第8話「ふたりで町へ」
俺とサキは、先ほど居た草原から、30Kmほど離れた町へやって来た。
『神』となった俺には、今居る世界のありとあらゆる知識と詳しい情報も、自動的に入って来る。
目の前にある、町の名も当然分かるのだ。
この町の名は……ルトロヴァイユという。
名前こそ、結構カッコイイが……人口は約1,200人ほどの小さな田舎町に過ぎない。
雰囲気は……オベール様が治める町、エモシオンによ~く似ている。
生活に必要な商店、市場は勿論の事、冒険者&商業ギルドなども最低限備わっていた。
「比較的治安も良く、暮らしやすい」という情報も、俺の心の中に浮かんでいる。
この町へ来る前、サキの魔法訓練をしながら……
俺は「どこへ行くか?」と考えていた。
もしもサキが、キャンプ大好き女子であれば……
さっきのゴブとか、敵の襲撃だけ気を付けて、土魔法で簡易な住居を作り大草原で野宿という可能性もあったが……
お嬢様育ちなサキを見る限り、いきなりの野宿は無理だと判断した。
まあ、今夜は普通の宿屋へ泊まるのがベストだろう。
選択肢は王都、町、村の3つから。
サキの出自と性格なら、この国の王都へ行っても良いと思ったが……
何故、行かなかったか? というと、逆に彼女が苦労すると思ったから。
先日、レベッカと旅行していて改めて感じたが……
王都みたいな大きな街は、楽しく暮らしやすいしメリットが大きい。
だが、思わぬ落とし穴もあり、リスクも大きい。
まあ俺は元々都会が嫌いだけど……
『神様』というサキの保護者みたいな立場では、「都会なんか嫌い、行きたくない」などと言ってはいけない。
閑話休題。
俺が見て話して分かったが、サキはあまりにも無防備な『異世界初心者』だ。
ロールプレイングゲーム同様、「慣れる」まで、最初は小さな町が良い。
結果、選んだのが、草原の最寄りにあった町ルトロヴァイユ。
ここで暫く暮らし、充分に『レベルアップ』したら、次の町へ行くべきなのである。
草原から、町の正門前に……
俺とサキがいきなり現れて、大騒ぎになると困る。
なので、町の正門から少し離れた雑木林の中に「こっそり」現れた。
さりげなく街道に入り、長旅を装うのは、ウチの嫁ズと旅行する時と全く一緒。
一方のサキはといえば、最初は転移魔法の独特な感覚に驚いていたが……
隠密行動を取ると知って、むしろ面白がっている。
何か、一種のゲームだと思っているらしい。
まあ、こんな事で、彼女の寂しさと辛さが紛れれば御の字。
俺とサキが正門に近づくと、結構な数の人達が並ぶ行列が見えて来た。
お約束の、『入場手続き』待ちをしている人々だと分かる。
つまり、『入場税』という税金を払って、町の中へ入れて貰うのだ。
ちなみにサキは管理神様から、『暫く暮らせるくらいのお金』を与えられている。
……俺は、異世界へ放り出された時、こういうお金なんか、一切貰えなかったけれど。
その代わり? 授かったのが『レベル99』の能力なんだろう。
さてさて……
案の定、サキは『行列』の意味を知らなかった。
行列を指さして、驚いている。
『え~っ、ケン、何あれ? あの行列?』
『ええっと、あれは、な……そうだ、サキ。お前さ、ファンタジー小説とか読んでない?』
『読んでない』
即答。
残念。
サキがファンタジー小説やラノベを読んでいれば、ゲームの時同様に、説明が省けたかもしれないのに。
……って、そんな形で手を抜いちゃ駄目だな、俺は。
『サキ、あの行列は、入場待ちの人達さ。町へ入場する時は並んだ順番通りに入るんだ』
『え~、何で並んでるの? 私、行列なんてヤダー、めんどい、かったるい』
予想していた反応だが、やはりサキは面倒を嫌がる。
