第29話 「サヨナラは嫌! パート2」

 俺を洗ってくれた後、当然俺も、レベッカを丁寧に洗ってやった。

 愛を込めて……

 

 レベッカは、とっても恥ずかしがったが……最後は任せてくれた。

 覚悟を決めた俺達は『前』も洗いっこする。

 こうなるとお互いに、自分を全部さらけ出した気がして、距離がぐっと近くなった。

 さすがに、エッチこそしていないが、夫婦同然だ。


 『洗いっこ』終了後……

 俺とレベッカは、着ていた革鎧と肌着も丹念に洗うと、すぐ乾かす事にした。

 時間も無いので、当然俺の風の魔法でね。

 本当は、ゆっくりお日様に乾かしておきたかったけど。


 そこで、ひとつサプライズが!

 何とレベッカのはいていたパンツが、小さな黒のスケスケパンツで、すっごく「えっちい」ものだったのだ。

 俺はとっても興奮して、鼻息が荒くなる。


「おおお、そ、それって!」


「今日はさ……気合が入っていたから……勝負下着なんだ、これ……万が一、な、何か、あった時のね」


「勝負……下着!? ま、万が一、な、何か、あった時のぉ!?」


「う、うん、ええっと、あった時のよ……あ、ああ……は、恥ずかしい!」


「えへへ、じゃあいずれさ……俺と一緒に寝る時、はいてくれる?」


「……うん」


 スケベ心全開な俺に対して、恥らうレベッカはやはり乙女チックで可愛い。

 こうなったら、バッチリだ。

 俺に対しては、もはや完全に『デレ』なのだから。


 鎧と服も魔法のお陰で即座に乾いたので、俺達はさっさと身支度をした。

 もう太陽が西に向かい、早く帰らないと日が暮れてしまう。

 犬のヴェガ達も良く洗っておいたから、綺麗な毛並み復活だ。

 勿論、元気一杯である。


「さあ帰ろう」


「うん!」


 俺が手を差し出すと、レベッカは素直に繋いでくれた。

 少し歩くと……

 レベッカが、オーガに襲われた場所に着く。

 俺達が、構わずに行こうとすると……


 いきなり幻影のクッカが、俺達の目の前に現れてとおせんぼをする。

 当然の事ながら、クッカの姿は俺だけにしか見えない。


『ケン様……お楽しみの最中・・・・・・・、申し訳ありませんが、こいつらをちゃんと始末した方が良いですよ』


『始末ってもしかして死体? あ、ああ! そうか!』


『はい! リゼットちゃんを助けたゴブの時は、聖なる炎で燃やしたから「あとくされ」はありませんでしたが、今回は素手や剣で殺しています。下手すると不死者アンデッドになりますから、この前の狼男みたいにちゃんと始末しましょう』


 そうだ!

 このままだと、こいつら不死者アンデッドになる。

 狼男ライカンをやっつけた時に、クッカの指示で葬送魔法をかけた。

 この世界では、魔物の死体を放置するとほぼ不死者になる。

 魔物は、「冥界の瘴気を纏いやすい」のだとクッカは言うのだ。

 

『それと……今夜、私も話があります。……大事な話です』

 

 大事な話?

 何だろう?

