第14話 「ハーレムの真髄」

「ぎゃははははっ」

「は、腹がいてぇ!」

「冗談はよし子さん!」


 俺の名(仮名)を聞いたライカン達は全員、腹を抱えて笑っている。 


 しかし、クッカは「ムカッ」と来たようである。

 彼女にとっては『郷愁マン』という名前に、相当な思い入れがあるようだ。


「こらぁ! ふるさとを守る郷愁マンを馬鹿にするなよぉ! 田舎はなぁ、のんびりしていて、最高なんだぞぉ!」


 俺の声帯を使い、ムキになって反論するクッカ。

 おお、何故か、凄く気持ち入っているなぁ……意外だ。


 一方、ライカンは馬鹿にしたように「ふん」と鼻を鳴らす。


「くくく! 確かにな、お前の言う通り田舎は最高かもしれねぇ! この先の村は特に最高らしいぞ」


 え? 子の先ってボヌール村の事?

 あの村が、特に最高?

 こいつこそ、何言ってんだろう?

 と思ってたらライカンが補足説明をしてくれた。


「俺がある筋から仕入れた情報によると、な。村にはすっげぇ美少女がわんさか居るそうだ。俺は、な! ぜひハーレムって奴を作ってみたいんだ」


 は!?

 ボヌール村は、美少女ばっかり?

 確かにリゼットは超美少女だが……

 他にもいっぱい居るんだ? 美少女。

 

 俺は夕方遅くに村へ入ったから、村民を全員紹介されていない。

 明日のお楽しみにしておこう!

 って……ハーレム?


「ハ、ハーレムって……どうやって作るのかなぁ?」


 俺は、思わずライカンに聞いてしまった。

 

 どうしてって?

 そりゃ、可愛い女子の攻略作戦をどうするか?

 興味があるからに決まっている。

 ラノベでは、ハーレムって、お約束の世界だもの。


 しかし俺の質問は、全く違う意味で、ライカンに受け取られたようだ。


「そりゃ、ハーレム作るには邪魔な男どもとジジイ、ババァ達を皆殺しに決まっているだろう? その後、美少女だけを無理矢理Hしまくる! うひゃははは!」


 皆殺し!?

 無理矢理Hしまくる?

 こ、こいつぅ!


 ……そんなのは、ハーレムじゃない!

 俺が思うに、ハーレムとは『ピュアな愛』があるべきなんだ。

 

 確かに、ハーレム大好き! なんて言ったら、大抵の女性はドン引きする。

 だけど、男の身勝手な願望とはいえ……ハーレムには夢がある。

 否! なくてはならない。

 嫁にする女性達が、全員優しく愛され喜びを感じるような形の愛の巣!

 それこそが、ハーレムの真髄だろう。


「この野郎!」


 頭に来た俺は、思わずライカンを睨みつけた。

 しかし、ライカンは相変わらずせせら笑う。


「お前だって、その口でこの地方へ来たんだろう? そんな黒ずくめで凶悪そうな、魔王様の手下みたいな恰好しやがって!」 


 黒ずくめの?

 魔王の手下みたいな恰好?


 ああ、そうだった。

 今の俺の出で立ちは確かに、怪しく不気味な黒ずくめだが。

 うむむ……魔王の手下って、強いのか、弱いのか、例えが分からん!

 褒められてはいないだろうが、微妙な表現だ。


 それに魔王軍?

 やっぱり魔王軍って言ったな?

 何故、魔王軍がこんな辺境に現れるんだよ。


 つらつらと、考え込む俺に向かって、ライカンは邪悪な笑みを浮かべる。


「ちなみに俺は魔王軍のエリート大幹部だけどよぉ、おめぇは全然見ない顔だな」


「…………」


「まあ、どっちにしてもハーレムの王は昔からひとりだって決まってる。俺が村を乗っ取ってハーレムの王になる! お前は……邪魔者なんだよぉ!」


 ライカンはそう言うと、いきなり大きな拳で殴って来た。

 「ごおおっ」って音が聞こえそうなパンチだ。


「わひゃははは! 熊も即死する俺の拳を受けて死ねぇ!!!」


「しまったぁ!」


 いきなりの奇襲だから、俺はライカンの拳を避けられない。

 本能的に片手を出して相手の拳を止めようとした、その瞬間であった。


 ぺちん!


 可愛い音がして、奴のでっかい拳を俺の平凡な手のひらがあっさりと受け止めてしまったのである。


「は!?」


 一瞬、場の空気が凍りつく。

 ライカン本人は勿論、配下の男達は目を丸くした。

 何が起こっているのか、理解出来ないといった表情だ。


『べ~っだ! お前達、雑魚なんて、レベル99のケン様に敵うわけがないわよ』


 クッカの、勝ち誇る声が聞こえる。

 さっき散々笑われたから、すっごく怒っている。


 でも、クッカにそう言われたら俺は勇気百倍!

