第11話「王女先生になろう!」

 ウチの嫁ズが行う『女子会』は男子禁制の会。

 なので、俺はいつも思いっきり蚊帳の外だが……

 ベアトリスを交えた会話は、とても盛り上がったらしい。

 

 どうせ、夜遅くまで話が弾んだのだろう。

 半徹夜に近かったかもしれない。

 翌朝、嫁ズは皆、眠そうだった。

 でも全員が、とても満足そうな顔をしていた。


 そして、予想通りというか……

 リゼットが、ベアトリスに憑依される事を改めて申し出た。

 

 やはりリゼットは、ベアトリスに対して、並々ならぬ思い入れがあるらしい。

 西の森にあるハーブ園は、元々ベアトリスが作り、丹精込めて世話をしたのだから。

 ハーブ園が作られてから、5千年の遥かなる時を経て……

 『亡国の王女』から『大いなる遺産』を受け継ぐ自分が、全面的に協力すると申し出たのだ。

 

 だから俺は、考えている『サプライズ計画』を密かにリゼットへ告げた。

 リゼットは大喜びし、早速準備に入ったのである。


 さてさて……

 秘密裏に進行している、サプライズとまではいかないが……

 俺は今回いくつも、ベアトリスの『この世での思い出作り』を企画している。

 

 そのひとつが、ボヌール村の学校を使った『先生体験』だ。

 いろいろと雑談している中、軽い感じで「さくっ」と話をした……

 「王女先生になってみない?」って。


『え? 王女先生って、何?』


 可愛く首を傾げるベアトリスへ、俺は学校の存在と仕組み。

 創立された経緯を簡単に説明。

 村民が教師となっている事を話した。

 そして、ベアトリスにも教師をやってみないかと持ち掛けたのだ。


 詳しい話を聞いたベアトリスは……

 綺麗な碧眼をキラキラ輝かせて興味津々。

 『王女先生、ぜひやりたいわ!』と大いに乗り気となってくれた。


 以前話したけど、ボヌール村の学校において、俺の担当教科は『社会科』だ。

 まあ、単に社会科といっても結構幅広い。

 基本的には、社会常識と歴史を教えているけどね。

 

 ベアトリスに、その授業の全てを行わせるわけにはいかないが……

 この世界の歴史の授業を一部担って貰うという形にした。


 つまり、遥かいにしえに存在したガルドルド帝国の様子を、俺ことケン先生がたまたま古文書を読んだ……

 という前提で、子供達へ話して貰うという作戦。


 そして、いつもの通り、授業が終わった後はお楽しみの給食となる。

 さすがにハーブ料理とまではいかないが、村で得た食材で美味しい食事を摂る。

 子供達と一緒に、大空屋からケータリングされた食べ物をセッティングし、食べるのだ。

 これまで堅苦しい食事が常識なベアトリスには、またも未知の体験となる筈だ。


 そんなこんなで、すぐ授業開始の時間が来て……

 俺と共にベアトリスは教壇に立った。

 

 透明な幽霊なので、当然子供達には見えないが、俺の傍らに居るベアトリスはとても緊張しているようだ。

 緊張して、少し顔が俯き加減である。


 クッカやリゼットを始め、都合をつけた嫁ズも授業参観という形で、俺とベアトリスを見守っている。


 緊張をほぐそうと、俺は誰にでもやるような声掛けをする。


『大丈夫だ、ベアトリス。リラックスして、リラックス』


『え、ええ……でも初めてだから……緊張するわ』


『楽勝さ。顔をあげて、生徒達を見てごらん』


『え? 生徒達を見る?』


『そうさ! だってウチの子供達も、赤ん坊のベル以外は全員居るよ、ほら!』


『あ、ああ! ほ、本当に!』


 俺達の視線の先には……

 タバサ達、ユウキ家の、いつも元気なお子様軍団が居た。

 昨夜から見知った顔に気付き、ベアトリスは見る見るうちに、落ち着きを取り戻した。


 うん、いける!

 大丈夫だ。


『よっし、ベアトリス。王女先生の授業、始めるぞ!』


『はいっ! 王女先生行きま~~すっ!』


 ベアトリスの元気な返事が、俺の授業開始の合図。

 こうして……ベアトリスの『先生体験』もスタートしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 『先生』が初体験で、当初は緊張していたベアトリス。

 だけど、授業はあっという間に終わった。

 誰しも夢中になると、そんなもの。

 

 あくまで俺の口と声を使ってだが……

 話す事、教える事に対し、徐々に慣れて来て、遂にはベアトリスも堂々と話した。

 ガルドルドの暮らしについて、文化について等々……

 

 ベアトリスの熱の入った授業を、子供達は興味津々で聞き入っていた。

 質問もたくさん出た。

 答えられる範囲で、ベアトリスは対応した。

 俺が通常行う授業より、盛り上がったくらいだ。

 これは、大成功と言って良いだろう。


 授業が終われば、次はお待ちかねの給食である。

 

 ここでベアトリスに憑依される役を、俺からリゼットにバトンタッチ。

 授業に続いて、ベアトリスはきょろきょろ、物珍しそうにしている

 給食は生徒、教師、そして父兄の3者が参加可能。

 楽しい食事会という趣きなんだ。


 用意をするのも子供達がメインになって、教師と父兄が手伝う。

 ベアトリスも、リゼットの身体を借り、一生懸命働いている。


 一方……

 リゼットは当初、魂に憑依されるという、不思議な感覚に戸惑っている感じだった。

 しかし、すぐに慣れて来て、ベアトリスと共に立ち働く。


 やがて準備が完了。

 全員で給食を楽しみ始める。

 

 わいわい、がやがや。

 にぎやかで、笑顔いっぱいの楽しい食事である。

 家族で摂る食事とはまた違う、特別な絆が深まる食事なのである。


 我が嫁リゼットも例外ではなく、とびきりの笑顔を見せている。

 それはベアトリスが見せる心の底から嬉しそうな笑顔と、ぴったり重なったと……

 ふたりが放つ魔力の波動から、俺はしっかりと感じていたのである。

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