 いや、愚図愚図していると日が暮れる。

 とりあえずは、葬送魔法発動だ。 


 一方、レベッカは俺が立ち止まったので、不安そうにじっと見つめている。

 無理もない。

 自分が、魔物に襲われて命を落としかけた現場なのだ。

 一刻も早く、この場を立ち去りたいに違いない。

 加えて、俺が瞬殺したオーガの死体が散乱している。

 血と腐臭の、吐きそうな臭いも立ち昇っていた。


 遂には、「ぽつり」と呟いた。


「ねぇ……こんな所、早く行こう。オーガの死体目当てに狼や熊どころか、ゴブまで来るよ」


 レベッカの心配は、尤もだ。

 俺は、ちょっと気になっている事を聞く。

 あのゴブが金になるのなら、オーガはどうなんだろう。


「ひとつ聞いて良いか? オーガの死体って金になるの?」


「うん……結構なお金になるよ。だけど今はそんな気にならない」


 ああ、そうだな。

 当然だろう。

 喰われかけたんだから。


「そうか……いや、こいつらをこのままにしたら、不死者アンデッドになるかもしれないと思ってさ」


 万国共通である、不吉な呼び名を俺が言うと、レベッカは「ぶるり」と身体を震わせる。


「ア、アンデッド!? いい、嫌だ!」


「だろう? だから、こいつらをさっさと塵にしちまおう」


「塵? 塵って?」


「葬送魔法を使う、傍に居ろよ」


「葬送魔法!? ケン、あ、貴方って」


 レベッカは、俺の姿を見て驚く。

 全身が、眩く発光していたからである。

 魔力が高まるにつれて、光はますます強くなった。

 その姿が神々しく見えたに違いない。

 

 レベッカは驚いて、俺から「ぱっ」と離れて、ひざまずく。

 そして何と!

 祈りを捧げ始めたのだ。

 まるで俺は……神様扱いだ。


 傍らに居た、ヴェガ達までもが吠えもせず、怯えたように座り込んでいる。


 まあ良い。

 さっさと、やってしまおう。


鎮魂歌レクイエム!」


 決めの言霊が詠唱されて、俺の手から白光が放たれると、斃れたオーガ達も眩い光に包まれる。


 おおっ! 何度見ても凄いっ!

 俺は、感嘆する。

 奴等、本当に塵になっていきやがるっ!


 数分後……

 俺が斃したオーガ共は、全て塵になっていた。

 葬送魔法の威力は凄まじく、死体どころかそこらに大量に流れていた血まで消し去っていたのである。


 もうこの場に、激闘の痕跡は一切無い。


「こんなもんかな?」


「す、凄いよ! ケンったら悪魔退治の司祭様みたい!」


「司祭ねぇ……まあ良いや。それより、もう行こう」


「う、うん!」


 俺達はしっかり手を繋ぐと、また歩き出したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 歩きに歩いて、東の森を出た俺達はやっと兎狩りをしていた草原に着いた。

 ここから村までは、少し歩けばすぐである。

 油断は禁物だが、いわゆる安全圏内だ。


 ここまで歩きながら、俺達は色々な話をした。

 中でも、レベッカが反応したのは俺の能力だ。


「凄いよね……強いよね、ケンったら。いや! もうケン様って呼ぶよ、まるで貴方は伝説の勇者様みたいだから」


「勇者だって? それはやめてくれ……でも絶対に内緒だぞ。リゼットとも約束したんだから」


「リゼットとも約束? リゼットも知っているの、ケン様の力を?」


「ああ、俺の力が知られてしまえば、いずれ領主様からお使いが来る。そうなれば俺は結局王都へ行くだろう。そうしたらお前達とも永久にお別れとなる」


「ケン様と永久にお、お別れ!? いいい、嫌っ!」


 レベッカは、子供みたいに嫌々をした。

 この反応は、リゼットと全く同じ。

 「お別れが嫌! パート2」ってところだ。

 但しレベッカの場合は、ツンとデレの落差が堪らない。


 ここで俺は、一応念を押す事にする。


「だったら絶対に内緒だぞ。俺の力は、お前達と村を守る為にこっそり使うよ」


「私達と村の為に……」


「ああ、もし俺が勇者なら……」


 そう言って、俺は実感した。

 俺は、この村の為の勇者なのだと。 


「多分この村を……第二の故郷と決めたボヌール村を護る為に遣わされた勇者、いわばふるさと勇者かもな」


 俺の言葉を聞いたレベッカが、灰色の瞳を潤ませる。

 何か穏やかで、「ホッ」としたような表情だ。


「ふるさと勇者……何か、ほのぼのして好き。ケン様だから、なお私は好き」


 沈む夕陽が、俺達を照らしている。

 もう村は、すぐ目の前だ。


 俺達は繋いだ手を「きゅっ」と強く握ると、寄り添うようにひとつの影になって歩いて行ったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る