 じゃあ、遠慮なくお返しだ。

 呆然としている、ライカンの顔面を殴ってやった。

 

 ばぐっ!


「ぎゃうっ!」


「ああ、ライカン様ぁ」

「馬鹿な!」


 うっわ!

 俺が殴ったライカンが、軽々と吹っ飛んで倒れ込む。

 だけど致命傷ではなかったらしく、暫くすると頭を振りながら立ち上がった。


 見ると……

 ライカンの顔の真ん中が、見事にへこんでいる?

 やり過ぎ?


 しかし、俺の心配は杞憂に終わる。

 ライカンが「ぶるぶる」と首を横に振ると、奴の顔は元通りになってしまったからだ。


「てて、てめぇ! もう許さん! 本気出すぞ~」


 ライカンはそう言うと、全身に力を入れた。

 「むきっ」と音が聞こえそうな、筋肉の盛り上がり方である。


 え?

 何か、奴からおぞましい気配が伝わってくるんですけど!

 あらぁ!

 目の前の男の全身から、ふっとい毛が生えてくるよ~。

 こいつ、何者だ?


 俺の意を受けたクッカが機械音声的な声で解説する。


狼男ワーウルフ。変身系で半魔の人型魔物ヒューマノイド。体長1m70cm~2m前後。性格は残忍で陰険。鋭い爪と牙、そして並外れたパワーが武器』


 ここで、クッカは「ふう」と息を吐く。


『肉食。目の前の個体は特に人間の美少女を好む。つまりスケベで悪魔、鬼畜、女の敵。だけどこいつみたいな不細工筋肉男はハーレム無理! 到底無理、100%超無理無理無理!!! はぁはぁはぁ……ええっと、身体耐久力強し。当然物理攻撃にも強い。 魔法耐性は普通。狼形態に変身後は能力が一気に10倍となる」


 何か……情報が順不同になっているし、すっげぇ個人的好みというか、見解が入っているし……


『クッカ! 何か、こいつ強そうだけど、俺勝てる?』


『ノープロブレム! 俺より強い奴はこの世界には居な~い!』


 ………クッカ、お前ノリノリだね。

 どこかで聞いた事のある、それって、誰の口調だよ!


『ケン様、こんな最低最悪男、さくっと倒しちゃいましょう!』


 また、口調が変わった。

 いきなりの女神モード?

 じゃあクッカの言う事を信じようか、レベル99最強の俺としては!


「ぐあおおおっ!!!」


 ライカン=狼男は「かああっ」と口を開いた。

 俺を噛み砕こうという、デモンストレーションだろう。

 真っ赤な口が、耳まで裂けている。


「がはは! 散々エッチしてハーレム飽きたら、村の美少女丸ごと喰う! これ、狼のお約束ぅ!」 


 え?

 美少女を……喰う?

 何だとぉ!


 ふざけるな!

 赤頭巾ちゃんの狼か、お前は!

 こんな奴にリゼット達を『色々な意味で喰われて』たまるか!

 

 何か急に使命感が湧き上がって来た。

 そうだ!

 俺はクッカの言う通り……『ふるさと勇者』として村を守る為に、このような『悪』を倒すのだ!


「さあて、そろそろ死ねや餓鬼。ひよわなお前など、俺の牙と爪であっという間に殺してやるぅ!」


 ライカンは更に、牙をむき出しに。

 鋭そうな爪が生えた手も「ひらひら」させた。

 

 ふ~ん、俺を威嚇してるの?

 しかし……こいつの実力は、もう完全に見切った気がする。

 その証拠に、俺は全然、怖くない。


「何言ってる、腐れ狼め。お前みたいな、ハーレムの真髄を理解しない奴こそ……死ね」


「うがあああああっ! 餓鬼、死ねや~っ!!!」


 俺は牙をむいて飛び掛って来た狼男ライカンを避け、黒い魔剣を振るって軽く一刀両断にしてやる。


「そんなクソ緩い攻撃、ほいっとかわして、悪・即・斬!!!」


「ぎゃ~ん!!!」


 文字通り、瞬殺!

 「どばばっ」と派手に血が飛び散ったので、俺は「さっ」と避けた。

 

 哀れ……じゃないけど。

 ライカンと呼ばれた狼男は、まっぷたつな『何とかの開き』状態になった。


「あああ、ラ、ライカン様があっさりやられたぞ!」

「こ、この人間めぇ! か、仇を討て! 畜生!」


 リーダーが簡単にやられて慌てたライカンの配下共も変身して向かって来たので、さっきと違って手加減なしの怒りを込めた拳をぶちかましてやる。


 どぐしゃ!

 ぐちゃ!


 リーダーがそんな程度の強さだから、配下の力などたかが知れていた。

 俺の拳の渾身の一撃に、狼男共の顔は粉々に砕け散ったのだ。


 こうして……

 

 俺は『ふるさと勇者』の初仕事として狼男共を退治し、ボヌール村を魔王軍の危機? から救ったのであった。

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