第12話「共感②」

 夢中になったサキは、更に話し続ける。

 

 結局彼氏は居なかったが、親しい友人は何人も居て学生生活自体は楽しかった事。

 毎日コイバナで盛り上がっていたから……

 だけど……運命の日……学校からの帰り道……

 いきなり交通事故にあった事……

 

 気がついたら、意識だけの状態で、管理神様から転生の話を聞かされた事。

 サポート神がついてくれるから、『ぼっち』でも頑張れと励まされた事。

 転生しても、サキの容姿は殆どそのままである事。

 装備、当座のお金を貰い、異世界へ送られた事。

 そして……あの草原で、『神』となった俺と出会った……


『ねぇ、ケン。私、不思議なの』


『何が?』


『ケンの事、サキは何故か、ずっと前から知っているような気がする……もしかして、運命の出会いじゃない?』


 運命の出会いか……

 うん、そういうの嫌いじゃないけれど……

 乙女のロマンティックな気持ちも分かるけど……

 現実はといえば、結構厳しい。


 そんなノリで、俺はサキへ言葉を返す。


『多分、錯覚だろ』


『もう、馬鹿ぁ!』


 サキは、また俺にくっついた。

 幻影の俺を抱きしめようと、強く強く腕を絡めようとした。

 

 寂しかった! 不安だった!

 という、強い波動を出しながら。


 そうか、サキ。

 お前も……大変だったな。

 

 実体のない、幻影だけど、俺もサキを抱きしめてやった……

 

 うん!

 俺とサキには、『通じるもの』がたくさんあった。

 全く同じ転生者として……共感出来る部分が。

 今は亡きクミカが転生したクッカ、クーガーとはまた違う思いが。

 

 幻影の俺なのに……

 サキの身体から香る、甘い体臭が分かる。

 何故か、前世の旧き良き思い出が甦って来る。

 俺は、ひどく懐かしい気分になる。

 

 ずっと前から知っているような気がする……と、言うなんて……

 きっとサキも……俺と同じ気持ちだったのだろう。


 改めて思った。

  

 管理神様が俺をサキの『担当』にしたのは、けして彼女の為だけじゃない。

 俺の為だとも実感したのだ。


 何だか、余計サキに優しくしたくなった。

 俺が慈愛をこめた眼差しで見つめると……

 サキも悲しそうに笑った。

 そして、尋ねて来る。


『ケンって……結婚してたんだね。それもスケールが凄すぎて吃驚。お嫁さんが8人って、何それ?』


『確かに、前世じゃあ、考えられないな』


『そんなにお嫁さんが居て……ケンは8人全員……愛してるの?』


 サキは真剣な表情で尋ねると、俺を抱いた腕に力を込める。

 幻影の俺を、「絶対に放したくない!」と言うかのように……

 先ほどのナンパ男みたいないい加減な奴には、「絶対に絶対に遊ばれたくない!」という、恐れの気持ちが強いのだろう。


 こうなると俺は下手に茶化す事は出来ない。

 ……素直に、正直に答えるしかない。


『俺は嫁全員が真剣に好きだし、愛している。相手も俺を真っすぐに愛してくれている……8人全て、平等に大事にしているつもりさ』


『良いなぁ! 私、ケンのお嫁さん達が羨ましいっ!』


 結婚して、妻として愛される。

 とても大事にされる。

 愛する人がいつも傍にいる。

 幸福な時間を共有する日々を過ごす……

 

 サキの憧れが波動となって、俺へ伝わって来る。

 初心うぶな少女の、幼い子供の頃からの淡い夢として……


 だから俺は力付けてやる。

 いつか……ベストパートナーが現れるって。


『大丈夫さ! 可愛いお前なら、いずれは俺なんかより、全然素敵な相手が見つかる』


『嫌!』


『何だよ、嫌って?』


『私はケンが好きなんだもの! だから私も仲間に入れてよっ! ケンの居る世界は一夫多妻制だよね? じゃあ私が9人目のお嫁さんになっても構わないでしょ?』


 サキは叫んだ。

 俺の嫁になりたいって。

 

 でもその選択は……

 一択しかないから……

 今だからこその、選択だろう?


 この世界に慣れていけば、サキには、いずれ真面目な相手が現れる……

 と、俺は思う。

 あんなナンパ男みたいな、外道ばかりじゃないって、信じている。


 俺は、自身がたくさんの子持ちなのを強調する。

 「16歳の、若いサキの相手じゃないぞ」って。


『おいおい、今は身近な男を俺しか知らないから、そんな気になってるんだ。そもそも俺、子供だって8人居るんだぜ』


『良いのっ! 私、子供大好きだし……それに』


『それに?』


『うん! ケンの子供なら、産んであげるよっ! 喜んでっ!』


 ……ああ、話が……一気に飛躍した。

 こうなると、サキみたいな女子の説得は難しい。

 一時、撤退しよう。


『喜んでって……おいおい、それじゃあ、どこかの店か何かだよ……ああ、もう寝るぞ』


『うふふ、そうだね。明日から、ああ、日付が変わってるからもう今日か。頑張らないといけないものねっ!』


 幻影の俺の胸に、嬉しそうに顔をすり寄せるサキ。

 そして、気が付けば、彼女はいつの間にか眠っていた……


 サキの奴……

 生きる事に、前向きになってくれたのは良かったけど……


 俺は苦笑しながら……

 無邪気なサキと共に、眠りへ落ちて行ったのである。

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