第39話 「らっしぇ!」
昨夜、東の森でオーガ相手に無双して『夜更かし』した俺。
自宅で「ぐうぐう」眠っていた所を、いきなり朝早くミシェルに起こされた。
有無を言わさず連れて来られ、ミシェルの家であり、ボヌール村唯一の店でもある大空屋へ来ている。
ミシェルは村一番とも言えるボン・キュッ・ボン、即ちダイナマイトバディの金髪美少女だ。
幾ら眠くても、爆乳うりうり攻撃に、男は絶対に敵わない。
敵う奴など、居るものか!
……多分。
行った先で待っていたミシェルのお母さんのイザベルさんも、大人の金髪美女!って感じのすっごい美人。
イザベルさんを俺の前世で例えれば、『アメリカンビューティ』という感じのナイスバディの美女。
大空屋隣接の宿屋の食堂で、俺の前に座っているグラマラス美女ふたりは一体何をさせようというのか?
ミシェルからは農作業、狩りに続いての『研修』だと囁かれているが……
のっけから母娘で嫁になるとか、過激な発言も飛び出すなど、めちゃオープンな人達である。
「まあ、朝御飯を食べながら話そうか」
イザベルさんがそう言って、テーブルに並べたのは、どこの家でも変わらない焼き立てライ麦パン、小さな肉片とたくさんの野菜をどろどろ煮込んだスープのセット。
変わらないと言っても、その家によって素材や味付けは変わるが、ね。
この家は蜂蜜が好物らしく、大きな瓶がどんと置いてあって、ふたりともパンにたっぷりと塗っている。
確か、蜂蜜って美容と健康に良いんだよな……
だから母娘とも、こんなすっごい身体になっちゃった?
俺はそんなくだらない事を考えながら、「頂きます」と言って食べ始める。
こっちの人は「頂きます」とか、そんな挨拶の習慣はないのでいきなり食べ始める。
おお、美味い!
食べ物は質素ながら、素材の良さで、パンもスプも結構美味しいんだ。
食べ初めてから、イザベルさんが愛娘に合図をすると、ミシェルが笑顔で話を切り出した。
「ケンには今日、お店の手伝いをして欲しいんだ」
「店の手伝い?」
一体何だ?
具体的に何をやるのか教えて下さいませ。
ちなみに
にこにこしながら、話を聞いている。
無論、空中へ浮かんでだ。
もしもクッカが見えたら偉い騒ぎになるだろうが、幸い俺にしか見えない。
だから、イザベルさんとミシェルの母娘も、普通に話を続けてくれている。
美味そうにパンを
「店は、さっきも言ったように、販売と買い取りが基本なの。物の相場や買取金額の変動見込みもあるから、いきなりケンに買い取りは無理だと思う。だからまず、販売と接客をやってくれるかな?」
「販売と接客か、OK!」
「お! 偉く張り切っているね、経験あるの?」
言ってなかったけど……
実は俺、コンビニでバイトしていたんだよね。
だから、最初は似たようなものだろうと思って気軽に考えた。
だが張り切る根拠を、具体的に聞かれると、はっきりとは言えなくなって来る。
あまり喋りすぎると、俺が異世界転生人という事がばれてしまうだろうから。
突っ込まれて、上手く隠しおおせても、「変な人」だというレッテルを、べったり貼られる事は確実だ。
「あ、ああ……ま、まあ何となくかな」
「今度は急にトーンダウンしちゃって、やっぱケンって、母さんの言う通り変な子」
「変な子かぁ、参ったな」
「うふふふふ」
「ははははは」
「おっとぉ! 君たち仲が良いねぇ、良し、良し」
笑い合う俺とミシェルを見て、イザベル母さんも満足げである。
何せ、ミシェルを俺の嫁にする気、満々だからだ。
さあて、そうこうするうちに、朝飯もそろそろ終了。
傍らに置いてあるのは、魔導時計と呼ばれる、魔法仕掛けの時計。
イザベルさんは、「ちらっ」と見て、現在の時間を確かめる。
そして頷くと、仕事開始を促す。
「えっと今は5時30分か。まずはミシェルと一緒に、弁当を売ってくれる?」
「弁当?」
俺が?マークを出すと、ミシェルが教えてくれる。
「うん、お弁当よ。基本は、農作業に行く人のお昼ご飯用なんだけど、朝食を自分で作らない人達へも売るの。結構、売れるんだよ」
