第72話 「純情美少女の願い①」

 リゼットが提案した、ハーブ栽培と販売の話がまとまった。

 

 次に『提案』をしたのは、意外にもクラリスである。

 リゼット以上にいつもは大人しく引っ込み思案なクラリスであったが……

 親友のリゼットに励まされて声を張り上げる。


「み、み、皆さん。大空屋で、私の作った服を売っているのはご存知ですよね」


「うん、知ってるよ」


 レベッカが当然の如く頷くと、実際に服を販売しているミシェルは絶賛に近い評価をしてくれる。


「クラリスの作る服は可愛いよね! 着やすくて実用的だし、ウチの店に仕入れたらすぐ売れるんだ。ちなみにこの村ではなく、商隊の人が仕入れで買って行く事が多いかな。彼等に聞いたら、エモシオンの町やジェトレ村で人気があって、結構高く売れるんだって」


 おお! 

 商隊が仕入れで買う?

 そりゃ凄いや!

 クラリスが作る服って、ボヌール村だけではなく、他の町でも人気なんだ。

 うん!

 売れっ子ファッションデザイナーって、感じだな。


 そのクラリスは、何故かミシェルへ両手を合わせる。

 どうやら、お願い事のようだ。


「ミシェル姉、私……もっと服を作ります。そして……お願いです。私が作った服の全てを、商隊に売らないで貰えますか」


「うふふ、全部売らないようにってのは……村の人へ売れって事? 何か理由わけがありそうね」


 ミシェルは、優しく微笑む。

 どうやら可愛い『妹』の話を聞き入れる雰囲気だ。


「はい! 村のみんなに、私の服を着て欲しいんです。お金にもこだわりません。どんなに安くても! いいえ! 無料でも良いんです!」


「え? 無料ただ? クラリス、お金要らないの?」


 とミシェルが聞けば、クラリスは大きく頷く。


「はい! もしお金が無かったら、頂きません!」


「へぇ! これは驚いた」


「だって! 明るかったり、可愛い服を着ると見た目は勿論、村の人の顔も活き活きして来ますよね? 私、もっともっと村全体が明るくなって欲しいから」


 自分が一体何をすれば、ボヌール村へ貢献出来るのか?

 この子は、しっかり考えてる。


 俺と同じように、ミシェルも感じたらしい。

 あっさり、クラリスの提案を受け入れたのだ。


「分かった! もう商隊へは全部売らない」


「ほ、本当ですか?」


「当たり前! クラリスの素敵な考えに私も大賛成! 頑張って大空屋でバンバン、村民へクラリスの服を売ろう」


「あ、ありがとうございます! ミシェル姉」


 優しい姉に同意&励まされて、涙脆いクラリスは目がウルウル。

 俺も「偉いなぁ」と思ったから、素直にクラリスに対する賛辞の言葉が出た。


「素晴らしいな、クラリス」


「そ、そんな!」


 俺の言葉に感激したらしく、頬を真っ赤にして恥らうクラリスは可愛い。

 可愛くて、つい抱き締めたくなってしまう。

 親友であるリゼットが、「つんつん」クラリスの脇腹を突く。


「うふふ、旦那様に褒められたら、そんな!より、ありがとうだね。その方が喜ぶよ、旦那様が」


「う、うん……分かったわ」


 リゼットにアドバイスされたクラリスは真っ赤になったまま小さく頷いた。

 そして、何度か可愛く深呼吸して……


「だだだ、旦那様、褒めてくれて……あ、あ、ありがとう」


 ぺこりとお辞儀してから、顔を上げて可愛く微笑んだ。


「お、おう!」


 俺はドキドキして、短く返事をするのがやっと。


 うわぁ!

 線になってしまうくらいの、クラリスの優しそうな細い垂れ目!

 癒し系の象徴シンボルだろ!

 絶対に反則ダァ!!!


 カンカンカンカン!


