帰る故郷はスローライフな異世界！レベル99のふるさと勇者

第１０５話 「小遣い稼ぎも大変だ④」

　ここは北方の地、ドワーフの村テイワズ。

　クッカが調べて来てくれた、俺の『小遣い稼ぎ』が出来そうな村だ。

　俺が正門脇の小さな取り引き用の入り口から、倒したオーガの皮を渡し、15分が経った。

　この後はどうなるのか、クッカに聞けば……

　皮の価値を鑑定し、それなりの値段で買い取ってくれるらしい。

　それも商品と引き換えに現金払いだから、明朗会計だ。

　でも現金払い以外に何があるの？　

　と聞いたら物々交換もあるという。

　例えば食料とか日用品とか、または素材同士の場合も。

　金属のインゴッドとか、果ては武器防具の現物交換とか……

　それは嫌。

　面倒臭い。

　手間がかかる。

　交換された商品をまた、どこかで現金に変えなくてはならない。

　俺が欲しいのは『現金』だけなのだ。

　ここに来てから、トータル30分ほど時間が経った。

　皮を買い取るだけで、結構な時間がかかっている。

　少し焦れて来た。

　早くボヌール村へ帰りたい、さっさと寝たいのに。

　だが、明朗会計でオーガの皮を買ってくれるならひたすら待つしかない。

　俺は、身元を隠して商売しなくちゃいけないから。

　なので、クッカが探してくれたこの村だけが唯一の選択肢である。

　直接は関係ないのだが。

　これ、ある状況に似ている。

　実は俺、大のラーメン好き。

　前世では行列の出来る店にも、良く行った。

　そんな店は、食べるまでに相当待つ。

　でも、美味しいラーメンを食べる為には我慢しかない。

　但し、一応限界はある。

　同じ趣味の野郎と頑張って並んだが、せいぜい30分が限度。

　それ以上は、待てなかった。

　1時間以上とか、並ぶ店は一切パスした。

　でも、今の俺にはクッカが居る。

　愛する嫁と、イチャして話していれば30分なんてあっという間。

　だが……

　1時間経ってもドワーフは俺を放置。

　仕方ない、ここまで来たからと更に待つ。

　だけど更に1時間経っても

　奴らは俺を……放置……なのだ。

　結局、都合2時間待ち……

　もう午後10時を過ぎた、そろそろ限界だ。

「困るなぁ……」

　俺は思わず声に出し、呟いてしまう。

　いくらこの後に予定がなく、寝るだけだと言っても、無為な時間は過ごしたくない。

『旦那様、ご、御免なさい』

　俺の呟いた愚痴を聞いて、クッカが謝った。

　このドワーフ村を紹介した手前、責任を感じているらしい。

　俺はすかさず念話でフォロー。

『いや、クッカのせいじゃない。2時間も放置なんて、ドワーフの奴等が礼儀知らずなんだよ』

『でも、変です』

『変？』

『私の㊙情報ですと、最長でも30分待ちの筈なんですが……』

『ふうん30分待ちね……じゃあ確かに2時間以上待つのは変だ。でもこれ以上待てない、もう行こうよ』

　こんな最果てな北の地、それも夜中に意味もなく待つなんて冗談じゃない。

　下手をすれば夜が明ける。

　オーガの皮5枚は持っていかれたままだが、そう惜しくもない。

　待ちくたびれた俺の提案を聞き、クッカもうんざりした顔で同意する。

『確かに……これでは仕方がないです。旦那様、帰りましょう』

『そうだね、でもさ、奴らにひと言、言わないと気が済まない』

『ひと言ですか？　旦那様、ほどほどに……』

『了解！』

　テイワズ村の重厚造りの木製正門は相変わらず固く閉ざされていた。

　俺はしかめっ面で物見やぐらに居る門番へ言い放つ。

「お～い、おっさん。俺、帰るからさ」

「何！　帰るだと？」

「もう2時間も待っているんだぞ、さすがに限界だ」

「はぁ？　モノを売りに押しかけて来てたった2時間も待てないのか？　この下等生物の屑が！」

　はぁ？　

　って何？

　下等生物の屑ってどういう言い方だ？

　馬鹿野郎！

　確かにてめえらの村へ勝手に押しかけては来た……

　だが、2時間も待たせた挙句、　屑だと！

　俺はだんだん腹が立って来た。

　ドワーフが何様だか知らないが、ふざけるな。

　俺は物見やぐらに陣取っている、でっぷり太った門番へ、言い放つ。

　小柄で超ずんぐり、もしゃもしゃな髭面……

