第3話「俺は悟空?」

 最初に名前を言われたから、大方予想はしていたが……

 管理神様は俺達の名前以下性格も含めて、テレーズへ事前に話しておいてくれたようだ。

 つまりテレーズは、俺達の事をほぼ把握している。

 

 逆に俺達は、テレーズの事を殆ど知らない。

 管理神様から聞いた範囲内だけ。

 どこかの妖精の女の子で、王族か、貴族。

 身分は絶対に高い。

 ついでにプライド、超が付くほど高い。

 微妙な、みやび言葉も話しちゃう。 

 

 さっきから、俺の従士達は無言だ。

 ケルベロスとベイヤールは元々寡黙な方だから違和感はないが、おしゃべりなジャンまでが黙り込んでいる。

 

 何か……変だ。

 

 でも敢えて聞くとか、ジャンの心の中を覗くとかはナシ。

 それって、凄く嫌だ。

 今のジャンなら、俺へ正直に話してくれると信じているから。

 と、いう事は何か言えない理由があるのだろう。


 そんな事をつらつらと考えていたら、テレーズが俺の脇腹をつつく。


「ケン、少しこの辺を散歩したい」


 すぐボヌール村に行かず、もう少し森を歩きたいと、テレーズは言う。

 先ほどハーブの苗も採取したし、もう少し西の森のパトロールを続けたかった俺達も異存はない。


 俺に手を引かれて、森の中を歩くテレーズがパッと指さす。

 指をさしたのは、先頭を悠々歩くベイヤールである。


「ケン、あの馬に乗りたい」


 ベイヤールはかつて、ある上級悪魔が騎乗していた妖馬だ。

 しかし俺に召喚された時は『フリー』であった。

 詳しい原因は聞いていないし、本人(馬)も喋らないから聞かないけど……

 何らかの理由で主の悪魔と袂を分かつ事になったらしい。


 他の従士もそうだが、ベイヤールは俺の従士の中では特に誇り高い。

 召喚に応じて来たとはいえ、最初は中々心を開こうとせず、命じられた事だけを淡々とやっていた。


 それがケルベロス、ジャンと共に様々な経験をし、死線も潜り抜けてお互いにしっかりと理解し合ったのである。


「ケン、手綱と鐙と鞍をつけて、すぐ乗るから。裸馬なんかに乗れない」


 テレーズは、どうやら乗馬の経験があるらしい。

 嬉しそうに呟いている。


「うふふ、素晴らしい馬ね。私の馬にするわ」


「却下!」


「却下? な、何故よ!」


「理由の1、ベイヤールは俺の従士だからお前にはやらん。理由の2、特別な場合と馬車を引いて貰う時以外、彼に馬具は不要。以上!」


「ふ、ふざけないで! わらわ、い、いや! わ、私の言う事が聞けないの?」


「おう! 聞けない。その言葉そっくり返してやるよ。管理神様との約束を忘れたのか?」


 俺が言うと、さっきの禁断の魔法を思い出したのであろう。

 テレーズの勢いは止まってしまった。


「あ! ぐぐぐ……」


 唸るテレーズ。

 金髪碧眼、お人形さんのような可愛い少女が拗ねているのを見て、ああ可愛いと感じるのは男のさが

 というか、今の俺にはテレーズは自分の妹か、娘のようだからそんな視点。

 なので、優しくしてやる事にする。


「と、思ったがベイヤールへ乗せて貰えるように俺が頼んでやるよ。但し、馬具なしで乗せるだけ、それにお前専用の馬とかはなし」


「嫌よ! 裸馬なんて乗れない」


 まあこの反応は当たり前。

 普通は裸馬には乗らないし、乗れない。


 でも少しいじってやるか。


「だったら、勝手にすれば。ベイヤールに乗りたいと言ったのはテレーズ、お前の方なんだから」


「ううう」


「ほら、素直になれよ。乗ってみたいんだろう?」


「うう……うん」


 テレーズが渋々頷いたので、俺はベイヤールに意思を伝える。

 具体的な言葉を喋らないベイヤールは念話に近い形で意思同士のやりとりをして『会話』をするのだ。


 俺とテレーズのやりとりを傍で聞いていたベイヤールはすぐ『OK』の意思を送って来た。


「おう! ありがとう」


「ぶひひん!」


 俺が声に出して礼を言うと、ベイヤールが嘶いた。

 しかしテレーズは、突如のいななきに吃驚したようだ。


「あう!」


「うん、大丈夫さ、OKだってよ」


「え?」


「さて、じゃあ乗せてやるぞ」


「あ?」


 実は裸馬に乗る練習、俺と嫁ズはたまにやっている。

 さっきから言っているように、裸馬に乗るにはいくつか問題がある。

 まずは鞍に代わる、座れるモノが必要なのだ。

 何故ならば、普通に座ると股を激痛が襲うから。

 それに馬に乗って走ったら相当揺れるので、手綱の代わりに掴まるモノも必要だ。

 普通の馬であれば、たてがみなのだが……

 ベイヤールは、たてがみを掴まれるのを非常に嫌がる。


 だから俺は、魔法を使って対処した。

 最初は上手く行かなかったが、何度もやってようやく何とかなった。

 鞍の代わりに風の魔法でクッション。

 手綱の代わりに、空間魔法で見えない取っ手を作ったのだ。

 進め、止まれ、左右等の意思伝達は念話でOKだし、これで文句なく乗れる。


 俺はテレーズを、「ひょいっ」とお姫様だっこした。


「…………」


 あれ?

 赤くなって恥ずかしがってる。

 身体も固くしているし。

 意外に可愛いところがあるじゃないか。


 俺は「ふわっ」と飛翔し、ベイヤールの背中に「そっと」テレーズを乗せた。

 風魔法のクッションは「ふかっ」とした感触だから、座り心地は良い筈だ。

 そして手を伸ばすように指示した上で空間魔法を発動する。

 丁度手の届く場所に『取っ手』のようなものが出現して、テレーズは吃驚していた。


 さあ、これで準備万端。


 テレーズがどれくらい乗馬が上手いか分からないが、これは特殊な乗り方。

 少し練習が必要だ。

 だから、最初はゆっくり並歩なみあしである。


「お、おお……」


 あはは、何か目を丸くして感動してる。

 可愛いな、コイツ。


「思いっきり走りたいだろうけど、我慢だぞ。村へ行ったら、ベイヤールは無理だけど鞍を付けた普通の馬に乗せてやるから」


 馬上のテレーズ、戸惑いながらも嬉しそうだ。


 ……そんな感じで俺達は森を歩く。

 空気は爽やかで魔物の気配はなし。

 絶好の散歩日和だ。


 しかし……俺、ケルベロス、ジャン、そしてベイヤールに乗ったテレーズ。

 むむむ、もしもテレーズが三蔵法師なら……この構図はもろ西遊記じゃないか。

 お供に関しては、誰が誰だとは敢えて言いません。


 こうして俺達は、西の森のパトロールを続けたのであった。

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