第19話「決断」

 もしも、ここで別れたら……

 サキが自分の意思で、この世界に残ったら……

 俺はもう、二度とサキには会えない……


 辛い!

 

 でも……

 サキは出会ったばかりの他人だ。

 何故?

 俺はこんなにも、サキを愛おしく感じているのだろうか?

 

 同じ転生者だから?

 似たような辛い境遇だから?

 俺の事を、とても慕ってくれるから?

 

 多分そうだろう。

 否、きっとそうだ。


 俺は自分を納得させるよう、呟く。

 

『はぁ、そうか…………』


『ええ、サキは、ケンに言われると元気になるの、もっと頑張ろうって思うのよ……だけど、ジュリエット様の仰る将来も素敵ね……ケン、どうしよう?』


 またも、縋るような目で聞いて来るサキ。

 

 ああ、駄目だ! 駄目だ!

 これじゃあ、公私混同だ。

 俺は想いを振り切るように首を振った。

 そして再び思い直す。

 

 多分……

 これが最後の相談……ラストアドバイスになるだろうって……

 

 俺の返事は……

 「サキ! 一緒に来い! 俺がしっかり受け止めてやる!」

 ……本当は、そう言いたい……


 だけど……結局……


『……最後はサキ、やっぱりお前が決めるのさ……』


 と、告げてしまった。


『ええ! ケン、分かった! 貴方の言う通りね。自分で一生懸命考えるわ』


 サキは、真剣な眼差しで俺を見てそう言うと、一心不乱に考え始める。

 

 ……何か、ぶつぶつ言っている。


『……ええっと……し、失敗しても、頑張って乗り越えれば……良いのよね』


『…………』


 黙って見つめる俺。

 ジュリエットはといえば……腕組みをして、鋭い視線でサキを見ていた。


『よし! ……分かったわ! 決めた!』


 暫し経ち、遂に、サキは決断した。

 サポート神である、俺とジュリエット、全ての話を聞き、サキはサキなりに理解。

 最後は、自分で意思を決定したようである。


 さすがに最終決断を告げるだけあって、サキは大きく大きく何度も深呼吸。

 そして……


『ケン! 聞いて下さい! やっぱり私、貴方を愛し助けます。大事にします! だから連れて行って下さい』


 サキが、俺と行きたいって聞いて。

 何か、「ホッ」としたって言うか。

 いやいや!

 自分でも思いがけないくらい、大きな喜びが込み上げて来た。

 

 そうか、サキ!

 ならば、俺も答えは決まっている。

 今更、お前を見捨てる事など、けして出来やしないもの。

 

 うん!

 嫁ズを、一生懸命説得しよう。

 生活だって、何とかなる!

 俺は勿論、新たに入るサキも含め、家族全員で頑張れば良い。

 

『分かった、俺もお前を愛し大事にしよう! もしもことわりを変える事が、許されるのであれば、お前を一緒に連れて行こう』


『ケン! あ、ありがとうっ! す、凄く嬉しいっ!』


 俺にOKを貰い、喜んで目が「うるうる」のサキ。

 しかしジュリエットは、まだ不満のようだ。


『待て、サキ! 先程出した私の問いに答えよ、そうでないと、お前の監督者、もしくはこの世界の管理神として許可は出せぬ』


 確かにサキはまだ、ジュリエットの質問――「覚悟を告げる」という事に、答えてはいない。

 と、思ったら、


『はい! ジュリエット様、いえヴァルヴァラ様! ケンに伝えた通り、私は彼を真剣に愛し、夫として敬い、助けます。絶対、大事にします』


 おお!

 まずは、しっかり話している。

 サキ、頑張れ!

 俺も精一杯、手を差し伸べよう。


 熱いサキの言葉を聞いたジュリエットは、「まだまだ」という表情。


『ふむ……』


 ああ、ジュリエットったら、えらく怖い波動が出ている?

 サキを見る目付きが、まるで獲物を狙う猛禽類のように鋭い。

 おいおい、何故、そんなにサキを脅かすの?


 ジュリエットの強い波動攻撃を受けたサキは、大きく深呼吸し、何とか踏ん張った。


『た、た、た、確かに貴女の仰る通り、わ、私は……サキは世間知らずで不出来な小娘です』


『ふん! その通りだ』


 己のネガティブな部分を、神であるジュリエットから、はっきりと肯定されたサキ。

 だが、めげずに勇気を振り絞って、言葉を続ける。


『うぐ! あ、あ、甘えてばかりで、ちゃ、ちゃんと仕事が出来なくて、ケンに迷惑ばかり、かけてしまうかもしれませんっ!』


『間違いない! 絶対にそうだ!』


『でも! でもですねっ! 私は、サキ・ヤマトは一生懸命頑張ってケンの家族の一員になりますっ! けしてあきらめず、くじけませんっ!』


『ほう、言うではないか』


『は、はい! ヴァルヴァラ様に誓います。嘘偽りなく実行します。で、ですからっ! 私がケンの居る世界へ行く事をお許し下さいっ! お、お願い致しますっ!』


 サキはそう言うと、深く深く、ジュリエットへ頭を下げた。


 ああ、サキ。

 偉いぞ、良く言い切った。

 お前……さっきから一生懸命、話し方を考えてたんだな。

 ジュリエットから、散々突っ込まれても、頑張って負けなかった。


 よっし、今度は俺の番だ。

 軽く息を吸い込むと、発言する為、俺は大きく手を挙げたのであった。

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