　見た目からして典型的なドワーフだ。

「おらぁ！　お前、そこの門番。腹が突き出たくそデブ、今何て言った？」

　ドワーフは、エルフ同様プライドが高いらしい。

　俺の罵倒を聞いて、顔色を変えた。

「何！　くそデブだと！？　貴様、ふざけるな！　ゴミ人間！」

　ゴミ？

　こいつは……更に酷い。

　でも何か、口げんかの様相を呈して来た。

　俺は腕だけじゃなくて、悪口でもけして負けないぞ！

「また言ったな……くそデブ」

「黙れ！　てめぇ、殺すぞ、ゴミ人間！」

「うるせぇ、てめぇこそ黙れ。いいか、ひとつだけ聞くぞ。腹だしの役立たず、くそデブドワーフ。門と壁はどちらが修理し易いんだ？」

　俺は悪態をつきながら、一応質問をした。

　だが、門番の耳には全く入っていないようだ。

「くあああ！　腹だしの役立たずぅ？　くそデブドワーフぅ！？　ゴミ屑にんげ～ん！　貴様ぁ、もう許さんぞぉ！」

「ふん！　許さないって、それはこっちの台詞だ」

「貴様、ぶっ殺す！　そこへ行くから待っていろ」

　見えない火花が俺と門番の間にバチバチと散っている。

　さすがにヤバイ雰囲気かも。

　青くなったクッカが止めに入る。

『だ、旦那様！』

『クッカ、大丈夫！　ちゃんと冷静のスキルが働いているから』

『そ、そ、そうなんですか？　全然そう思えないけど』

　まあ、怒ってもドワーフへ直接暴力は振るわない。

　直接は、ね。

　だから、代わりにモノへ当たる。

「おい、門番。ここまで来なくて良いぞ。汚いお前のツラなんか見たくねぇ……ふん！」

　俺は軽く力を込めて拳を突き出す。

　すると、

　どっがああああああああん！

　凄まじい轟音を立て、テイワズの防護壁は呆気なく崩壊してしまった。

　今更ながら、レベル99＆天界拳……恐るべし。

　驚愕した門番の大きな叫び声が響き渡り……

　静かだった夜のテイワズは、一転、大騒ぎとなってしまったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

　15分後……

　俺は今……

　テイワズ村のドワーフ戦士達数十人に囲まれていた。

　クッカは覚悟を決めたらしく、すぐ対応出来るように魔力を高めている。

　囲まれた原因は、はっきりしていた。

　俺が村の防護壁を派手に壊したから。

　だが相手は俺を囲んだが、中々襲っては来ない。

　あの門番が、報告したのだ。

　俺が拳一発で、頑丈な岩壁を破壊したのを。

　こうなってしまったら、俺はもはや完全にドワーフの敵。

　商売など無理だろう。

　殺気！　殺気！　殺気！

　憎しみの波動が、容赦なく襲って来る。

　しかし、俺は臆さない。

　スキルが働いているのは勿論だが、不当な扱いをされたと感じているからだ。

　まあ、これ以上暴れるのは本意じゃないから、転移魔法で引き揚げるだけ……

　但し言いたい事だけは、はっきりと言ってやろう。

「おい、お前ら。俺はモノを売ろうと押しかけて来た身だ。だから我儘（わがまま）は言わないが……」

「…………」

「…………」

「…………」

「俺の渡したオーガの皮を受け取り、音沙汰無しで、2時間放置。それで帰ると申し入れをしたら、そこの門番からゴミ屑と呼ばれた。これがお前らドワーフのやり方か？」

　俺がそう言ったら、反応があった。

　ひと際逞しいドワーフが、囲みから一歩前に出て来たのである。

　丁寧な造りの凝った細工の入った、ひと目で分かる上質な金属鎧を纏っていた。

「おい、人間。それは本当か？」

　本当？

　そんなの、さっきから言っている。

「本当だ。俺は午後8時に来たんだもの。そこの門番が証人だ」

　俺の来訪時間を聞いたドワーフは、門番ではなく、傍（かたわ）らに居る別のドワーフ戦士を振り返った。

　凄い目付きで、睨みつけている。

「おい！　ヤルマル！　貴様、俺が命じた事をちゃんとしていなかったのか？」

　リーダーに問い質された、ヤルマルと呼ばれたドワーフ戦士は相当慌てていた。

「す、す、す、すみません、部族長！　うっかり、わ、わ、忘れていました」

「この馬鹿野郎ぉ！！！」

　部族長と呼ばれた逞しいドワーフは、一喝すると、傍らのドワーフを思い切り殴り倒してしまったのだった。