第7話「宰相兼家庭教師①」

 何かオベール様ったら、長年の悩みというか、苦しみというか……

 胸のつかえが取れて「すっきり」って感じで……

 安堵したぁ! って表情で、大きな目を「うるうる」させている……

 

 でも、甘い!

 親父さん、貴方は砂糖より甘いのです。

 何故なら、家族会議でじっくり相談して来た俺の話は、まだまだ終わりではないから。

 ふぬけたオベール様の表情を見れば、もうすっかり忘れているみたいだけど。


 暫し待ち、タイミングをはかった俺。

 そろそろ頃合いだと見て、


「じゃあ、親父さん、改めて話しましょうか」


「は?」


 口をぽかんとして、固まるオベール様。

 おいおい。

 「は?」じゃないっすよ。


 俺が「じっ」と見て、びしばしアイコンタクトを送っても、オベール様ったら、きょとんとしている。

 「話が全く見えないぞ」って表情をしてる。

 何だ?

 またさっきの繰り返しかい?

 最初から説明しなきゃダメ?

 でも、これから話すのは、オベール様から切り出した案件なのに。

 

 仕方がない。

 こちらから、口火を切るか。


「いえいえ、そんなに驚かないで下さい。これから話す件の方が本題なのですから」


「何? 本題? 婿殿、何だい、それは?」


 オベール様ったら、首を傾げるばかり。

 この近辺じゃ、一応切れ者の貴族って評判なのに、イメージが全くない。


「だから……同じくらい大事な話があったじゃあないですか?」


「???」


 駄目か……

 ?マークが盛大に飛び交っている。

 これ以上続けると、不毛な会話になりそうだから、もう種明かしをしよう。


「何だいって……あのですね……親父さんが俺達ユウキ家に、このエモシオンへ移り住めって言ったでしょう?」


 俺がズバリ言ったら、オベール様、ポンと手を叩く。


「あ、あああ! い、今の話であまりにもショックを受けたので忘れていた!」


「ショックですか? まあ、気持ちはよ~く分かりますけど……」


「だろう? 婿殿が、ヴァネッサの事で私を驚かせ、且つ喜ばせすぎるからいけないのだぞ、ははははは!」


 豪快に笑うオベール様であるが、はっきり言ってごまかしているでしょ?

 実は、すっかり忘れていたって。


「…………」


 無言で答えた俺の突っ込みに対し、


「ははは……はは、コホン!」


 ああ、オベール様ったら、何かわざとらしい咳してごまかしてる。

 当然俺は、引き続き無言攻撃。


「…………」


「う、うん! そ、そうだ! 思い出したぞ。お前達に直接、家臣として仕えて欲しいと、私が頼んでいたんだっけな」


 漸く、話のスタート地点に立てたみたい。

 そう、グレースの案件はとても大事だけど、今から話し合うのも同じくらい重要なのだ。


「折角思い出して頂いたのに、すかさずがっかりで、申し訳ありませんが……残念ながら、お受け出来ません」


 俺が真面目な顔付きで言うと、オベール様は苦笑する。

 何とか、いつもの『平常モード』へ戻れたみたい。


「だろうな。婿殿がそう言うだろうと予想はしていたよ」


 予想はしていた……か。

 そうだよね、俺や嫁ズはボヌール村への愛に溢れている。

 ソフィも、会うたびにオベール様へ村の自慢ばかりしていると、言っていたし。

 

「はい、俺を含めて家族全員はボヌール村が根っ子なので」


「ふうむ……だが困ったな」


 俺が断ると、今度は腕組みをして考え込む、オベール様。

 身内になったせいもあるけど、オベール様ってホントに優しくて良い人。

 かつてドラポール伯爵家が強引に言う事をきかせようとしたように、普通の貴族は目下の人間のノーを断固として許さない。

 領民など、絶対に服従させるのが、モットー。

 だから、このような場合は、無理やり家臣にする方が『普通』なのである。

 

 なので、俺は言う。

 準備して来た、プランを提示するのだ。


「しかし親父さん達にこんなにお世話になっていて、冷たくあっさり断るだけじゃあ、俺達は非道な恩知らずになる。だから、折衷案を出します」


「何? 折衷案?」


「はい! 俺を含めて嫁ズはまず、このエモシオンへ来る頻度をぐっと上げます。従来は村の仕入れ目的で3か月から半年に1回みたいな割合でしたが、今後は月に1回は伺おうと思います。そして数日は滞在します」


「おお!」


 そう、家族会議で出たアイディアで、これが分かり易く一番現実的。

 俺達って、今迄は不定期にエモシオンの町へ行っていた。

 村で唯一の商店、大空屋の在庫品が切れれば、「じゃあ行くか」って成り行きで。


 それを定期便に変更し、ボヌール村へ物資の流通を豊富にし、ついでにオベール家とのコミュニケーションも図るって考え。

 ソフィこと愛娘ステファニーが来る頻度も大幅アップで、オベール様も大満足となる。


 当然だが、馬車で半日かけてなど来ない。

 ズルして転移魔法で、エモシオンまでひとっ飛び~。

 当然身内だけのメンツで秘密は絶対厳守になるが、帰りも含め、移動は超が付くくらいに楽ちんである。


「これまで以上に親父さんやイザベル奥様と、報告&相談をしたり、フィリップには家庭教師という形で、滞在中にいろいろと教えられたら良いと思います」


「成る程! 婿殿、すなわち我がオベール家には、誉れ高き勇者が助っ人として、宰相兼家庭教師になるわけか、実に素晴らしいな」


 は?

 誉れ高き勇者が助っ人?

 宰相兼家庭教師?


 何、それ?

 唖然とした。

 今度は……オベール様に代わって、俺が口をポカンと開ける番となったのである。

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