第53話 サトウ

JASA「はやふさ9号搭載の人工知能に会話機能はありませんが。」


JASAの担当オペレーターの話では、この人工知能は会話できないという。

ただ人工知能はモジュール移動などのタイミングで文字メッセージは送ってくる。

それは定型文の組み合わせであり、会話とまでは言えない。

定型文では連絡事項の伝達は出来るが決して複雑な日常会話にはならない。

豆腐小僧は会話が出来ない?

全く信じられないのでノートPCの全データを地球に送って調べてもらった。

本来プライバシーがあるので俺の承諾が無いと、このデータは送信されない。

しかし、この際、そんなことは言っていられない。

全データを送信した。

このノートPCには豆腐小僧と俺の7年間もの(会話)データが残っている。

他にも俺がPC上でどんなことをしたか、全データを送った。

(モジュールの乗り換え時には新しいノートPCは古いデータを引き継いでいる)

4時間後にJASA(日本航空宇宙局)サトウ所長が音声通信をしてきた。


サトウ所長「急いでノートPCのデータの概要を調べたよ。」

俺「どうです?会話してるでしょう?」

サトウ所長「いや、人工知能と君は会話していない。」

俺「ファミレスの話とかホームズの話とか、あったでしょう?」

サトウ所長「あった。それはデータに残っている。」

俺「じゃあ会話してるじゃないですか。」

サトウ所長「人工知能と君は会話していないんだ。」

俺「じゃあ、なにを・・」

サトウ所長「テキスト入力記録では君自身が人工知能の文章をタイプしている。」

俺「俺が?・・」

サトウ所長「誤字修正の情報からも人間がタイプしているとしか考えられない。」

俺「この探査機に、人間は俺ひとり・・」

サトウ所長「そうだ。君がひとり二役で人工知能との会話を作っていたんだ。」

俺「俺が。・・・ひとりで・・」

サトウ所長「ああ、君がひとりで創作し、会話を成立させていた。」

俺「人工知能が会話機能を学習した可能性は?」

サトウ所長「ない。搭載の人工知能は、ただ生命維持と航行管理をするだけだ。」


所長の話では人工知能はエンジンなどに個別に付いているという。

それぞれの人工知能は親指の先ほどのサイズで会話する機能は無い。

トラブル情報などをノートPCに文字表示するが日常会話は出来ない。

事故などの緊急時には軌道計算をして自動回避するが、人間のような思考はしない。


俺「じゃあ、あの白い豆腐のような人工知能は何をしてるんですか?」

サトウ所長「白い豆腐?」

俺「この土壁の裏にある大きな白い人工知能のことです!」

サトウ所長「それは公開情報だね。」

俺「はい、ネット情報で画像も見ました。」

サトウ所長「直前で取りやめたんだよ。」

俺「は?」

サトウ所長「人間と会話するだけの、白い人工知能を乗せるのは取りやめた。」

俺「あの大きな豆腐は会話するためだけのもの・・」

サトウ所長「そう。違和感なく会話するためには、あの大きさになってしまう。」

俺「大きすぎて直前に探査機に乗せるのを、あきらめたと?」

サトウ所長「そうだ。事前の公開情報にはあるが、実際は白い豆腐は乗せてない。」

俺「乗せてない・・・」

サトウ所長「全モジュールに白い豆腐は乗せてない。だから会話は出来ないんだ。」


俺は土壁を足で蹴って壊し始めていた。



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