第13話「ベアトリスとの小旅行①」

 ベアトリスへ、俺が告げたサプライズ……

 それは、このヴァレンタイン王国王都セントヘレナへの『半日小旅行』である。


 何故、たった半日の小旅行なのか?

 それには理由がある。

 

 通常、嫁と行く王都旅行は最低でも一泊、ないし二泊以上が通常である。

 普段一生懸命働いてくれる嫁への慰労旅行の為……

 刺激的で広大な王都を、じっくり見て回る為に時間をたっぷり取る。


 本来なら、ベアトリスをいろいろな場所へ連れて行って、彼女にいっぱい思い出作りをさせてあげたい。


 しかし、今回はその時間が全くない。

 ベアトリスの魂から、伝わって来る波動で分かる。

 

 レベル99の俺には分かるんだ。


 本人が怯えるから、絶対に言えないけれど…… 

 彼女の完全な『消滅』までは、あと2日くらいしかない。

 いろいろな『予定』を考え、逆算したら……

 王都で過ごせる時間は、ほんの半日だけだ。


 最後にベアトリスを……

 魂が消える前に、自我がなくなる前に……

 彼女の希望通り、葬送魔法で華々しく天へ送ると約束した。

 送る場所も、ちゃんと考えてある。

 その約束は絶対に履行しなくてはならないから。

  

 でも、時間が無い中、わざわざ王都まで行くのは、ちゃんとした理由がある。

 ベアトリスが一番喜ぶサプライズを、俺は考えているのだ。


 この旅行、表向きはボヌール村近辺へ、約半日の『散歩』という事になっている。

 今回、ベアトリスと共に旅するメンバーは、クッカとリゼット。

 このふたりを選んだのは、ハーブ園繋がりというのは勿論ある。


 本音をいえば、他の嫁も連れて行きたい。

 だが、今迄の旅行経験、事情、バランス等を考えて、メンバーをこのふたりに絞ったのだ。


 出発する際は、先日のクラリスとの時と同じ作戦。

 朝早く荷馬車で、しれっと出掛ける、

 ひとけの無い場所で、牽引するベイヤールを解放。

 馬車を収納の魔道具に仕舞い、転移魔法で王都の近くへ、ひとっ飛び!

 ……という感じ。

 そしていつもの通り、いかにも遠くから旅して来たように見せる。


 実は、クッカとリゼットは王都が初体験。

 それが、「運命的な出会いをしたベアトリスと一緒の旅行なんて!」

 と大感激していた。


 いつもの入場チェックを受け、王都の正門を通り、少し歩けば……

 恒例の、ナンパ攻撃が!

 と思いきや、全く無しである。


 理由は単純明快。

 今日は特に時間がない、

 それ故、最初から俺がお約束の必殺技、『戦慄のスキル』をさく裂させたのだ。


 王都のナンパ男からしたら、よだれが出そうな獲物、麗しきクッカとリゼット。 だがすぐ目の前に居ても……ナンパが出来ない。

 

 彼等はぎらぎらした目をして速足で近付くが、俺を見てすぐユーターン。

 少し離れた場所から、ひどく怯える様子が、とても滑稽に映るのだろう。

 リゼットに憑依したベアトリスが、笑う笑う。


『あはははは、何あれ? おもしろ~い』


 他愛もない事だが……

 こんなつまらない事でも、良き思い出になれば幸いだ。


 憑依されているリゼットも、面白そうに笑っていた。

 俺とクッカも釣られて、大いに笑ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺達は王都の石畳をゆっくり歩く。

 リゼットに憑依した、ベアトリスが言う。


『ねぇ、セントヘレナって言ったわね。この街って、とてもレトロだわ』


『とてもレトロ?』

『ええっと、古いって事かしら?』

『ベアトリス様、教えて下さい』


 俺達3人が聞き返せば、ベアトリスは改めて、王都を見た感想を述べてくれた。


『うん、5千年後の未来の街なのに、何故か、とても古めかしく感じるの』


『とてもって……そんなに、古いのか』

『昔の技術が、著しく後退したのかしら?』

『ガルドルドの帝都って、凄い街だったんですね』


『ええ、私の住んでいたガルドルドの帝都の方が、全然モダンだった。石畳の道じゃなかったし……質の良い瀝青れきせいで、綺麗に舗装されていたわ』


『へぇ……』


 瀝青れきせいというのは……俺も中二病知識で知っている。

 ズバリ、現代地球でも使うアスファルトの事。

 今のアスファルトと、少々趣きは違うかもしれないが……

 古代地球のメソポタミア文明では、使われていたという説があるんだ。 


 そんな事をつらつら考える俺に、ベアトリスは更に言う。


『帝都は、私のふるさとだし好きなんだけど……無機質な街だったから。ここはとても懐かしい感じがするし、何故か心が温まる。ボヌール村と同じ……良い街だと思う』


 この異世界の現在の技術も、5千年前のガルドルド帝国の時代よりずっと後退しているとしたら……それって凄く皮肉かもしれない。


 先人達の生み出した最新の技術が何かの理由で失われ、後退する状態が、かつて地球でもあったという。

 

 この異世界のガルドルド帝国の立ち位置って……

 地球のメソポタミア文明やローマ帝国みたいなものなのだろう。

 

 そんなこんなで雑談しながら……

 4人で最初に行ったのが、王都の植物園。

 

 この近辺だけじゃなく、王国内外の珍しい植物をそろえている。

 当然第一目的はハーブだ。

 

 実はこの植物園も、あのレイモン様が名誉館長だと判明していた。

 今は亡き奥様の故郷にある草花が、一番目立つ場所に展示してあるという職権濫用は仕方ないとして……


 先日話していて、レイモン様が大のハーブ好きだと聞いたので……

 絶対に充実した展示内容だと、俺は見込んだ。

 なので、ウチのハーブマニア女子3人を連れて来たのである。


 俺の勘は、ズバリ当たった。

 

 レイモン様は何と!

 植物園の庭園を、全てハーブ園にしていたのだ。

 ちょっとやり過ぎだと思えるくらいに。

 こうなると、俺以外、3人の女子は感極まるどころか、興奮のるつぼと化していた。


「凄い!」

「何、これ?」

「ねぇ、クッカ、リゼット、私のハーブ園より広~い! 凄いわぁ!」


 ベアトリス達3人は超が付くヒートアップ、更に専門用語のオンパレード。

 「女3人集まれば、かしましい」を地で行っている。


 片や俺は勉強したし、一応スキルはある。

 だから、そこそこハーブの知識があるけれど……

 残念ながら、マニアの3人に比べてハーブ愛が絶対的に足りない。


 大盛り上がりの女子3人を、俺は笑顔で見守っていたのである。

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