そして、イザベルさんが、すかさず指示。
「さあ、ケン。まずはこのテーブルを、お店の前に出すわよ、お願いね」
「了解!」
俺は早速、テーブルを抱えると外へ持って行く。
ちなみにこのテーブル、頑丈な木製で結構重い。
でも今の俺はチート魔人で楽勝。
楽々と、テーブルを持って行く俺を、母娘は嬉しそうに眺めていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺の目の前のテーブルには、大量のパンと蜂蜜の大瓶がひとつ並べられている。
そして、紅茶の入った革製のミニ水筒も、たくさん並んでいる。
ミニ水筒は、使用後、洗ってから要返却らしい。
そして今日の俺は、まず弁当売りの少年?を仰せつかった。
「らっしぇ! らっしぇ!」
俺は、大空屋の店先で元気良く声を張り上げる。
以前の職歴を活かして、慣れたものだ。
まあ普通、コンビニの店員が、こんなに声を張り上げて売る事などそうそうない。
マニュアルで接客方法が、がっつり決まっているからだ。
だが俺の働いていた某コンビニは、何とオーナーが元八百屋さん。
明るく元気に! が店のモットーで、逆に元気のない暗い接客はNGであった。
俺は普段大人しいが、働くときは明るくなれる性格なので、そんな接客が性に合っていたのである。
「美味い弁当買っておくれ! 焼きたてのパンと塗り放題の蜂蜜、そして美味いお茶の最強セットだ。美人母娘の愛情がたっぷり入った特製弁当! 気持ちの良い労働には美味い飯が不可欠ってか! さあ、買った、買ったぁ!」
この異世界の通貨単位は、アウルムという。
色々聞くと、1アウルムが1円くらいにあたる。
そして貨幣は小銅貨1枚が1アウルム、そこから10進法で銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、白金貨、王金貨、竜金貨と続いて行き、最後は神金貨の10億アウルム=10億円だそうだ。
10億円金貨って、一体どんなだろ?
この異世界で生きている内に、1回くらいは見てみたいものだ。
まあ村に流通しているのはせいぜい金貨までで10万アウルム……10万円。
白金貨=100万円以上は村民は皆、見た事もないらしい。
で、この弁当セットはというと、大銅貨1枚=100アウルム、すなわち100円也で超安い。
村では、珍しい口上をする俺の声を聞きつけて、村民が続々と集まって来る。
その中には……
「お! 美味そうだねぇ、ケン様。ひとつ貰うよぉ」
元気な声で一番に弁当を買ってくれたのは、愛犬ヴェガを連れたレベッカだ。
「どこへ?」と、聞くと、これから東の森前の草原へ、兎を狩りに行くらしい。
昨日の、リベンジって所だろう。
俺は、にっこり笑って注意する。
「レベッカ、危ないから森の中には絶対に入るなよぉ」
「りょうか~い、ダーリン! むちゅ!」
ダーリン!?
俺が?
ダーリン!
レベッカの奴、嬉しそうに投げキッスしやがった。
お陰で、周囲に居た村民全員の、大注目を浴びてしまう。
あのツンツンレベッカが!?
いったい、どうして?
不思議そうな村の人の視線が、そう言っている。
だからぁ、俺にだけはぁ、超が付くデレなんだってば!
「うふふ、負けないぞぉ」
ミシェルがいきなりそう言うと、俺の背中からくいくい胸を押し付ける。
こ、これは!?
「そ~れ、ぱふぱふぱふぅ」
「あ、あううう……」
ああ、これはあの、某ゲームの必殺攻撃だ!
そんな悶える俺の前に、またまた美少女がふたり……
「ケ、ケン様、ひとつ下さい」
「…………買います」
噛みながらも、小さな手をしっかり差し出したリゼット、そしてぽつりとした物言いながら、はっきりと意思表示するクラリスが立っていた。
「ままま、毎度ありぃ!」
俺はミシェルがぱふぱふする、背後からの心地良い攻撃に耐えながら、大きく声を張り上げていたのであった。
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