⑪<少女8> 『宝の地図』


⑭【ソフィア】


「ねー、まだぁ?」


「まだー!」

 じょろじょろとマシューの出す物音がだけが洞窟に響き渡る。

 誰も困らないんだからその辺ですればいいのに、マシューは広場の外ですると言って譲らなかった。

 けれども怖いから私について来てもらいたいんだって。

 おかげで、こうして弟がオシッコする姿を後ろから眺めるはめになってしまった。

 恐がりなんだから大人しく広場の中でしなさいよ。背中を守るためかしらないけど、お気に入りのバッグも背負ってるし


「終わったら、ここから無事に戻る方法考えないとなぁ……」


「何か言ったー?」


「何も言ってないー!」

 最近独り言が増えてしまった気がする。前々からその兆候はあったけど、ここまで酷くはなかったと思う。マシューとかの前ならまだしも、王子様の前で、ついうっかり、考えていること話したら結構大変だと思う。主に私がだけど。


 そういえば、王子様はいつまで私たちの家に居てくれるんだろう。昨日は一泊すると言っていたから今日帰っちゃうのかな。


 寂しいな。もっと長く居てくれてもいいのに。

 帰るならせめてご挨拶しないと。


 ……ううん、それだと余計寂しくなっちゃうかも。それなら、いつの間にか帰っていた方がよっぽど傷が少ない気がする。


 ……うん。今日は夜まで帰らないようにしよう。

 そうしたら、王子様が居たときは嬉しいし、居なかったら居なかったで私の心はあきらめがつく。

 よしよし、今日の方針が決まっ――って遅い!


「ねぇ、まだ!?」


「もう終わったー!」

 じゃあとっととしまいなさいよ。そう思いながら弟の背中を見つめていると……それに気がついてしまった。


「ねー、マシュー。……アンタの背中、光ってない?」


「うん……おゎあ!? ホントだ!」

 正確には、背中に背負ったバッグの一部が青白く点滅しながら光っていた。

 マシューが慌てて中身を確認する。


「何を入れたのよ。輝苔でも入れた?」


「そんなの入れないよ! あ、これだ。……ってコレって!?」

 マシューが素っ頓狂な声を上げる。なによ、何が入っていたの?

 ガクガク震えるマシューに私も興味を示し、近づく。

 そして、マシューが手に持つそれに、私も気がついた。


「ね、ね、ねぇちゃん……コレって……」


「……た、た、た、大変!!」

 マシューが手に持っていたのは、妙に高そうな筒だった。

 オーレンさんがくれた筒。何も書かれていない宝の地図が入った筒。

 それが、青白く点滅していた。


「あ、開けて! マシュー、開けなさい!」


「い、嫌だ。ねぇちゃん開けてよ!」


「アンタが宝探しし始めたんでしょ! 男なら堂々と開けなさいよ」


「出た、こんな時だけ男なら、男なら。男も女も関係ないよ!」


「いいから開けろ!」

 私の活にしぶしぶ蓋を開け始めるマシュー。

 念のため、私は遠く離れたところからそれを見守る。


 ぽん、と音を立て蓋は開かれた。

 筒の中から光が溢れてくる。

 マシューが怖ず怖ずと中から地図を引っ張り出し、広げる。


「す、すっげぇ!」


「え、ホントに? え、何コレ?」


 それは立体的な地図だった。

 マシューの取り出した地図から光が上方に広がり、収縮する。それが立体となって青白く輝く、光の地図を作り上げていた。


「な、なんか中に赤く光る点があるよ! ……ほら、上のほう!」

 本当だ。なんか立体になった道が途中で止まってて、その真ん中で赤い光が点滅している。


「……マシュー! こ、こっち、見て! なんか青い点もある!」

 ずーっと下の方を見ると、青く点滅する光が見える。何コレ、何コレ、何コレ!?


「ね、ね、どっちかがお宝の場所かな?」

 マシューも興奮し鼻の穴が大きくなっている。


「私も思った! マシューちょっと動いてみて」

 私の言われたとおり、マシューが歩き、私はそれについて行きながら立体の地図を見つめる。


 ……青い点が、動いてる!


「分かった! これ、こっちの青い点が私たちよ。この地図が現在位置を示してるの!」


「じゃ、じゃあ……この赤い点は……」

 みなまで言うなよ弟よ。そんなの、決まってるじゃない。


「……お、た、か、ら……じゃない!?」


「っすっげぇええ!」

 二人で興奮し、飛び上がる私たち。


「で、でもなんで急に……僕、ここに来た時にこの地図見たよ」


「その時は何も無かったの?」

 うなずくマシュー。本当かな? だってあんなに分かりやすくバッグの中で光ってたのに。どんくさい弟だから見逃したってことも――


「ねえ、ところでずっと聞きたかったんだけど……」

 マシューがオドオドと尋ねてくる。


「どうかした?」


「その胸、どうしたの?」


「むね?」

 自分の胸元に視線を送ると……服の中で何かが黄色く点滅していた。

 服を通して、分かりやすく輝いている。


「ぬぁんじゃこりゃあ!?」


「気がついてなかったの!?」


「あ、あはは、そ、そんなぁ~まさかぁ~」


「だ、だよね。そんな分かりやすく光っていって!?」

 とりあえずマシューを叩いて、私は振り向き服に手を突っ込み胸元を漁る。


「やっぱり……これか」

 胸元から取り出したのは宝玉オーブだ。首飾りを首にかけて、宝玉オーブは服の中にしまっていた。その宝玉オーブが黄色く点滅を繰り返していた。


「なんなの? それ?」

 マシューがのぞき込んでくる。さっきメフィスが話していた説明では、宝玉オーブの話が出てこなかった。だから話してもなんの事かさっぱりだろう。私だって良く分かってないから、説明のしようがないし。


「悪の魔族の道具だよ。コレが敵の手に渡ったら……人間は滅亡する!」


「駄目じゃん! なんでそんなの持ってるの!?」


「それは……おねぇちゃんが正義の味方だからだ!」

 高笑いする私を尊敬の眼差しで見つめる弟。

 もっと、もっと私を崇めなさい!


 ……はっ!?

 ……な、何やってんだろ私。なんか急に落ち着いてしまった。

 落ち着いた途端、状況を把握でき、頭が回転していく。


「……この宝玉オーブ、魔力を回復したり増幅機能もあるって言ってた。良く分かんないけど、この地図、魔力で動いているんじゃない?」

 そう考えれば、マシューがここに来た時に反応していなかったことに説明がつく。

 私がここに辿り着いて、宝玉オーブが地図に反応した。だからこうして両方輝きだしたんだ。


「僕ちょっと離れてみるね。ソフィアは動かないでね」

 マシューが地図を持ちながら駆け出す。ほどなくして立体の地図がふっと消え去った。

 私の持つ宝玉オーブも輝きを失う。


「間違いなさそうね。この地図は宝玉オーブの力で動いている」


「ぼ、僕らって凄い発見したんじゃない!?」


「凄い発見なの! それでこの地図だけど……多分この洞窟の地図になっているんだと思う」

 なんかやけに入り組んでるし。立体で見なきゃ絶対たどり着けないような位置に赤い点滅があるし。


「じゃ、じゃあ……どうするの?」

 どうするの? はっ何を言ってるんだ弟よ。


「ここに地図があって、宝玉オーブもある。そしてお宝のある洞窟に、私たちは居る!」

 私の説明に、マシューは大きくうなずく。


「……だったら、やることは一つでしょ!?」


「冒険!」


「とーぜんよ! 冒険だ!」

 待ってなさい。まだ見ぬお宝! この私が絶対に見つけてあげるから!


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