第13話「最後の望み①」

 そんなこんなで、オベール家政務の話がおおよそ終わった。

 だから次は、ボヌール村の状況と運営について話し合う。

 

 さっきまでは宰相。

 こちらは主に、村長としての仕事である。

 俺だけじゃなく、村民からもいろいろと聞き取りをしており、精査した上で要望を出す形。

 結果、いくつかを聞いて貰った。

 どの要望も個人的な私利私欲からではなく、村の状況を改善し、オベール家にもプラスになる事案なので問題がない。


 併せて俺は礼も言う。

 ボヌール村の新村民として貴重な人材、つまりアンリとエマ、デュプレ3兄弟を譲って貰った事を。

 結果、5人が村へ移住後、幸せに暮らしている報告もした。


 アンリとエマの暮らしぶりは、オベール様にとって、大体想像がついていたらしいが……

 アベル、アレクシ、アンセルムが可愛い『彼女』を作ったと聞き、大いに驚いた。


「あの3人がか!? 一体どうして!? 女には一生縁がないと思っていたのに……」


 いやいや……デュプレ3兄弟が、女には一生縁がないって何?

 それはちょっと……

 主君とはいえ……言い過ぎだと思いますよ。


 俺は苦笑し、


「いえ、アベル達は3人共、相手とは熱々状態。今にも結婚しそうな勢いです」


 と、3兄弟が村の女子達と出会い、恋仲になったいきさつを話せば……

 オベール様は、「ふう」と息を吐き、ひどく遠い目をする。


「あのような奴等でさえ、可愛い女性と知り合い、素敵な恋に落ちるか……祭りとは何というロマンチックな……本当に羨ましい」


 あのね……

 部下を、あのような奴等とか……

 素敵な恋に落ちるのが……本当に羨ましいって……

 

 そんな事言ったら……

 恋女房のイザベルさんにこっぴどく叱られますって。


 思わず俺は肩をすくめ、話題を変えた。


「親父さん、以前お約束した通り、来年はエモシオンでもやりましょうよ、ボヌール村でやった祭りを」


「ああ、……そうだな」


 あれ?

 オベール様が変だぞ。

 祭りをやると伝えて、凄く喜ぶかと思ったら、何故か反応が薄い。


 思い当たる事がある俺は、軽く唇を噛んだ。


 やはり理由は『あれ』なのか……

 実は今回、オベール様へ一番伝えたかったのは、俺が『秘密の計画』を立てている事なんだ。


 今迄の話の流れから、頃合いと見た俺は、その『計画』を告げる事にする。


「親父さん、改めて話があります」


「何だ、婿殿、話って?」


「お願いですから、ぬか喜びしないで下さいね。いつ出来るか時期も未定ですし、各所へ調査、確認して問題ないって裏を取らないと絶対にやりませんから」


「むう、何だ? そのとんでもなく遠回しな言い方は?」


 オベール様は、俺の慎重な物言いを聞き、怪訝な表情をする。


 うん!

 予想通りだ。

 こう言って、ピンと来るどころか……

 全然通じていない!

 やはり……この人は、あまり遠回しな言い方って駄目かもしれない。


「じゃあ、はっきり言いましょう。ずばり、ソフィのカミングアウトです」


「はぁ!? ソフィ?」


 目を丸くするオベール様。

 若い女子が見たら、可愛いオジって笑うかもしれない表情である。


「良いですか、親父さん。すなわちオベール家令嬢ステファニーの復活、そして娘のララを堂々と、オベール家直系の孫として、親父さんが抱けるよう、精一杯やってみます。目標達成の想定時期は、一応来年の祭りの頃くらいって事で」


 俺がはっきり言い放つと、オベール様は大いに驚く。

 さすがに予想外だったらしい。


「な! な! 何ぃ~!!!」


 驚いた分、書斎中に大声が響き渡ったので、俺は注意をする。


「もう、声が大きいですよ。……外へ聞こえないとは思いますが、一応トーンを落として下さい」


 俺が唇へ、ひとさし指をあてたら、オベール様は慌てて頷いた。


「わ、分かった」


「俺、以前からいろいろと考えています。今回のデュプレ3兄弟の件もそうでした。上手く行ってソフィと彼等が幸福になったから……今度は親父さんの番かなぁって」


 これは本音だ。

 オベール様も、もう少しで老齢にさしかかる。

 ……最近は、「もし私が死んだら」って口癖も極端に増えた。

 ならば、『最後の望み』を叶えてやりたいって思ったんだ。


 さすがに、そんな俺の想いを感じたのか、オベール様は言う。

 慈愛の籠った眼差しを向けて来る。


「婿殿、お前って奴は相変わらず優しいな……でも、私はもう充分に幸福にして貰ったぞ。お前の素晴らしい力で」


「…………」


 俺が敢えて黙っていたら、オベール様は更に言う。

 とても、申し訳なさそうに……


「いや、済まない、お前の事だ。死ぬ前に叶えたい、私の我が儘を察してしまったのだな?」


「まあ、そうです……でも唯一、心配な点があります」


 オベール様へは、はっきり言っておくと、事前に決めていた。

 この件に関しては、大きな不安があるから。


「唯一、心配な点?」


 俺の言葉を聞いたオベール様は、訝し気な視線を、じっと向けたのであった。

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