第34話 「従士揃い踏み」

 俺は、妖精猫ケット・シーのジャンを、まず最初の従士として呼び出した。

 続いてクッカの厳しい『監修』のもと、戦闘向きの魔物を呼び出す。


召喚サモン!』


 戦闘向きなら、実は俺好みの魔物が居る。

 そいつを、俺は召喚しようと思う。

 実はどんなGAMEでもそいつが居れば、絶対に呼び出して仲間にしているのですよ。


 二度目の召喚前に、クッカからは下記の厳しい召喚規定が設けられた。


 人間型ヒューマノイドの女性魔物は勿論、全てのメスはクッカとキャラが被るから一切禁止!

 悪魔、吸血鬼、夢魔、不死者アンデッド、幽霊などの召喚は不気味だし、俺のキャラに合わないから一切禁止。

 蛇、ミミズ等、クッカにとって生理的に嫌いなものは一切禁止。


 幸い、俺が好きな魔物はこれらの規定に引っかからない。

 ……筈、だったけど。


 ごおはあああああああっ!!!


 召喚された魔物は実体化すると、びりびりと空気が振動するほど凄い咆哮をした。

 

 あちゃぁ……

 もしかして、ボヌール村へ聞こえたかな?


 心配した俺が、しかめっ面をしていると……

 

『きゃ~っ』

『ひいいっ』


 召喚した魔物を見て、悲鳴がふたつ!

 クッカとジャンであった。

 見れば、クッカは腰を抜かして、ジャンは「にゃごにゃご」言って混乱している。


『ど~したの?』


『ケン様! だだだ、駄目です! この魔物は絶対にいけませんっ!』


『そそそ、そうだよっ!』


 クッカとジャンが「駄目」と言っているにはそれぞれ理由が異なる。

 ちなみに俺が召喚したのは……

 巨大な犬の魔物、冥界の魔獣と呼ばれるケルベロスである。


 昔から俺の憧れだった、魔獣ケルベロス。

 伝承によれば彼は父テュポン、母エキドナという怪物の間に生まれた……

 申し訳ないが、両親がどんな怪物かは割愛。

 

 容姿はといえば、3つの怖ろしい頭を持ち、逞しい胴体は剛毛に覆われている。

 そして尾は巨大な蛇……

 一説には尾が竜という話もあるが、俺がこの異世界で召喚したケルベロスは弟のオルトロス同様、尾が蛇であった。


『いやぁ! きら~い! 無理無理無理無理~~!』


 クッカは機関銃のように拒絶の言葉を吐き散らし、ひと息ついて……


『蛇の尾なんて絶対に無理~っ!!! ケン様っ、早く異界へ帰還させて下さいっ』


 しかしなぁ……

 俺が戦闘用に従えたいって思うのは、こいつしか居ないし。

 そう思っていたら……


『ワガアルジヨ。シンパイハ、ムヨウダ』


 お、ケルベロス。

 お前って、喋れるのね。


『ワガオヲ、キラウナラ、ケイジョウヲ、カエレバヨイ。シゴク、カンタンナコトダ』


 うぉん!


 ケルベロスが軽く吠えると、何と彼の尻尾は怖ろしい蛇から、ふさふさのラブリーテイルになった。

 俺がついモフモフしたくなるような可愛い真っ白な尾っぽに一変したのだ。


『え?』


 べそをかいていたクッカが驚いて目を丸くしている。

 俺は「してやったり」と笑う。


『クッカ、これでOKだろう? なあケルベロス……それ、いつでもモフモフして良いよな?』


『…………』


 一瞬の沈黙……

 そして、激しくさげすむような視線が、この俺へ。

 ああ、高尚な趣味を理解して貰うって大変だ。

 でも、ここで諦めてはいかん。


『駄目?』


『シカタナイ、ワガアルジガ、ノゾムナラ……』


 ああ、よかった!

