第42話 噴射孔
火薬を製造し始めてから1年が経過した。
通常数年かかる火薬づくりだが、特殊バクテリアのおかげで1年で出来た。
これは宇宙ステーションのラボの実験結果とも符合する。
これから6か月かけて地球方向へ推進して救助船を捕まえる。
食糧はギリギリだが大丈夫だ。
人工知能「はやふさ9」と詳細について確認した。
俺「火薬の量は足りる?」
CPU「はい、途中まで来ている救助船を捕まえられます。」
俺「なるほど、ウン・パルスエンジンは高性能だな。」
CPU「はい、大量のウンウン使いましたから。」
俺「俺は今、ご飯食べてるんだが。」
CPU「すいません。」
俺「それで手順は?」
CPU「4個の火薬玉が用意出来ました。」
俺「4個か。」
CPU「それを1個づつ点火します。」
俺「どうやって?」
CPU「まず、アームでイオンエンジンの噴射孔へセットします。」
俺「荷電流で点火か。」
CPU「はい。少々荒っぽいですが。」
俺「噴射孔は壊れないかな?」
CPU「はい、爆発で壊れます。」
俺「あちらのモジュール6の噴射孔を使い捨てか。」
CPU「仕方ありません。」
俺「加速しすぎることは無いかな?」
CPU「火薬玉2個で推進して加速、残りの2個で減速して停止します。」
俺「なるほど、そうすれば救助船とランデブーできそうだ。」
CPU「はい。ランデブー&ドッキングすれば我々の勝ちです。」
俺「勝ちってなんだよ。どうせ撤退戦じゃねーか。」
CPU「いえ、あなたの命が助かれば、と思って。」
俺「あ、悪かったな、責めてるわけじゃ無いんだ。」
CPU「・・・」
俺「加速は強い衝撃なのか?」
CPU「はい、緊急離脱と同じぐらいの衝撃はあります。」
俺「そうすると、俺はまた気を失って・・」
CPU「鼻血です。」
俺「ハハハ。」
CPU「・・・」
俺「本当の話なのかよ。」
CPU「はい。」
俺「アレさ、嫌なんだよ。背骨が折れそうになるから。」
CPU「それをあと4回です。」
これから向こうのモジュール6で火薬玉を大爆発させる。
噴射孔が吹き飛ぶぐらいだからモジュールのフレームも壊れるだろう。
4度も爆発させればモジュール6は無事ではすまない。
モジュール6はシールドとして使い切る。
こちらのモジュール8への被害を最小にするため仕方ないが。
火薬を取り出す際には、モジュール6へ大穴を開ける。
もう修復資材が足りない。
大穴を修理できないので、緊急避難場所としては使えなくなるな。
今回も、やはり後戻りできないミッションだ。
一度火薬で加速したら、最後までやり切るしか帰還方法は無い。
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