帰る故郷はスローライフな異世界！レベル99のふるさと勇者

第１８話 「癒し系農ガール」

　俺は、『畝（うね）』をどうやって作るかレクチャーを受ける。

　傍らでは、幻影（ミラージュ）のクッカも興味深そうに聞いている。

　子供の頃に、故郷で畑は散々見ている。

　草むしりレベルだが、知り合いの農家をちょっとだけ手伝った事もある。

　何となく雰囲気は分かっていたが、所詮子供の頃の事、はっきりと覚えちゃいない。

　初期レベル農業従事者を含むオールスキルがあっても、俺はまだまだ素人同然である。

　その上、ここは異世界。

　郷に入っては郷に従え。

　改めて、説明をして貰った方が良い。

　村の人と、コミュニケーションが取れる良い機会にもなる。　

　教えてくれたのは、作業をしていたこれまた70代半ばを楽に超えたお爺ちゃん。

　俺が名乗って挨拶したら、にっこり笑って歓迎してくれた。

　名前は、ニコラさんって言うのだそうだ。

　やっぱりこの村では、男って超が付くベテラン揃いなのだろう。

　好々爺という感じのニコラさんは律儀な性格らしく、ちゃんと最初から教えてくれた。

　そもそも畝とは農地で作物を作るために、一定の間隔を取って土を盛り、周囲よりも高く作った箇所の事である。

　今やっている作業は、畝を作る『畝立て』という作業だそうだ。

　ちなみにある作物を栽培し終わると、新たに畝を作り直すのが通例なのでこれを『畝換え』とも言うらしい。

　畝の高さは、土地の『水はけ』の具合によって決まるらしい。

　だが、ボヌール村の土地はそんなに酷くなくそこそこ。

　なので、俺が見たところ約5cmくらいで、上限プラス数cmの間といったところだ。

　もっと水はけの悪い土地では、畝を10cm以上作るのがザラなようだ。

　しかしあまり高く作ると、崩れ易くなってしまうので微妙だという。

　一方、畝の幅は約１ｍというところだろうか。

　また、方角的には南北方向に伸ばすのが基本だという。

　これは、作物が日光をまんべんなく受けるようにする為なのだ。

　後は、季節によって、東西に伸ばす場合もあるらしい。

　こうして作る畝は、見た目には農地の栽培部分と通路を明確に区分する事にもなる。

　加えて植えられた作物の苗の根を付き易くし、伸びも良くなるそうだ。

　成る程！

　うんうん！

　勉強になった。

　習得している初期レベル農業従事者のスキルのせいか、しっかりした教えを受けると知識が確信に変わって行くのが分かる。

　リゼット父である村長のジョエルさんによれば、いろいろ仕事をやらせた結果、俺の適性を判断するようである。

　『研修』の結果次第では、農作業メインでは働かないかもしれないという。

　但し、誰かが怪我や病気で休んだりすれば交替して働く事になるので、村の仕事はひと通り覚えておいた方が損は無いのだ。

　ひととおり説明が済んで、ニコラさんから指令が下る。

「じゃあ、早速やって貰おうか」

　俺は、密かに身体強化のスキルを発動させた。

　「ざくっ、ざくっ」と土を掘り返してから、畝を丁寧に作って行く。

　土の色は、赤に近い黒と言ったところだ。

　ジャンボサイズのミミズもたくさん出て来るので、結構豊かな土地だと思って良いのだろう。

　しかしミミズの大群を見た瞬間、クッカは息を呑み、顔を真っ青にして姿を消した。

　ミミズが、ゴブ以上に大のつく苦手らしかった。

　仕方がない。

　俺は、苦笑して作業を続けた。

　そして、割り当てられた区画の作業は……あっと言う間に終わった。

　以前の俺ならともかく、転生後のこの身体なら体力も完璧、当然楽勝である。

　ニコラさんに終わったと言うと、もう作業完了でOKだという。

　ちょっと、拍子抜けしてしまう。

　俺はもう少し、働いても良いと思ったから。

　まあ最初の予定通りだと、ラザールさんに報告したら、次は休耕地に放牧した家畜の見張りをする事になる。

　なので、ちょっとひと休み。

　俺は、畑の脇の土の上に座り込んで暫く休憩する事にした。

　周囲を見ると、まだ数人の村民が一生懸命働いている。

　その中に、若い女の子もひとり居た。

　少し離れているので、スキルを使わないと、ここからだとはっきりとは分からない。

　パッと見だが、年齢は俺と同じ15歳くらいだろうか。

　髪は明るい栗毛で、肩の辺りまで伸びている。

　栗毛少女は黙々と鍬を振るい、土を積み上げて行く。

　しかし身体つきは小柄で、全体的に見て華奢な少女に、あまり体力があるようには思えない。

　一応、作業に慣れてはいるが、すぐに肩で息をしているのが見てとれるのだ。

　俺は即座に、手伝う事を決めた！

　背後から栗毛少女に近づくと「ちょっと」と声を掛けた。

　驚かさないよう、や～んわりソフトにである。

　それでも少女は吃驚したようで、身体を「びくっ」と震わせた。

「君、良かったら手伝うよ」

　俺が言うと、少女はこちらを向いて嬉しいような、困ったような顔をする。

　そして、黙ったまま、首を左右に振った。

　もしかして拒否？

　余計なお世話って事？

　とても大人しそうな雰囲気の子だ。

　多分、新参者の俺に遠慮しているのだろう。

　改めて見ると、やはりこの子も整った可愛い顔立ちをしている。

　口数が少なく大人しそうだが、芯は強そうなタイプである。

　俺は、ふと考えた。

　もし仕事の分担がきっちりと決まっていて、余計な事をしたらこの子に迷惑が掛かる。

　だから、一応ニコラさんへ向かって「あの子の手伝いをしたい」とひと言断わる。

　すると意味ありげに、にこっと笑われた。

　手伝いはOK！　という事か。

　何だろう？

　まあ良い。

　「ニコラさんから許可を貰った」と言うと栗毛少女は嬉しそうに頷く。

　やっぱり気を遣っていたんだ。

　俺は早速、彼女が受け持つ担当区画の、『畝つくり』に取り掛かったのである。

　――15分後

　チートな為、力があり余る俺が「ちょこっ」と頑張ったら……

　作業は、「あっ」と言う間に終わった。

「お疲れ様！」

　声を掛けると、栗毛少女は驚いた顔をした後、俺に頭を下げた。

　まだ自分と同じくらいの少年が、大人以上の働きをしたのに吃驚したようだ。

　嬉しそうな栗毛少女は、笑うと目が凄く細くなり、優しい垂れ目になる。

　俺好みの、癒し系という雰囲気。

　しかし、さっきから全く喋らない。

　本当に、無口である。

　だから俺から声を掛ける。

「さっき紹介されたから知っていると思うけど、俺はケン。今後とも宜しくな」

　少女はどうやら、超が付くくらいの、人見知り＆恥ずかしがりやのようだ。

　頬を赤く染め、消え入るような声で返事をしてくれる。

「……ありがと。……私、クラリス」

「おう、クラリス。俺、またどんどん手伝うぞ。だから、気軽に頼んでくれよ」

「…………うん」

　クラリスは、また「ぺこり」と頭を下げた。

　そしてすぐ顔をあげると、癒し系な最高の笑顔を披露してくれたのであった。