィストフェレスはまるで、遠い先の手までズバリ読みきる棋士のようだ。
で、あればこちらもあまり小細工しない方が良い。
場合によっては本音を明かし、その上で開き直るしかない。
『……その言いよう、俺の目的が分かっているようだな?』
『はい! 勇者ケン、貴方の目的とは……私と貴方の身内が画策した事件、つまりエリクサー密輸の段取りを組んだ事実を秘し、話自体を
おお、見事に俺の本音を言い当てやがった。
ならば、こちらはとりあえず『柳に風』
さらりとかわし、巧みにやり過ごそう。
うん、もっとメフィストフェレスに喋らせよう。
『ノーコメントだ』
『ふふ、ケンさんは勇者なのでしょう? 勇者とは人々を守る正義の味方じゃないのですか? 勇者の癖に犯罪者のように黙秘しますか?』
『…………』
『もっと具体的に申しましょう。私がしもべを使って持ちかけた、エリクサーの取り引きを全くの白紙に戻させたい。そして貴方の婚約者と彼女の両親に害が及ばないよう、関係者の処罰も軽くしたい……結構欲張りな勇者さんですねぇ』
『…………』
『ふふ、もう少し事情はおありでしょうが、ズバリそう思っていらっしゃるのでしょう?』
発する
それにこいつが敬う
クラウスが言っていた『大いなる主』とは……
この上級悪魔メフィストフェレスじゃない、という事がはっきりした。
主とやらはこいつより遥かに強い奴だろう。
となれば、余計に怖ろしい話だ。
うぬ!
いろいろ問題山積みだ。
どうしよう!
「つらつら」考えていた俺はハッとした。
遠方から『誰か』がやって来る気配がするのだ。
転移魔法を使って。
どうやら、メフィストフェレスも同じ事を気付いたらしい。
『おっと! こちらへ何者かが来ますね』
『みたいだな』
『ほう、これはこれは……私達がやり合う凄まじい殺気の波動を感じたみたいです』
『おい、メフィスト。やって来るのが誰なのか、お前には分かるのか?』
『はは、当然です! ケンさん、勇者にしては愚問ですね』
『いちいち
『了解です。どうやら……アールヴのソウェルが転移魔法を使い、こちらへ向かっているようですね』
『何? アールヴのソゥエルがここへ向かっているだと?』
アールヴの長ソウェルが自らこの場へやって来る?
俺は驚くと同時に、これは厄介な事になったと思った。
この世界のソウェルがどんな人物だか知らないが……
他のアールヴ同様、人間を一方的に軽蔑し見下しているのなら、俺の味方になってくれるか、
まあ、アールヴは創世神を信仰している。
故に、ソウェルが神の敵、悪魔の味方をするとは思えないが……
『ちょうど良いです。ケンさん、貴方の前でソウェルへ宣戦布告だけはしておきましょう』
『宣戦布告?』
『はい! 我が大いなる主は荒れ果てた魔界暮らしに飽きました。太陽の陽が射し込み、緑に満ちた健康的で明るい地上へ出て暮らしたくなったのですよ』
『何だと? お前の主が魔界から明るい地上へ出る?』
『はい、その通り! 私は大いなる主に命じられ、部下と共にその露払いをしているのです』
『部下と共に露払い?』
『おっと! それ以上は内緒です。それにどうこうと言っている間に護衛も連れない直情型、愚か者のソウェルが転移魔法で到着したようです』
確かにこの部屋へ通じる異界に、誰かがやって来た気配がする。
でも気配はひとり?
おいおい、一族の長ソウェルたる者が護衛も連れずにやって来たのか?
『ケンさん、確か貴方もソウェルとは初対面ですよね? どうです? 良い機会だから私と一緒に自己紹介をしませんか?』
『悪魔と一緒にか? ソウェルへ? 俺が? 自己紹介?』
どこまで……
人を喰っているのだろう。
メフィストフェレスは
再びつらつら考えていると、突如、空間が割れた。
メフィストフェレスの言う通り、転移魔法でソウェルがやって来たのだろう。
と、同時に念話で怒号がさく裂する。
『そこのくされ悪魔どもぉ!』
続いて、
『おかしな気配を感じ、転移魔法で急ぎ来てみたら案の定だっ! よ~し! 動くなよぉ、下手に抵抗するとただでは済まないからなぁ』
そして、
「すらっ」とした金髪碧眼の一見青年風男性がひとり空間から現れた。
但し、髪の間からとがった耳が突き出ており、彼が人間ではなくアールヴ族なのがひと目で分かる。
『転移魔法』『念話』を使うところを見ると、やはり相当な上級魔法使いなのだろう。
但し、かつて俺が別世界で会ったフレッカの祖父シュルヴェステル・エイルトヴァーラと比べれば、迫力は数段以上落ちるけど。
俺がメフィストフェレスを見やれば予想通り、こいつは全く動じない。
逆に現れたソウェルを指さすと大笑いした。
『あっはははは。敵と味方の区別がまるでつかないとは……魔界での噂通り、超が付く愚か者ですね』
『ほざくな悪魔! 無礼者!! 私が愚か者だとぉ!!』
ソウェルが怒りを籠め、「キッ」と睨んでも、メフィストフェレスはどこ吹く風である。
やはり、全く臆していない。
『その通り! いくら馬鹿でもここまで自覚がないというのは却って怖ろしい。アールヴの長ソウェルよ、貴方はそこそこ魔法を使えるが、それしか能のない分別知らず、世間知らずの愚か者なのです』
『な、な、何をぅ!』
『ははは、いくら吠えても所詮負け犬の遠吠え。貴方など全然怖くははない。無駄。無駄、無駄、無駄なのです』
『く、くそ!』
『私は親切だからもう一度言いますよ。悪魔と勇者、そんな区別もつかないのですかぁ?』
『く、くう!!』
『一族の危機を助けて貰った恩人と悪魔を一緒くたにするとはね。貴方にはソウェルを務める資格などありません』
『うぬぬぬ……』
『ふふふ、貴方みたいな直情型の無能者はさっさと引退しなさいな』
ああ、さすが悪魔メフィストフェレス。
聞くに
この口の悪さなら、俺だって切れちまう。
『っぐぐ、な、何だと! 一方的に言いたい事を言いおってぇ!!』
やはりというか、ソウェルはさすがにブチ切れた。
だが相変わらずメフィストフェレスはマイペース。
『さてソウェル、そろそろ言葉ごっこは終わりです』
『こ、言葉ごっこだとぉ!』
『時間もないのでさっさと名乗りましょう。貴方のご指摘通りです。私は悪魔、悪魔メフィストフェレス。いずれ貴方がたアールヴの支配者となりますよ』
『な!? 汚らわしい悪魔が私達アールヴを支配するだと!?』
『ははははは! ビンゴォ! その通りです。私が支配する前に、せいぜいこの国を滅ぼさないようお願いしておきますよ』
『だ、黙れ、下郎!』
『いいえ、黙りません、それより今のうちに覚悟しておいて貰いましょう。ではまたいずれ! ははははは!』
メフィストフェレスがそう言うと、再び空間が派手な音を立て、不自然に割れた。
と同時に、高笑いする悪魔は煙のように消えてしまったのである。
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