避けて通れる『面倒』なら良いが、今のこの状況では不可である。
異世界初心者故、そんな判断も出来ない。
俺が助けてやらなければ……
『駄目だ、サキ。列の後ろに並んで、ちゃんと手続きした方が良い』
『え~、何でぇ? さっきケンが使った転移魔法で、ぱぱっと町の中へ入っちゃえば良いじゃない』
『いや、ズルしない方が良い』
『え~、その方が楽じゃん。私、楽な方が良い』
『楽って、お前なぁ……俺がこう言うのを、何か理由があるんじゃないかとかさ、少しは考えてみろよ』
俺に言われて、首を傾げ、考え込むサキ。
『ん~……』
『…………』
無言で見守る俺。
しかしたったの30秒後……
サキは、あっさり降参。
『ケ~ン、やっぱ、分かんな~い』
『仕方ね~な。じゃあ、教えてやる。サキ、実は町の中には衛兵がいるんだ。前世でいえば警官みたいなものだな』
『警官? おまわりさんの事?』
『そうだ。もしも何かあって、サキが町中で職務質問でもされた時、ズルして入った不正入場者だと分かれば……』
『分かれば、何?』
『
『げ! 速攻で! ろ、ろ、牢屋!?』
『牢屋入り』と言われ、さすがにサキは驚いた。
そんなサキに対し、諭すように、俺は言う。
『サキ、お前、牢屋に入れられるのは……嫌だろう?』
『い、嫌よっ! 当然じゃないっ! でもそんな時はケンが助けてくれるでしょう?』
『多分、駄目だな。考えてもみろよ、神様が悪事の手伝いを出来ると思うか?』
『ううう…………確かに納得』
逐一説明して、大変だが……
サポート神の俺は、やはり労を惜しんではいけない。
『良いか、サキ。お前はこの世界の人間じゃない、身元が分からない正体不明者なんだ』
『正体不明者なの?』
『そうだよ、私は転生して異世界から来ましたって、一生懸命説明しても、信じて貰えるわけがないさ』
『……それも、確かに納得だわ』
『だろう? 幸いここは町へ入る者に対して、そんなに厳しくない。入場税さえ払えば、仮町民証を発行してくれる。入る時も指名手配犯でもない限り、大抵通してくれるよ』
俺が入場した際の詳細を説明したら、サキは分かってくれたらしい。
しかし、彼女の表情はどんどん暗くなって行く。
『そう……なんだ。でも払ったら、サキの持ってるお金が減っちゃう……パパやママが居ないから、もうお小遣いが貰えない……』
『…………』
『パパ、ママ……帰りたいよぉ……』
お金……小遣い……可愛がってくれた両親……
望郷の念が……失ってしまった故郷への思い出が、サキの心に湧き上がっている。
俺は、悲しむサキを慰めるしかない。
彼女の守護者として。
『サキ、元気を出せ。パパやママは居ないけど、元転生者で神様の俺がついてる』
『ケン……』
『もう一度言うぞ、サキ。ここは金を払わないと町の中へ入れない。町へ入らないと、ご飯も食べられず宿屋にも泊まれない』
『そうか……そうだよね。ケンの言う通りだね』
『管理神様から貰ったお金が無くなる前に、サキが自分でお金を稼ぐ方法を見つけよう。いっぱい稼げれば、美味しい食べ物を食べられて、可愛い服も着れるぞ』
『ホ、ホント!?』
『そうさ! 俺もサキを全力でサポートするから、一緒に頑張ろうぜ』
『う、うんっ! ケンがそう言ってくれると、元気が出るよっ。私、頑張るっ!』
美味しい食べ物と、可愛い服……
少しでも女の子が喜びそうな話題を振ったら、サキは笑顔を見せてくれた。
だが無理して笑っているのが、俺には分かった。
サキ……
ヴァルヴァラ様が来るまで、しっかり守って面倒みてやるからな。
泣き笑いの表情を見せるサキを見て、俺は強く強く決意していたのであった。
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