第10話「怪しい冒険者達」
翌朝……
俺達は 魔法と視認を駆使して東の森をくまなく探索した。
だが、村民へ脅威を与えそうな魔物の痕跡は見当たらなかった。
以前居た凶暴なオーガの群れもおらず、安心した。
また思い出が甦って来る……
初めて、この森へ来たのはレベッカとの狩人訓練。
あの時は、すんでのところでレベッカがオーガに喰われるところだった。
※ど新人女神編:第25、26話参照
改めて思う。
レベッカを助けられて本当に良かったって。
愛するレベッカが生きていてくれて、凄く嬉しい。
俺をいつも癒してくれる元気な声と爽やかな笑顔は、失われる事はなかった。
そして彼女は、次世代へかけがえのない命を繋ぐ事も出来た。
……今や俺達には、イーサンという可愛い息子が居るのだから。
閑話休題。
魔物以外に危険な存在といえば、人間を餌とする肉食獣の熊や狼くらい。
しかし、いつかのように俺と従士達が森を歩くと、あちらから避けてくれる。
はっきり言って、一目散に逃げて行くのだ。
多分、野性的な本能でヤバイと感じるのだろう。
こうなると、森の中で一番の
ボヌール村近辺において残る探索地は西の森とその周辺である。
西の森は元々ゴブが多く生息していたが、何か魔族を呼び寄せる理由があるかもしれない。
かつての魔王軍の面々、変態狼男を始めとして
但し、東西の森は距離が結構ある。
俺が今居るのは東の森だから、普通に移動すれば数時間は楽にかかってしまう。
時間が勿体無いし、索敵により辺りは無人だと分かっている。
誰かに見られるという心配が無いので、馬車ごと俺の転移魔法で移動する事にした。
確か、西の森前の草原に身を隠せるくらいの小さな雑木林があったので、俺達はそこへ転移する。
周囲を窺い誰も居ない事を確かめると、俺達は雑木林を出て西の森へ向かう。
俺達が、当面の目的とするのはゴブの掃討。
昨日アーロンビアの商隊を襲っていた奴等だ。
ゴブ=ゴブリンは魔物の中では弱い部類に入る。
約1mしかない身体は脆弱だし、攻撃方法にも特筆すべきものはない。
しかし繁殖力が異常に高いので、短期間で容易に個体数を増やして集団で獲物を襲う。
たった数匹のゴブなら、どうという事はない。
武器さえ携帯していれば、ひとりでも何とか撃退出来る。
でも先程の群れのように50、100、それ以上となると少人数の人間は抵抗する
被害者は生きながら、あっさり喰われてしまう。
以前リゼットがハーブ採取の際にあったような危険な目に、村民をあわせるわけにはいかない。
ふるさと勇者である俺は、この地域の治安を守る為にゴブを駆除しなくてはならないのだ。
雑木林でベイヤールを馬車から外す。
外した馬車は空間魔法で生成した異界へ仕舞い、身軽になった俺達は西の森へ入る。
何となく気配を感じる。
まだ遠い反応だからはっきりしないが、この近辺にはまだまだゴブが居そうだ。
村の人に話を聞くと、俺がこの異世界へ来る前はもっと大量に居たらしいが。
こちらの森も、東の森同様人影がない。
なので、森の奥へどんどん進む。
東の森だけでなく、西の森でも大抵の動物は先に逃げる。
やっぱり俺達は悪役だ(笑い)
あっという間に森の奥……
おっ!
約1km先にゴブ数匹の反応がある!
と、思ったらすぐに消えちゃった。
何と、一緒に人間の気配があったのだ。
約10人くらいか。
前にも言ったが、辺境の地の更に奥まった森、そして私有地とくれば人間が居るのは珍しい。
ひとつ面白い話をしよう。
凶悪な魔物ゴブとはいえ、ヴァレンタイン王国の法律上ではオベール様の所有物となる。
兎や鹿、熊同様オーガもオークも全てだ。
魔物も狩猟動物扱いとはすごく笑えるが。
まあ、結局何を言いたいかと言えば。
街道上で通行中に襲われた時は魔物を撃退するのは正当防衛で止むを得ない。
だけど、こういった森などでゴブを狩るのはNG。
オベール様の部下やボヌール村の村民など狩猟を許された者でなければ、領地内で魔物を倒すことは違法行為という事である。
暫し経ち、ゴブの反応は完全に消滅した。
と、いうことは人間側がゴブを殲滅したということだ。
相手がどれくらいの力量かすぐには分からないが、もう少し接近すればはっきりする。
万が一、変な目的があったり、害意を持って向かってくれば俺も容赦はしない。
人間が居たから俺は仕方なくスキルを使う事にした。
気配消去と
俺が使っている気配消去のスキルは、クッカ直伝。
この異世界へ来て、すぐに覚えたスキルだ。
今の俺は自分自身だけではなく、従士達にも発動してやる事が出来る。
加えて姿を消す隠身のスキルも同時発動しているから、俺達は異世界忍者と言っても過言ではない。
ちなみにこんな時、良く使ったのは全身真っ黒の魔王の手下風ファッション。
現在は封印中だけど。
俺達は気配のする方へ近付いて行く。
気配消去のスキルは身体を浮き上がらせた上に自身の体重も限り無くゼロにするから、草を踏み締める音も殆どしなくなる。
やがて、人間——冒険者達が居るのが見えた。
戦士風、魔法使い風、僧侶風、シーフ風……様々な奴が居る。
どうやらひとつのクランらしい。
偵察役、盾役、攻撃役、支援役……
多分、バランスは取れているのだろう。
さあて……どうアプローチするか?
俺は、少し考える。
戦いが終わったばかりで、相手はまだ殺気立っていた。
いきなり声を掛けて矢を射掛けられたり、魔法をぶっ放されても厄介だ。
そうなっても大丈夫なように、俺は一計を考え付いたのであった。
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