第4話「思い出を作ろう」
亡国の王女ベアトリスに、残された時間は少ない。
数日で、徐々に魂が消えて行くという……
だから彼女の魂が消えるまで、俺は考えた全ての手を打ち、安らかに天に逝って貰わねばならない……
と、いう事で、俺と従士達は早速、行動を開始。
ベアトリスが望む、最初の願いを叶えるのだ。
彼女の墓へ入り、中に居た邪霊共を葬送魔法で昇天させ、玄室内含め綺麗に清掃する。
俺は勿論、従士達も頑張ってくれた。
17歳で亡くなった薄幸なベアトリスに、同情したに違いない。
以前ステファニーに変身したジャンはともかく、普通は人型になどならない誇り高いケルベロスやベイヤールも……
命じなくとも、逆に俺へ申し入れ、進んで人間となり、一生懸命掃除にいそしんだ。
当然、魔法もフル活用。
たった30分で……
墓は作った時に近いくらい……とてもぴかぴかとなった。
供えられていた埋葬品も、残っていたものは磨き、置き直した。
ここで、「何故?」と思う人も居るだろう。
魂が召されれば、ベアトリスは二度と『ここ』には戻って来ないから。
いくら綺麗にしても、意味がない、無駄だと感じるかもしれない。
しかし、5千年もの間、『世話になった部屋』なのだ。
すっかり綺麗になった『自室』を見て、ベアトリスは感無量となったらしい。
暫し、じっと玄室を見つめた後……
いきなり、大声で泣き始めた。
……ベアトリスは、10分くらい泣きっ放しだった。
ただ、思い切り泣いてすっきりしたらしく、ゆっくり俺へ顔を向けると、
『ケン、みんな………本当にありがとう』
しっかり礼を言い、深く頭を下げた。
そして、いよいよという感じで、
『じゃあ、地上へ戻りましょう……私は天へ召されます』
玄室の扉を閉め、魔法で封印。
こうして俺達とベアトリスは再び地上へ出た。
穴も、俺の地属性の魔法で、痕跡が分からないほど完全に埋め直した。
これで、ベアトリスの最初の願いは叶った。
満足したらしいベアトリスは、目を閉じ、手を合わせ、跪いた。
顔を俯せ、何か祈りの言葉を呟いている。
この現世に対し、別れを告げているに違いない。
だが、ベアトリスの別れの言葉は短かった。
『じゃあ、ケン。……お願いします』
『…………』
しかし、俺は黙って首を横に振った。
そのまま腕組みをして立っている。
一方、なかなか葬送魔法が発動しないので、跪いたままベアトリスは目を開けた。
そして、俺に尋ねて来る。
『え? ケン、どうして? 私を送ってくれないのっ!』
ベアトリスは必死の形相だ。
ここまで来て、何故!
と、目で訴えている。
俺はベアトリスを安心させるべく、言う。
『いや、送るさ……ちゃんと約束は守る』
『な、ならば、何故!?』
俺がそう言っても、ベアトリスの動揺は収まらなかった。
微笑んだ俺は、話の続きをする。
『落ち着け、ベアトリス……俺に考えがある』
『え? ケンに考え?』
『お前に残された時間は少ない。だけど……その間に、素敵な思い出を持って旅立って欲しいんだ』
『素敵な思い出を持って旅立つ? ……私が?』
『ああ、ベアトリス、まずは俺の家族と会わせたい!』
『ケンの家族に? 私を? な、何故?』
『今迄言わなかったが……お前のハーブ園を受け継いだのは俺と家族なんだ』
『ええええっ!? そ、そ、そうだったの……手入れをしてあるとは思ったけど……凄く、驚いたわ……』
俺の予想通り……
ベアトリスは、やはり驚いた。
まさか自分のハーブ園を受け継ぐ者が居たなんて、青天の霹靂と言った感じだった。
『だな! 俺もさっき聞いて、とっても驚いたよ』
『そうなんだ……私のハーブ園を受け継いだのはケンと家族なのね……ぜひ、会いたいわ!』
『ああ、ぜひ引き合わせたい。何故ならば俺達は、お前が育てたハーブのお陰でとても幸せになった』
『私のハーブで、ケンと家族が幸せに?』
『ああ、そうだ! だから俺だけじゃなく、家族全員で礼を言いたい』
そう……
俺から、ベアトリスへのプレゼント、思い出作り……
いくつか考えた中のひとつが、『受け継ぐ者』との引き合わせだ。
以前王都で俺とレベッカがナイフの柄職人オディルさんと会った時もそうだった。
オディルさんと旦那さんの『技』を受け継ぎたいと告げたら、とても喜んでいた。
ベアトリスが、どう受け止めるかは、分からない。
でも現に、俺達は彼女のハーブ園を受け継いでしまった。
だから、改めてしっかり礼を言い、感謝の気持ちを伝えたい。
特にクッカとリゼットはそう思うに違いない。
『それと……心して聞いてくれ。5千年後の今、お前が思った通り、ここはガルドルド帝国ではない』
『やっぱり……そうなのね』
『ああ、ヴァレンタイン王国という国だ。実は、一夫多妻制が許されていてね。俺には嫁が9人居る』
『え? ケンのお嫁さんが9人も!』
『でも、俺は嫁全員を愛している。だから、ふしだらとか言わないでくれよな』
『ええ、ふしだらなんて言わないわ。だってガルドルドも一夫多妻制だったから!』
『おお、そうなのか? ちなみに子供は8人居る……我が家はとてもにぎやかだ』
『わぁ! ケンの家って! 凄い! 楽しそう!』
喜ぶベアトリスへ、俺は更にサプライズプレゼント。
『よし! 決まりだ。じゃあ俺の住む村まで飛んで帰ろう』
『え? 飛んで?』
『ああ、俺は飛翔魔法を使える!』
『す、凄いわ! ケンは!』
『それほどでもないさ。ガルドルド帝国が、この森同様、どう変わったのか……お前と一緒に大空を飛び、見ながら帰ろう』
『分かった、凄く楽しみよ! でも……お願いだからゆっくり飛んでね。私、早く飛べないから』
『了解!』
俺の元気で簡潔な返事を聞き……
ベアトリスは、ハーブ園で咲き誇る、美しい花のように笑ったのであった。
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