第16話「笑う門には福来たる②」

 俺がクラリスと話をして、一週間経った朝食後……

 

 練りに練った作戦が発動する。

 居間に家族全員を集合させて、いよいよお披露目だ。


「よおっし! 注目!」


「何、何?」

「また何か新しい遊び?」

「教えて! 教えて!」

「あそぶぅ!」

「ばぶぶう」


 俺の声に、家族全員が反応する。

 期待に満ちた声だ。

 

 無理もない。

 俺とクーガーが教えた遊びは、村に完全定着して概ね好評だから。

 だけど人間って一旦楽しい遊びを覚えると、新たな楽しい遊びをもっともっと求めたくなるらしい。

 そう、人間とは欲がすご~く深いのだ。

 まあこのような欲くらいならば、とっても平和でいいけれど。


 俺が取り出したのは紙に描いた、髪型、眉毛、目、鼻、唇といった様々なパーツであった。

 最後に顔全体の輪郭を持ち出す。


「な~に、これ~?」

「誰かの顔?」


 首を傾げる嫁ズの中でやはり一番に気付いたのはクーガーである。 


「あ~っ、もしかして!」


「そう! もしかしてだ」


 俺はにっこり笑うと、顔のパーツを並べてやった。


「あ~、やっぱりドラゴンママだぁ」

「こわそ~」

「そっくり~」


 最初は誰だか分からなかった顔のパーツも、ちゃんと並べるとクーガーの顔になった。

 普通に描くと、顔がそっくりなクッカと区別がつかなくなる。

 だから、少々デフォルメ化してある。

 ちなみにクーガーの口からは、彼女の『渾名』通りに灼熱の炎が吐かれていた。

 成る程!

 これはまさに……『ドラゴンママ』だ。


 自分の似顔絵を見た、クーガーの目が細くなる。


「ほ~う! 描いたのは……クラリスかなぁ? ふ~ん、いい度胸しているじゃない」


「ええと、その~」 


 クーガーが本気で怒ると、充分怖い事を他の嫁ズは知っている。

 クラリスは、思わず俺の顔を見た。

 助けを求めるような目だ。


 受け狙いで、まずクーガーを描けと言ったのは俺。 

 こうなる事を予想して躊躇したクラリスであったが、俺が強引に押し切ったのである。

 なので、当然フォローする。


「ちょっと、待った! 実は俺が描いてくれとクラリスへ頼んだのさ。それに最初はクーガーを出さないと、新しい遊びは始まらないだろう?」


 今迄の流れを見ると、古い遊びの先鞭をつけるのは俺とクーガーというのが家族の中では常識となっていた。

 今回は製作BYクラリスだが、最初のモデルはクーガー以外考えられないと、俺は暗にほのめかしたのだ。

 当然、自分が茶化された事に怒ってみせたのは、クーガーお約束のポーズだ。

 クーガーが本当に怒るのは、こんな些細な理由などではない。


「うっふふふ、OK! ちゃ~んと、分かっているって。でもさ、これの本当の遊び方をレクチャーしないとダメだよね」


「本当の遊び方?」

「何それ!」

「おしえて~」

「ばっぶ~」


 指を左右に動かすクーガーの挑発に、家族は当然大騒ぎ。

 期待が、どんどん膨らんで行く。

 クーガーは俺の並べた自分の『顔』をリセットすると息子のレオに顔をしゃくった。


「これはね、福笑いという遊びなんだ。レオ、やってみな」


「うん」


「まずママの顔を置く」


「置いた」


「次に目や鼻全部並べるんだ」


 レオは言われた通りにやると、先程俺が並べたクーガーの顔が出来上がる。

 場は当然、盛り上がらない。


「え~? これで面白いの?」

「旦那様、いまいちじゃない?」

「つまんな~い」

「ばっぶ~」


 やはり、家族からは不満の声が湧き上がる。


「まあまあ、お楽しみはこれからさ」


 クーガーはにやりと笑い、レオにタオルを巻いて目隠しをした。

 レオの視界は、遮られた。


「うわ! ママ! みえない!」


「見えなくて良いんだ、今度はこれでママの顔を並べてみな」


「う、うん!」


 戸惑うレオは、クーガーから渡された顔のパーツを勘だけで並べて行く。

 出来上がりは、果たして!?


 クーガーの顔のパーツは、てんでばらばらに並べられていたのだ。

 何と子供達より、嫁ズが先に大爆笑。


「あはははは!」

「何、これぇ!」

「おでこに口があって火を吹いてる! 変よ、絶対変!」

「まるでクーガーが怪物ですよぉ、まあ元からですけどぉ」


「あはは~、クッカ! よ~く言った!」


「ぎゃあああっ」


 どさくさに紛れて、クーガーをからかったクッカ。

 怒ったクーガーにお仕置きされて、頭をげんこでぐりぐりされている。


 子供達も、お腹を抱えて笑っていた。

 

 自分のママであるクーガーの『変顔』を作った、当のレオはというと……

 普段のキャラに似合わず、珍しくも爆笑していた。


「あ~ははははははははっ」


 おお、初めて見る。

 こんなに大笑いするレオを。

 クーガー似の、寡黙でクール男子の筈なのに。

 原因が原因だけに、クーガーも複雑な表情をしていた。


 よっし、そろそろ雰囲気を変えよう。


「おいおい、じゃあ次はこれだ」


 子供達がすかさず反応する。


「あ、クラリスママだ」

「やさしそ~」

「うん、さっきとちがう」


「おらぁ! さっきと何だってぇ? レオ!」


「…………」


 クーガーの怒声を聞いて、すかさず黙り込むレオ。

 嵐が通り過ぎるのを、じっと待つってやつか?

 こいつ、一人前に処世術を身につけやがって。

 俺は、思わず苦笑した。


 クラリスの顔の福笑いで盛り上がった直後、俺は自分の顔を出し、更に次々と家族の顔を出して行く。

 頑張り屋のクラリスは、何と家族全員の似顔絵を描いてくれたのである。


 こうなると、自分の顔が茶化されても誰も文句は言えない。

 それどころか、全員が大変な盛り上がりだ。


 順番に、家族誰もが『変顔』になり笑われる。

 しかし、自分もつい笑ってしまう。


 腹の底から笑う。

 涙が出るくらい、大笑いする。

 笑顔が満ちたユウキ家には、『福』すなわち幸せは次々とやって来る!


 俺を含めた家族全員は、そう確信していたのであった。

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