第6話「貫いた忠義③」

 俺の『告白』を聞き……

 デュプレ3兄弟は、ショックで完全に固まっていた。

 

 彼等の気持ちを考えれば、むりもない。

 まるで、天地がひっくり返ったような状況なのだろう。

 

 行方不明の!?

 ステファニーが生きている!?

 無事!?

 幸せに暮らしてる!?

 それもボヌール村に居る!?


 たくさんの激しい感情が、うねるような波動となって、俺へと降り注ぐ。

 驚き、戸惑い、興奮、喜び等々……

 だから俺は、補足説明してやる。


「お前達は、王都で、ステファニー様がさらわれた状況を聞いているな?」


「…………」

「…………」

「…………」


 無言だが、3兄弟は食入るように俺を見ていた。

 当然、知っている。

 知らない筈がない。

 沈黙は肯定の証だ。


 そして、俺は更に、


「お前達、俺が魔法使いなのは知っているだろう?」 


「…………」

「…………」

「…………」


 やはり無言。

 だが、彼等の真剣な目が言っていた。

 

 あんたが魔法使いなのは知ってる。

 でもそんな、夢みたいな事が出来たのか?

 奇跡が起こせたのか?

 信じられないが、続きを話せ。

 詳しく聞かせてくれと。


 ならば、俺はカミングアウト!


「驚くのも無理はない。俺は魔法で王都まで一気に跳んだ。そして魔族風に変身した。お前達が、想像も出来ないような高位魔法を使ったんだ」


「…………」

「…………」

「…………」


「あの犯人の正体……ドラポール伯爵家へ乗り込んで、ステファニー様をさらった魔族とは……この俺なんだ」


「…………」

「…………」

「…………」


 今度は俺を訝し気に見る3兄弟。

 その疑いの真意は……

 波動を、感じた俺は答えてやる。


「安心しろ。当然俺は魔族じゃない……正真正銘の人間だ。それに王都でさらわれたのも本当のステファニー様じゃない、実は身代わりなんだ」


「…………」

「…………」

「…………」


「本物のステファニー様は、すぐボヌール村へかくまったのさ」


 だんだん、俺の話を信じつつあるのだろう。

 3兄弟は、震える声で何とか……


「さ、宰相…………」

「し、証拠を…………」

「み、見せてくれ…………」


 まあ、当然そう言うだろう。

 予想はしていた。

 ならば「論より何とやら」って事だ。


「分かった!」


 俺は「待ってました!」とばかりに……

 隣の寝室に待機させていたソフィを、念話で呼ぶ。


『OK! 旦那様!』 


 すぐに返事とノックがあり、書斎へ入って来たソフィ。

 彼女を見て、デュプレ3兄弟は鼻じらむ。

 ため息もつく。


 現れたのが……

 期待した主ステファニーではなく、ボヌール村の村民ソフィだから。

 

 当然3兄弟は、ソフィを良く知っているし、城館で何度も会ってはいる。

 でも、気付く筈はない。

 そう、今の容姿は、変身した仮初かりそめの姿であるのだから。

 

 案の定、3兄弟からは、大きなブーイングが起こった。

 強い抗議の気持ちが籠っている。


「宰相、何を言っている……彼女はソフィ殿、貴方の奥様だろう?」


 と、アベルが恨みがましく言えば。

 アレクシも拳を固く握って、


「あんたの妻を……よりによって! ス、ステファニー様なんて! とんだ茶番だ!」


 一番激高しているのは、アンセルムである。


「宰相! こ、事と次第によっては……許さんぞ! ステファニー様を想う俺達の気持ちを逆なでするような……最低の冗談はやめてくれっ!!!」


 無口な彼等がいつもより口数を多くして、怒りを露わにし、切々と訴えので分かる。

 3兄弟は、今迄、辛い苦しみを味わって来たのだと。


 よし!

 お前達、その苦しみから、すぐ解放しよう。


 俺は、アイコンタクト&笑顔をソフィへ向ける。

 魔法を、これから解く合図だ。 

 ソフィも、心得たとばかりに頷く。


 準備が出来たと、俺が指をピンと鳴らし、魔法が解除されると……

 

 ボヌール村の美しい人妻ソフィが、実は長年に渡って行方不明の、オベール騎士爵家令嬢ステファニー……

 真の正体が見破られないよう、俺の魔法で変えられた、黒い髪が金髪へ……

 茶色の瞳が、真っ青な碧眼へと変わって行く……


 7年前からは、容姿は変わっているが……3兄弟は、顔を見れば分かる。


「「「うおおおおおおお~~~!!!」」」


 変身が解けて行く様子を見て……

 興奮した3兄弟が、凄い声で叫んでいるが、心配無用。

 事前に、防音の魔法が掛かっているから、大丈夫。


 彼等が別れた、当時17歳の少女ステファニーが、大人の女になって帰って来たのだ……

 叫ぶのも無理はない。

 

 そして更なる駄目押しの、『天の声』が降って来る。

 ソフィが、否、ステファニーも叫んだのだ。

 彼等3兄弟の名を……


「アベル! アレクシ! アンセルム!」


「ま、まさか!!!」

「そ、そんなぁ!!!」

「ゆ、ゆ、ゆ、夢かぁ!!!」


 幼い頃から、何度も何度も聞いている……

 いつも呼ばれていた、覚えがあり過ぎる声。

 間違いない、間違えるわけがない。

 3兄弟は確信した、目の前に居るのは、ステファニー本人だと。


 自分達がまた、ステファニーから呼ばれる日が来るとは!

 ステファニーが生まれた時から、彼女をずっと守って来た……

 昔の記憶が鮮やかに甦り、言いようのない喜びが込み上げて来る……


 毅然とした様子で名を呼ぶ、金髪碧眼の美女を見て……

 3兄弟は、驚きと嬉しさが混在し、呆然としていたのである。

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