 くらくらっときた俺の耳には、幻のテンカウントゴングが高らかに鳴り響いていた。

 ふらふらしている俺を見て、嫁ズは面白そうに笑う。


「あらぁ、ダーリンったら、目を白黒してるよ」とレベッカ。


「前から思っていたけど、旦那様って可愛い清純派に弱そうだよね」とミシェル。


「うふふ、クッカ様を含めて私達、もしかして可愛い清純派かな?」


 最後にそう言って笑ったリゼットが、全員へ意味ありげに目配せをした。

 全員が、謎の意思疎通をしたようだ。

 何と、クッカまでが面白そうに頷いている。


 果たして、嫁ズのその後の行動とは?

 頃合を見たリゼットが、音頭を取って……


「旦那様! ……せ~の」


「「「「『ありがとう!』」」」」


 何と!

 今、俺が大ダメージを喰らったばかりのクラリスの真似であった。


 クッカ、リゼット、レベッカ、ミシェル、クラリス。


 美少女嫁5人の、素敵な超癒し笑顔。

 フィフスクロスカウンター!?

 こりゃ、一気にノックダウンされた。


 俺は、とてつもない幸福に、たっぷり満たされていたのである。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 リゼットとクラリスの提案だけではなかった。

 他にもいくつか有効なアイディアが出されて採用され、大空屋対策の話は終わった。

 だが、まだ『会議』は続いている。


 嫁ズによれば、俺はボヌール村に来て以来、ずっと働き詰めだと指摘された。

 その為、激務を癒して欲しいという趣旨により、今日の午後は完全な休みとなったのだ。

 何故か、リゼットが俺には内緒っぽく他の嫁達と何やら相談している。


 何を話しているのだろう?


 放出される魂の波動を見れば、ほぼ話している内容や思惑は分かる。

 でも『覗き見』みたいで嫌だし、俺に何でも知られてしまうと分かったら、嫁ズは気持ちの良いものではないだろう。

 

 下手をすれば、夫婦の不和にもなりかねない。

 やはり、夫婦の間でも秘めておくべき物はある。

 だから俺は、敢えて波動を見ないようにした。


 やがて、嫁ズの『相談』は終わった。

 リゼット達がひそひそ話していた事……それは……


 ひとりの少女がおずおずと俺の前に立つと、4人からポンと背中を押されたのである。

 2,3歩、蹈鞴たたらを踏んだ少女が俯いて言う。


「え、えっと……私……いいんですか?」


 遠慮がちに話す少女は……クラリスであった。

 リゼットが、クラリスの背後から微笑みかける。


「旦那様、お疲れのところ申し訳ないのですが……今夜までクラリスと一緒に居て頂けませんか?」


 嫁ズの相談の内容とは、クラリスのケアだったらしい。

 5人の嫁の中では、俺と過ごした時間が極端に短いクラリスと一緒に時間を共有して欲しい。

 話の内容は、そんなところだろう。


 しかし、クラリスはぎこちない表情で首を横に振った。


「えっと……私なんかの相手より……旦那様にはゆっくり休んで頂いた方が……」


 俺は、クラリスの言葉を聞いただけで胸が一杯になった。

 本当に、優しい子なんだもの。

 だから、ゆっくりと、しかし真っすぐに、クラリスへ右手を差し伸べたのである。


「え!?」


「おいで、クラリス」


「「「『ほら~っ』」」」


 俺の呼ぶ声と同時に、リゼット達がクラリスの背中をまた押した。

 今度は、先程よりも更に強くだ。


「あうっ!」


 クラリスは、小さな悲鳴と共に俺の胸の中へ倒れ込んで来る。

 しっかり、抱きとめて分かった。

 やはり、クラリスはすっごく華奢きゃしゃである。

 レベッカやリゼットよりも、更に細身であろう。


 俺に抱かれたクラリスは、羞恥のせいか全身を真っ赤に染めていた。


「ううう、は、は、恥ずかしいです……」


「さあ、旦那様。クラリスと行ってらっしゃい。あまり遠くは駄目ですから、村内をデートって事で!」


 親友クラリスが受身過ぎるので、リゼットが一生懸命フォローする。

 ああ、嫁同士仲が良いって嬉しい。


「了解!」


「「「『行ってらっしゃ~い!』」」」


 こうして俺とクラリスは、村内散歩デートへ出掛けたのであった。

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