 もふもふしちゃおう、そうしよう。


 クッカはちょっと不満そうだが、黙っている。

 尾の、本当の形状を知っているからだろう。

 だがケルベロスなら、戦う従士として何の問題もないから、渋々認めてくれたようだ。


『よ、良くねぇ! 女神さまは良くても、俺は良くねぇんだよぉ!』


 一方、まだ首をぶんぶん横に振っているのはジャンである。

 

 こいつが拒否する理由はクッカ同様単純。

 妖精猫ケット・シーは犬が苦手。

 

 それに、妖精犬クー・シーという宿命のライバルも居る。

 まあ現実でも、犬が好きな猫の方が稀少だ。


 だが、あまりにもジャンが騒ぐので、ケルベロスも頭に来たらしい。


『サワグナ、ダネコ』


『だだだ、駄猫だとぉ!? て、てめぇ!』


『ショセン、ジョウゼツト、ヘンシンノウリョクデシカ、シュジンニ、コウケンデキナイダネコハ、ダマレ! オトナシク、シズカニシテイロ!』


『くう! 俺がケンにとって、全く役に立たないと言うのか!』


『ソウダ! オマエハモジドオリ、ドロボウノヨウニ、シノビコムダケダロウ? ドロボウネコヨ』


『おおお、俺がぁ! どどど、泥棒猫だとぉ! もう許さん!』


 ジャンはいきなり二本足で立ち上がると、手の先から鋭い爪をぴゅっと伸ばす。

 ああ、妖精猫ケット・シーの武器のひとつはこの何をも切り裂く爪なんだ。


『いい加減にしなさい! ふたりともっ』


 クッカが鋭い声で叱る。

 

 おお、そうだ。

 俺も、黙って見ている場合ではなかった。

 妖精猫ケット・シーとケルベロスの喧嘩なんて滅多に見れないから、つい見とれてしまったのだ。


『おい、ふたりともやめろ! これから俺の従士として適材適所で働いて貰うんだ、お互いを尊重しろ』


 適材適所……俺が好きな言葉である。

 

 決め付けは良くないが、仕事には向き不向きというものがある。

 あくまで理想だろうが、俺にとって仕事は適性重視!

 出来るだけ、楽しんでやって欲しいもの。


 ケルベロスは、俺に対してとても忠実のようだ。

 すっぱり、矛を収めてくれる。


『ワガアルジガ、ソウイウノデアレバ、ワレハシタガオウ』


『ぐうう、分かりましたよ! 見てろよ、糞犬っころめ! 俺は駄猫じゃねぇ、必ず役に立ってみせるぜ」


 俺の執り成しで、ジャンも渋々引き下がってくれた。

 喧嘩が収まると、俺は最後の召喚魔法を発動する。


召喚サモン!』


 最後に俺が召喚したのは、移動用の魔物である。

 俺には飛翔と転移の魔法があるが、やっぱり移動用の従士が必要だ。


 俺の召喚魔法により、生み出された白光の輝き。

 その中からいななき、現れたのは一頭の巨大な鹿毛馬。

 

 巨馬の馬体は、全身がバネのようであり、特に後肢は異常な程発達しており他の馬とは全く違っていた。

 かといって禍々しいという雰囲気は全く無く、額に白星を持ち後足は白が入った神々しく美しい馬なのだ。


 確かに、天翔けるペガサスや八本脚の某馬よりも名前は知られていない。

 しかし、この馬の能力は決して彼等に劣ってはいないのだ。

 

 古文書によれば、遙かなる天空を一気に駆け抜け、地においては岩をも粉砕して走りながらも傷ひとつ負わない頑健さを誇るのだという。

 そう中二病の人なら、知っている人、居るよね?


 ほら、クッカは、さすがに吃驚しているもの。


『ケン様! こ、この馬は!?』


『ああ、かつてある大悪魔が騎乗していた妖馬だな』


『そうです! 彼はベイヤール! ケン様がこの妖馬を召喚されるとは!』


『かつての悪魔の騎乗馬だが……問題無いよな』


『管理神様からは今の所おとがめのメッセージは届いていません。……たぶん問題ありませんね』


『と、いうわけでベイヤール、今後とも宜しくな』


 ぶひひひ~ん!


 ベイヤールは、元気良くいなないた。

 ジャンはベイヤールの迫力に気圧されたように黙っており、ケルベロスも僚友を頼もしそうに見詰めている。


 これで俺、クッカのコンビに、頼もしい3人の従士が加わった。

 態勢は万全だ。


 目の前に、東の森が広がっている。

 魔物が跋扈する危険な森。

 

 またゴブリンやオーガみたいな人喰いの魔物が出たら、誰かがリゼットやレベッカみたいに襲われてしまう……

 それを防ぐのが、ボヌール村の『ふるさと勇者』、俺の役目だ。


 強い使命感に満ちた俺は、ゆっくりと歩き出したのであった。

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